021 なにはともあれ宴だわい
「だから俺は言ってやったわけよ。俺の槍捌きを味わいやがれってな!」
「ガハハハハハハハハハ!」
「男ってこれだから……」
「知ってるのか? ソーセージマルメターノを!?」
「知ってるぜ。もしかして同郷か?」
相変わらず騒がしい冒険者ギルドに併設された食堂。
しかし、オレはそんな騒がしさなど気にならないくらい自分の手の平を見つめていた。
「金貨だ……」
オレの手の平の中には黄金に輝く金貨が乗っていた。ズシリと重く、存在感がある。これが金貨か。
「まだまだあるわよ!」
マリーが大きな革袋をドシンッとテーブルに置く。この中身は全部金貨だ。オレたちの狩ってきたルビースネークやジャイアントスパイダーだが、どうやらかなり高額で買い取ってもらえたらしい。
「一回の狩りでこんなに稼げるだなんて……。冒険者って儲かるのですね……」
エミリアも魂の抜けたような呆けた顔で大きな革袋を見ている。
「いや、今回が特別だよ。だから、お金は大切に使っていこう」
ゲームのバグによってレベル2でステータスマックスの最強状態になったオレだが、レベル3に上がって本来のステータスに戻ってしまった。これは一種のボーナスで、明日からまたゴブリン相手に銅貨を稼ぐ生活が待っているだろう。
だから、このお金は有効に使いたい。
「とりあえず、装備を整えるのが重要かもな」
「装備を?」
オレの言葉にマリーが疑問顔を浮かべる。
ゲーマーのオレからすれば、お金が手に入ったらまずは装備の強化だった。でも、マリーにとっては意外な意見だったらしい。
「オレたちは現状、冒険者として働いているだろ? そうじゃなくても最終目標は魔王を倒すことだ。装備の強化は必須だよ。装備を強化したら、もっと強くなれる。マリーの魔法だってもっと強くなるかもしれないぞ? そうじゃなくても撃てる数が増えるかもな」
「ふーん。なるほどね。あたしは家でも買うんじゃないかと思ってたわ」
「家?」
何で家を買うんだ? それこそ意味不明だ。
「いつまでも宿生活なわけにもいかないでしょ? 嫌よ、あたし、あんな所で生活するの。お金もかかるし。それならドーンと家でも買っちゃおうかと思ったのよ」
なるほどなぁ。まぁ、たしかに女の子にとっては辛い環境かもしれない。満足に着替えとかもできないもんな。
「でも、オレたちはいつまでも王都で生活するわけじゃないからなぁ」
こういうゲームでは、旅から旅へと移動し続けるのが鉄板だ。ゲームのタイトルからして『勇者の旅路』だしな。
「でしたら、借家というのはいかがですか?」
話を聞いていたエミリアがいいことを思い付いたと言わんばかりに明るい口調で言う。
「借家?」
「はい。教会では安く借家の斡旋もしてるのです。信者の方の中にはご自分の死後、家を寄進する方もいらっしゃるので」
「教会ってそんなこともしてるの!?」
マリーじゃないがオレも驚きだ。教会が商売のようなことをして大丈夫なのだろうか?
「はい。教会も運営するには資金が必要ですので。家は人が住まなくなれば急速に傷んでしまいますので、安く貸し出していますから、きっとご希望に沿った家も見つかると思います」
なんだか世知辛い話を聞いてしまったような気がした。
「まぁ、明日にでも教会に行ってみよう。それよりも今は食事だ。二人は何を食べる? 今日は何を食べてもいいぞ!」
「やった!」
「よろしいのですか?」
「節約ばっかりじゃ息が詰まるからな。たまの息抜きも必要だろ」
「じゃああたし、このムニエル!」
マリーはすっかり海の魚が好きになったようだな。
「いいね。オレは何にするかなぁ。ウサギの香草焼きにするか。エミリアはどうする?」
「私は……この野菜のスープを」
「そんな遠慮しないでいいって! そんなエミリアには子牛の煮込みだ!」
「え? あの……」
「よし決まったな。すみません、注文お願いします! ワインを三人分と、白身魚のムニエル、ウサギの香草焼き、あとは子牛の煮込みで!」
注文も終わり、食事を待つ時間。この時間が一番ソワソワする。日本みたいにメニューに食事の写真が載ってるわけじゃないから、どんなのかくるのか気になるんだよなぁ。
「ワインも頼んだの?」
「ああ。たまにはいいだろ? エミリアはワイン大丈夫だった?」
「初めて飲みますのでわかりません……」
エミリアが困った表情を浮かべていた。だが、その顔には隠し切れない好奇心が見える気がした。
「お待たせしました」
ウエイトレスのお姉さんがまず運んでくれたのは三人分のワインとムニエル、子牛の煮込みだった。どちらの料理もおいしそうだ。たぶん香草焼きは時間がかかるのだろう。
「おいしそう!」
「本当に食べてしまってもいいのでしょうか?」
「おいしいうちに遠慮なく食べてくれ。じゃあ……」
オレはマリーとエミリアにワインを配る。
「今日はお疲れ様でした」
「おつかれさまー!」
「お疲れ様でした」
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