030 フォレストウルフ
「ワアラフルーティゴーヤ、はい!」
後方でマリーの魔法が発動。水弾が一匹のフォレストウルフを迎え撃つ。これで、残り二体。
残念ながら、オレに襲いかかってくる二体のフォレストウルフを一気に対処する術はない。ここは怪我を覚悟で一帯を確実に屠るべきだ。
「せあっ!」
間合いを計って、真正面から飛び込んできたフォレストウルフに大剣を振り下ろす。
大剣はフォレストウルフの頭蓋骨をかち割り、その生命を終わらせる。
オレは残る一匹のフォレストウルフの突撃に対して全身の筋肉を硬直させて身構えた。
「GAU!」
オレの胴体に爪を立てて飛び込んでくるフォレストウルフ。
しかし、事前に力を入れて身構えていたのが良かったのか、オレは後ろに倒れることなくフォレストウルフの体当たりを耐え切った。
だが、そこでフォレストウルフが予想外の行動を取った。
そのままオレの足にでも噛み付くのかと思っていたのだが、なんとフォレストウルフはオレを無視してマリーとエミリアの方に向かったのだ。
そこには徹底して弱い者を狙うという思考がある気がした。
「やば!?」
オレは慌てて振り返り、フォレストウルフを追いかける。敵を素通りさせる前衛などクソの役にも立たない。
目の前には、エミリアに飛びかかるフォレストウルフの姿が見えた。
「えい!」
エミリアが杖を振ってフォレストウルフを打ち据える。
地に落ちるフォレストウルフ。だが、今度はマリーに噛み付こうと走る。
「させません!」
巧みに杖を振り、フォレストウルフの進路を妨害するエミリア。
オレはやっとフォレストウルフに追いつき、後ろからフォレストウルフを斬り伏せた。
「はぁ……。すまん、大丈夫か?」
「はい」
「エミリアが守ってくれたから大丈夫よ!」
「よし」
オレ自身、課題の残る戦闘だったが、いちいちくよくよしていられない。
今度は前衛に残したアリューシアの援護をしなければ!
「シア!」
アリューシアに視線を向けると、フォレストウルフを突きで仕留めているところだった。
オレの視界には他にフォレストウルフはいない。
「シア、そっちはどうだ?」
「これが最後の一匹だったようだ」
ブンッと片手剣を振るアリューシア。地面には血が弧を描く。
アリューシアの傍には、二匹のフォレストウルフが転がっていた。こちらには計五体のフォレストウルフが転がっている。六匹かと思ったらどうやら七匹の群れだったらしい。
「これはどうするんだ? こんなにたくさん持って帰れないが?」
アリューシアの疑問に答えるようにオレは口を開く。
「フォレストウルフの討伐証明は右耳だから、右耳を切り取ればいい。あとは皮も持ちかえれば売れるが……剥ぐ時間はないな。血の臭いで他の魔物に襲われそうだ」
辺りには濃い血の臭いが漂っている。こんな所にいたら、他の魔物に気付かれてしまうだろう。
「残念だが、そうもいかんらしいぞ?」
アリューシアがまた腰の剣を抜きながら鋭い声で言う。その目は一方向を見定めていた。
その視線の先には、黒くて大きな影がある。
あれは……!
「え? また魔物?」
「ツインヘッドベアだ!」
マリーに怒鳴って返すと、ついにその影が姿を現す。
漆黒というよりも茶色がかった毛並みにずんぐりとした体。それだけなら普通の熊と変わらないが、何と言っても特徴的なのはその二つの頭だ。二つの頭は明確にオレたちを敵視している。
その時、戦闘態勢に入ったのか、ツインヘッドベアが二本足で立ち上がる。その高さは二メートルを優に超えた。
こんなバケモノと戦うのか……?
戦う前から繊維が挫けそうだ。
震えそうになる体を無理やり意志の力でねじ伏せ、オレは大剣を構えた。
「やるの!?」
「やるぞ! オレたちなら勝てる!」
マリーの悲鳴に怒鳴るように返すと、オレは一歩ツインヘッドベアに歩み寄る。
その時、オレの横を駆けて行く馬の頭の被り物が目に入った。
「ここは任せろ」
アリューシアだ。アリューシアがツインヘッドベアに向けて駆けて行く。そして、ツインヘッドベアの右に陣取った。
ツインヘッドベアがアリューシアに向き直る。
オレはすぐにアリューシアの意図を汲んで動き出す。
素早く、しかし、足音は立てずにツインヘッドベアの背後に移動する。
そして、ツインヘッドベアがアリューシアにのしかかろうとしたその瞬間――――!
「であッ!」
オレは真上に大きく振りかぶった大剣を思い切りツインヘッドベアの右脚の付け根に叩き込む。
「GUGA!?」
突如ツインヘッドベアを襲った知覚外の一撃。これには驚いたのか、ツインヘッドベアがこちらを向く。
「やあ!」
その瞬間、アリューシアの裂帛の一撃が放たれる。その向かう先は、やはりツインヘッドベアの足だ。
まずはツインヘッドベアの動きと留める。オレとアリューシアに共通する狙いだ。もしかしたら、オレがツインヘッドベアの足を攻撃したのを見て、アリューシアがオレの意図を汲んでくれたのかもしれない。
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