025 買い物と本物の魔法使い
そこはザ・魔法使いのお店という感じの王都の雰囲気からは外れた店構えをしていた。
他の建物の多くが石造りなのに対して、木造建築だ。しかも広い庭があり、さまざまな花が咲いているし、なんなら蝶まで飛んでいる。
店の中には魔法使いの杖やらローブがずらりと飾られており、お香も焚かれているのか、独特の雰囲気のお店だ。
「おや、新規のお客様とは珍しい」
そう言って現れたのは、腰の曲がった老婆だった。咄嗟に魔女という言葉が浮かんだ。
「ここは魔法使い用の装備屋で間違いないか?」
「さあ、どうかね。選ぶのは装備だから」
「はい?」
変なことを言うお婆さんだ。
装備が人を選ぶ? どういうことだろう?
「そこのお嬢ちゃんが魔法使いだね? 付いておいで」
「え? うん」
お婆さんの後についていくマリー。
その時、不思議なことが起こった。
飾られたローブたちが一斉に勝手にパタパタと揺れ始めたのだ。風でも吹いていれば納得できたが、店の中は無風だ。どうなってるんだ?
「こりゃすごいね。みんなお嬢ちゃんに着て欲しいって言ってるよ」
「え? そうなの?」
そういう演出なのかな?
「魔力の動きはありません。どうなっているのでしょう?」
「そうなの?」
「はい。私にはさっぱりわかりません」
エミリアにもわからないみたいだ。本当にどういう原理なんだろう?
「先に杖を選ぼうかね」
「はい!」
お婆さんとマリーが壁に飾られた杖の方に行くと、今度はなにも起こることはなく、シンと静まり返っていた。
「おや? これは……」
お婆さんが何か呟くと、店の奥から何かがぶつかるようなゴツゴツと物音が聞こえる。
「ちょいとお待ち」
店の奥に下がる老婆。しばらくすると、まるで装飾品ケースのような古びたビロードの箱を二つ持って帰ってきた。ゴツゴツという音は、どうやらこの中から聞こえるらしい。
「開けてみな」
「え? うん……」
ひとりでにゴツゴツ鳴る箱を開けるのは勇気が必要なのか、マリーは恐る恐る一つ目の箱を開ける。
「え!?」
すると、中から飛び出てきたのは炎を思わせる赤い宝石の付いた腕輪だった。優美な彫刻が施された逸品だ。腕輪はひとりでにマリーの右腕に装着される。
「え? これ、取れないんだけど!?」
「まさか、この腕輪の持ち主が現れるとはねえ……」
マリーの悲鳴を無視して、お婆さんが感慨深そうに深く頷いていた。
「これってマリーがあの腕輪に選ばれたってことか?」
「そうだと思います」
「杖ではなく腕輪に選ばれたのか? 魔法使いといえば杖だと思うのだが?」
オレにもなんとなくそんなイメージがある。だが、選ばれてしまったのだから仕方がないという解釈もできた。
いや、すべてはこの婆さんがオレたちに高額商品を売りつけようとしているお芝居な可能性はあるが。
あの金色の腕輪。髙そうだもんなぁ。
マリーは金色の腕輪を装備したというのにもう一つの箱がガタガタと震えている。まだ何かあるのか?
「こっちの箱も開けな。反対の腕でね」
「え? うん……」
マリーがお婆さんに言われた通りにすると、今度は海を思わせる青い宝石の付いた銀色の腕輪が飛び出し、マリーの左腕にするりと装備された。
「今度は何よ!? また腕輪!? これも取れないし!」
「お嬢ちゃん、あんた火と水の魔法を使えるね?」
「え? そうだけど、よくわかったわね」
「これは火の魔法と水の魔法を強化してくれる腕輪だよ。滅多にない物だから大切にしな」
「そうなの?」
「まさか本物の魔法使いがまだ残ってるとはねえ。長生きはするもんだ」
「どういうこと?」
「ちょっと待ってな。あんたに渡したいものがある」
マリーがよくわからないと首を傾げていると、お婆ちゃんはまた店の奥に行ってしまう。
しばらくすると、老婆が返ってくる。その手にはなにやら古い箱を持っていた。
「あんたにはこれがいいだろう」
そう言って箱を開ける老婆。中から出てきたのは、赤と青の綺麗な刺繍が施されたマリーが普段着ている晴れ着をもっと豪華にした感じの服だった。
「晴れ着に似てる?」
そう思ったのはオレだけではなかったようで、マリーも首を傾げている。
「正確には、この服を模して晴れ着を作ったのさ。言わば、晴れ着のご先祖様だねえ。名をリアリーエイク。今は失われた技術で作られた、古代の巫女装束さね」
「リアリーエイク……」
「奥を貸してあげよう。着替えておいで」
「あ、はい」
有無を言わせない勢いでマリーを店の奥へと押しやる老婆。
オレはマリーがいなくなってから老婆に近づく。
「あの、店主? 装備を見繕ってもらって悪いんだが、オレたちはあんまりお金を持っているわけじゃないんだ。せっかく出してもらって悪いが、おそらく払えない……」
「ふんっ。あたしゃ金のために店をやってるんじゃないんだ。今回はお代はけっこうだよ」
「え!? いいのか?」
「ああ。本物の魔法使いなんて久しく見てなかったからね」
老婆が度々口にする本物の魔法使いという言葉。偽物の魔法使いがいるんだろうか?
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