024 日課と買い物
翌朝。
「はぁー……」
牛小屋で目を覚ますと、安い作りの天井が見える。
「よっと」
起き上がると。どうやらみんなまだ寝ているようだ。早く起き過ぎたな。隣を見ると、マリーがだらしない顔をさらして寝ている。その横には――――!
「んっ!?」
そこには白くてしなやかな足があった。アリューシアだ。アリューシアは意外にも寝相が悪いのか、黒色のネグリジェがまくり上がって白い足が丸見えになっている。
なんだか朝からいけないものを見てしまった気分だ。
オレはアリューシアの足から視線を逸らすと、藁の上で立ち上がる。これから朝の日課の時間だ。
「うしっ」
背中に大剣を背負うと、オレは牛小屋を出て牛小屋の前に大剣を抜く。
カチャリと留め金が外れる大剣を構えた。まずは素振りからだ。
ブオン、ブオン、と鈍く風を切りながら大剣を振るう。この時、速く振ることを意識しない。むしろ正確に振ることを意識する。
馬車での移動中に騎士の人に教えてもらったが、人の体というのは正確に動けているようでムラがある。一番わかりやすかったのは、包丁を思いっ切り食材に叩きつけた時だった。狙いを付けた場所よりもかなり外れた位置に包丁が落ちたのだ。
長さの短い包丁でもそれだけのズレがある。じゃあ、それよりも長い刀身を持つ大剣の刃先のズレはどのくらいになるだろう。
素振りとは、ただ単に剣を振ればいいだけという訓練じゃない。ちゃんと狙った所に剣を振れているかを確認する大事な作業だ。それを疎かにするわけにはいかない。
何事も基本が大事というけど、それは武術にとってもそうらしい。
そう気が付いてからは、オレは毎朝大剣を振っている。
大剣は大質量武器だ。ただ振っているだけでも疲れるし、汗が滝のように出てくる。筋トレにもなってちょうどいいね。
今思えば、レベル2でステータスマックスになった時のオレの動きは荒かった。それは圧倒的なステータスに振り回されていたのだろう。基本がなっていなかった。その圧倒的なステータスに溺れていたのだ。
それでも魔獣に勝てたのは、魔獣よりもステータスが勝っていたからに過ぎない。決して技術的にすぐれているわけではないんだ。
「ふぅ……ふぅ……」
唐竹割り三十回、袈裟斬り三十回、逆袈裟三十回、右一文字三十回、左一文字三十回、左袈裟斬り三十回、左逆袈裟三十回、刺突三十回。基本の振り方八種をそれぞれ三十回ずつ。それだけでもう体はへとへとだ。手の平のマメが潰れて痛いし、腰も重い。
でも、これも強くなるため、生き残るためだ。疎かにはできない。
「明日から数を四十に増やすか」
最初は大剣を十回振るだけでもへとへとだった。でも、今は二百四十回も振れるようになっている。あまり強くなった実感はないけど、確かな成長だ。このままがんばっていきたい。
「さて、そろそろみんなを起こすか」
◇
「今日は買い物に行くぞ!」
恒例となった屋台で朝食を食べている時、オレは宣言する。
「買い物! いいじゃない!」
真っ先に喰い付いて来たのはマリーだった。
「買い物と言われましても、何を買われるのですか?」
「オレとマリーとエミリアの装備とかかな。シアは装備完璧だし」
「まあな。私物をほぼ売って作ったが、私は満足している」
アリューシア……私物をほぼ売ってまで装備を作ったのか……。何がそこまで彼女を魔王討伐に駆り立てるのだろう?
「私も修道服と杖があるので――――」
「それだけじゃ不安だ。中に鎖帷子くらい着ないとダメだろ。矢とか飛んでくるしな」
今はまだ出会ったことないが、今後は魔法を使う敵だってありえる。防御力は上げておいて損はない。
「そんなわけで、今日は午前中は装備を買って、午後は教会に借家を見に行きます」
「えー。もっとかわいいの見ようよ!」
「いいかい、マリー。かわいいは正義かもしれないが、力ない正義は淘汰されてしまうんだ。だから、まずは強くならないと」
「う、うん?」
そんなわけで、朝食が終わればすぐに装備屋へと向かう。
とはいえ、そもそも装備屋がどこにあるのかオレたちは知らなかった。
そこで、始めにアリューシアが贔屓にしている鍛冶屋に向かったのだが、さすが侯爵家ご令嬢の贔屓にしている店だけあって値段が高い。まぁ、品質は確かなのだろうが……。それにしても高い。
だが、安物買いの銭失いなんて言葉もある。できる限りいいものを買いたいところだが、お金が足りるだろうか?
結局そこではエミリアの鎖帷子だけ買った。
「あの、本当にこんなにいい物よろしいのでしょうか?」
「いいのいいの。お金なんかよりエミリアの命の方が大事だし」
「あ、ありがとうございますぅ」
エミリア、なんだか感動してる?
オレとしては当たり前のことを言っただけなのだが……。
「さて、次はマリーの装備を探してみるか」
「かわいいのでお願いね!」
かわいい装備ってあるんだろうか?
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