036 いきなりの戦争
「多いな……」
冒険者ギルドには、ギルドの大きな建物の中にも入り切らないほど人が押し寄せていた。そのすべての人が剣や槍、杖などで武装している。これが王都の冒険者のすべてと言っても過言ではない数だ。
「朝っぱらから何だと思う?
「予行演習とかだったら、俺は支部長を殴るぜ」
「またぞろ森の魔物が悪さをしたかのう」
「お! 来たみたいだぜ」
ここにいる冒険者たちも何があったかは知らないみたいだ。
そして、その説明をするためだろう。いつか見た冒険者ギルドの支部長がギルドの建物から姿を現す。
「みんな、よく集まってくれた! 儂たちは、これから南門へと向かうことになる」
「南門?」
「支部長、何が起こってるんだ?」
「説明しろよ!」
「静かにせんか!」
一部の気の早い冒険者が騒ぎ出すが、支部長の一喝で静かになった。
「魔物だ! 魔物たちが軍を成して南門に集結している! 儂たちはすぐにでも打って出て、国軍が集まるまでの時間稼ぎをせねばならん! 行くぞ! 儂に続け!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」
一気にぶち上がる周りの冒険者たち。正直、朝からそのテンションにはついていけないが、自分を鼓舞するためにもオレも手を振り上げて叫んでいた。
「ヒイロ、魔物ってどういうことかしら?」
「わからん。しかし、拒否権はないみたいだ」
「魔物が軍を成す……。魔物と言えどもその多くは獣ですよね? そんなことがありえるのでしょうか?」
「エミリアは知らんのか?」
「オレにもわからん。シア、何か知ってるなら教えてくれないか?」
シアは意外そうな顔を浮かべると、すぐにその口を開いた。
「ヒイロも知らないのか?」
「あたしも知らないわよ!」
「ふむ。貴族の間でしか広まっていないのか? まぁいい。みんなは魔物と獣の違いを知っているか?」
魔物と獣の違い?
考えたこともなかったな。
「敵か味方か、か?」
「正解と言えば正解だが、正しくは少し違う。魔物とは、魔族が操れる獣のことだ」
「魔族……?」
魔族ねぇ。話には聞くが、実際に会ったことはない。人類の敵だし、今も人類と戦争中だが、オレとしてはあんまり実感はないのが本音だ。
「ヒイロ、不思議そうな顔をしているが、ゴブリンだって分類上は魔族だぞ?」
「そうなのか!?」
ゴブリンって魔族だったんだ……。まぁ、確かに陽と人型だし、魔族と呼べなくもない……のか?
「ヒイロの気持ちもわからなくもない。ゴブリンの魔物を操る能力は弱いからな。だが、そんなゴブリンだが、たまに変異種が生まれることがあるんだ」
「変異種?」
突然変異みたいなものだろうか?
「ああ。ホブゴブリンなんかがそうだな。これは個体としても強いし、その強さに応じて魔物を操る能力も強い。おそらく、今回の騒動の主犯だな」
「なるほど……」
今回の騒動はゴブリンが起こしたものかもしれないのか。そんな危険なゴブリンがいるなんて思いもしなかった。森で鉢合わせしなくてよかったな。
「そのホブゴブリンってそんなに強いの?」
「ゴブリンはその強さや特徴によって名前が変わるから面倒なんだが、国軍まで動員するほどとなるとかなりの強さだと思うぞ?」
「大丈夫でしょうか……?」
エミリアが不安そうな顔でアリューシアを見上げている。
「おそらく大丈夫だろう。国軍は北の前線に出陣しているから不安ではあるが、ここには高名な冒険者パーティがいる。例えば、有名どころでいくと『黒風』もいるし、『ドラゲキン』も、『石山石器』もいるじゃないか」
オレは知らないが、たぶん、名を呼ばれたのは有名な冒険者パーティなのだろう。アリューシアは周りを見渡してまるで彼らのファンのようにはしゃいでいた。
「それに支部長であるゴドン氏もいる。噂では、ゴブリンキングを倒した全盛期からまるで衰えていないとか。心配ないさ」
「そうなんだ……」
支部長って強そうだとは思ったけど、本当に強い人だったんだ。
「それに、悔しいが我々はまだブラックウッド級の冒険者だ。求められるものもそれ相応の物になるだろう」
「そうだよな」
まさか、いきなり敵将を討ち取ってこいとは言われないだろう。
南門の広場に着くと、いつもは屋台が犇めき合い、人々や馬車が往来しているというのに、今日は人っ子一人いなかった。一般人の立ち入りは規制されているのかもしれない。
いつもは開け放たれている跳ね橋が今日は閉められていた。魔物が入ってこないようにするためだろう。
そして、オレたち冒険者の到着を確認したのか、跳ね橋がどんどん下がっていく。
「始めに言っておく! 全員、命を惜しむなよ! この日のための冒険者だ! 我こそはという者は儂に付いて来い!」
どんどん下がっていく跳ね橋。その最前線で支部長が叫んでいる。
あの跳ね橋が下がったら、魔物の軍勢との戦争開始だ。
戦争?
そうか。オレは戦争をしているのか。
「行くぞ! 儂に続け!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」
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