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015 パンツさん改めエミリア

「あれ?」


 光の粒子が消えると、じくじくと痛んでいた頭や腕や腹からスッと痛みがなくなった。まるでガチの「痛いの痛いの飛んでいけ」のおまじないにでもかけられたような気分だ。


「痛くない……?」


 体を動かすが、どこも痛くはない。


「治癒魔法をかけました。これでもう安心ですよ」


 そう優しい声で話しかけてくれるパンツさん。


「傷は治りましたが、失った血までは回復しないので、しばらく横になっていかれるといいでしょう」


 そう言って、パンツさんが上下さかさまの姿のままハンカチで何かを拭く動作をする。


 顔に優しいガーゼの感触が走り、こびり付いていた血もすっかりなくなった。


「あら? このお顔……。あなたはもしや勇者様では?」

「え? 知ってるの?」


 勇者なんて恥ずかしくて名乗ったわけじゃないのに、なんでパンツさんは知ってるんだ?


「昨日、夢で見たのです。私がお仕えするべき方が現れると。あなたのことだったのですね」

「夢で……」


 夢で見たからってその人に仕えようなんてするものなのかな?


 もしかして、神様的サムシングの仕業か?


 それとも、これもゲームのストーリーなのだろうか?


「私はエミリアと申します。勇者様のお名前は?」

「ヒイロです」

「ヒイロ様、これからよろしくおねがいしますね」

「え?」


 これはいわゆる仲間になったってやつなのか?


 これからはパンツさん改めエミリアも行動を共にするのか……。


「様なんていらないよ。ただのヒイロでいい」

「そうそう。勇者って言ってもまだ何かすごいことやったわけじゃないしね。あたしはマリー。エミリア、よろしくね!」

「よろしくおねがいします」


 なんだかできすぎな展開に感じるが、エミリアが仲間になったみたいだ。


 それにしても、エミリアだが、たぶんバグで上下反転しているんだと思う。じゃなきゃ自分からパンツを見せびらかしている変態なのだが、周囲の反応を見るとどうも違うように思う。


 ちょっと惜しい気もするけど、このバグは早く直してしまおう。こんな格好で傍をうろつかれたら気が散って仕方がない。


「はぁ……」


 オレは右腕をエミリアに向ける。


「起動」


 右腕に填まった金色の六角ナットのような腕輪が光り出す。


 だが、腕輪が見えているのはオレだけのようで、誰も反応しない。


 腕輪から黒い鋭角な棘が生え、腕輪から文字化けした文字が帯が光線のように高速で発射された。文字化けの帯がエミリアに巻き付いていく。


 その時、エミリアは何かに気が付いたようにオレを振り返った。


 そして、次の瞬間にはすべて何事もなかったように文字化けの光線も腕輪の輝きも消える。そして、残ったのは上下が正常になったエミリアの姿だ。


 オレは初めてエミリアの顔をちゃんと見た気がする。少しあどけなさが残る銀髪ロングの少女だ。その青い瞳がオレをまっすぐ見ている。


「あの、ヒイロ? 今、私に何かしましたか?」


 もしかして、オレが腕輪を使ったことに気が付いているのか?


「何もしてないけど? どうかしたのか、エミリア?」

「いえ……。ただ神の気配を感じたと言いますか……」


 神の気配ねぇ。


 まぁ、普通に考えたらあの神様的サムシングのことだろう。やっぱり神様だったのか。


「怪我も治ったし、早く狩りに行かないと。今日の稼ぎがゼロになっちゃう。……あれ?」


 ベッドから立ち上がろうとすると、ふらりと体が倒れてエミリアに抱きとめられた。


「いけません。血を大量に失ったのです。今日はゆっくりお休みしてください」

「そうよ、エミリアの言う通りだわ! お願いだから休んでて? ね?」

「むぅ……」


 二人に言われてしまったらどうしようもないじゃないか。


 でも、オレの体もまだ不調みたいだし、今日は休みにしよう。


 本当は休んでいる暇もないほど家計は火の車なのだが、今日ばかりは仕方がない。


「わかった。休むことにするよ」


 オレはベッドに倒れるように横になった。



 ◇



 次の日。


 体調もだいぶ良くなり、オレは退院することになった。


 まぁ、病院じゃないから退院という言葉で合っているのかはわからない。だが、オレは教会を出ることにした。


 エミリアは教会に自分の部屋があるのらしくそこで眠っていたが、マリーはオレのベッドにもたれかかるように寝ていた。今朝も眠たそうにしていたし、マリーの体調の方がよっぽど心配である。


 オレは教会から出る時、修道士の人に呼び止められた。


「では、今回のお布施は銀貨十枚となります」

「金取るの!?」


 まさか、教会で金をとられるとは……。


 でも、怪我も治してもらったし、普通に一泊したにしてはずいぶん安い気がする。良心的な価格と言えば聞こえはいいが、オレたちにとって銀貨十枚は十分致命傷になりえる。


 でも、エミリアも仲間になった手前、払わないという選択肢はない。


「はい……」

「たしかに、銀貨十枚受け取りました」

「はぁ……」

「ヒイロ、おはようございます」

「あ、エミリア」


 治癒魔法が使えるエミリアが仲間になったのは大きい。そのためだけでも教会に来てよかった。


 もしかしたら、他にもいろんなところで仲間が増やせるのかもしれないな。

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