020 ゴドンとローラ
それなりに大きな部屋。壁一面に本棚で埋め尽くされた執務室が冒険者ギルドの支部長の部屋だった。
大きな執務机の向こうには、スキンヘッドに刺青のある大男が窮屈そうに座っている。
この男が冒険者ギルドの支部長? 護衛の間違いだろ。
そう思うくらい大男の筋肉は発達し、オレなんかよりもよっぽど強そうだ。
そんな大男の斜め後ろには長い黒髪が綺麗な美人なお姉さんが立って控えている。こっちのお姉さんの方が本当の支部長なんじゃないかと思うくらい知的な雰囲気を纏っている。
大男? こっちは言うならゴリラのオーラを纏っているよ。話通じるかな?
「儂がこの冒険者ギルドで支部長をしておるゴドンだ。今日は訊きたいことがあってお前らを呼んだ。素直に答えろよ?」
そう言ってオレたちをジロリと睨むゴドンと名乗った男。
はい。もはや権力と暴力を滲ませた脅迫だよ、これ?
「わかりました」
べつにオレがパーティのリーダーってわけでもないけど、一応オレが勇者らしいし、オレが答えるか。
「このルビースネークの皮、誰に貰った?」
「貰った?」
何言ってるんだ、このゴリラ?
「これはオレたちが倒した――――」
「いいか? こいつはペーパー級が三人集まったところで倒せるような軟な魔物じゃねえ。それに、大怪我を負って弱っていたならともかく、こいつは皮に傷が一つもない。こんなの限られた冒険者しかできない所業だ。誰に貰った? もしかして、買ったのか?」
オレの言葉に被せるように否定するゴドン。
いや、普通に考えればたしかにそうかもしれないけど、レベル2のオレは最強だったんだってば! でも、オレはもうレベル3だ。証明する術がない。
「それに、ジャイアントスパイダーの牙も持って来たのか。あれもルビースネークには劣るがペーパー級が勝てるような魔物じゃないはずだ。ますます怪しい」
ゴドンが目録のようなものを見てオレたちをジロリと見る。
そんなに睨んだって事実は変わらないんだが……。
「それはオレたちが倒したものだ」
「だからだな――――」
「今日は調子がよかったんだ」
「はあ? ふざけてるのか!?」
真面目に答えてるのに、何で怒られなくちゃいけないんだ。
「まあまあゴドン支部長、本人もこう言っていることですし」
その時、それまで後ろに控えていた美人なお姉さんがゴドンを柔らかな口調で止めに入った。
「だが、こいつらはまだ冒険者としての経験が浅い。今のうちから変な冒険者と付き合っとるようなら縁を切らせなければならん!」
ゴドンもゴドンなりにオレたちのことを心配してくれていたのか。
まぁ、ゴドンから見れば、オレたちは分不相応な獲物を自分たちで狩ってきたと嘘を吐く冒険者なのだろう。
その裏で誰かが暗躍していると考えるのが通りなのかもしれない。
もしくは、オレたちが自分の功績にするために素材を買ったかだ。
まぁ、そんなことができる資金力などオレたちにはないんだが……。
「はぁ。今回ばかりは目を瞑ろう。だが、今回の功績として認めるのはゴブリンの耳だけだ。ルビースネークやジャイアントスパイダーの換金はするが、功績とは認めない。以上だ。下がれ」
「わかりました……」
まぁ、オレたちも討伐難易度の高い魔物を倒せるだけの実力があると勘違いされるのも嫌だから、ここは引き下がろう。
位打ちではないが、分不相応な冒険者ランクになっても困るだけだろうし。
「じゃあ、失礼します」
そうして、オレたちは支部長の部屋を後にし、想像以上に大量の討伐報酬を手に入れることができたのだった。
◇
「はぁ……」
儂はゴドン。サウスティ王国の王都で支部長をしている者だ。
今しがた不審なところがあるペーパー級冒険者を締め上げてみたのだが、なにも出なかった。
「抗弁しませんでしたね」
儂の後ろに控える副支部長のローラが不思議そうな声を出す。
「そうだな。いったい何が目的だったんだ?」
あの少年は、自分たちで戦ったと言っていた。その目に嘘はなかったと思う。
命懸けで戦って得た功績を疑われて理不尽に剥奪されれば抗弁しそうなものだが……。やはり、奴らの後ろに誰かいるのか?
「あの噂のせいでしょうか……?」
噂。
今、王都の冒険者の中で秘かに流れている噂がある。
そのうちの一つに、優秀な冒険者を魔族との戦争の最前線に送るというものがあった。
それを警戒して、ベテランの冒険者が買い取りを初心者冒険者にやらせたのかもしれない。
「そうかもしれん……」
これでは冒険者の強さを計るランク制度が崩壊してしまう。
見たところ、先ほどの冒険者たちは装備が十分に整っていると言えない駆け出しの冒険者だ。そんな者たちが誤って高ランクとなれば……。待っているのは死しかない。
「何か対策を立てますか?」
「そうだな。不信がある場合は儂が直々に決定を下すことにする」
十分な対策とは言えないが、今はこれぐらいしか打てる手段がないのも事実だ。
「同様の手口が流行らなければよいが……」
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