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012 飛べない豚はただの豚だ

「ぶーぶー」

「牛って言ってたよな……?」


 牛小屋の中に入ると、四頭の豚が遊園地で配られているような風船のように空を飛んでいた。しかもその中の一頭はまるでペンキをぶちまけられたように赤い。


 真紅の豚ってか? まぁ、飛んでいるからただの豚じゃないんだろう。


「立派な牛ね!」

「あ、やっぱり牛なんだ……」


 これもバグなのか……。まぁ、害はないし、腕輪を使うまでもないかな。


 でもなぁ。どうも腕輪の力を使うことをためらってしまう自分がいる。やっぱり一日一回しか使えないという制約は大きい。もっと致命的なバグがあるんじゃないかと警戒してしまって、使うに使えないんだ。


 でも、神様的サムシングはバグを直してほしいみたいなんだよなぁ。だったらなんで一日一回なんて制約を付けたんだろう? わけがわからない。


 まぁ明日もあるし、この空飛ぶ豚はこのままでいいや。


「じゃあ、ここで宿は決まったとして、今度は飯でも食いに行くか」

「賛成! でも、それだけじゃダメよ?」

「何かあるのか?」

「ほら、あたしたちずっと馬車で旅してきたし、今日も森を歩いて汗かいたし……」

「あぁ」


 そういえば、ずいぶん長い間ちゃんと風呂に入っていない。もちろんその間も体を拭いたりはしたけど、ここいらでさっぱりしたいところだ。


「銭湯とかあればいいんだけど……。探してみようか」

「うん!」

「そうと決まれば、さっそく行こう。まずは銭湯からだ」

「やった!」


 王都の道行く人に尋ねること四回。どうやら銭湯のような公衆浴場が意外と近くにあるらしい。中世ヨーロッパのような世界観のゲームかと思ったら、妙なところで日本的だ。いや、ローマにあったというテルマエという扱いなのかな?


「入浴料は一人銅貨八枚か。懐にも優しいな」


 意外にもリーズナブルな価格で銭湯に入ることができた。これなら毎日風呂に入れるだろう。やったぜ!


 石鹸は別売りらしく、一個銀貨一枚もしたが、これも必要経費だ。


「じゃあ、また後で」

「うん!」


 男湯と女湯が分かれているので、それぞれの入り口でマリーと別れる。


 服を脱ぎ、パンツも脱いで準備万全だ。


「これ、外れないんだよなぁ……」


 全裸になっても右腕に居座る金色の腕輪にがっかりする。


「まぁ、オレ以外には見えてないみたいだし、服を脱ぐ時も邪魔にならないからいいんだけどさ」


 この腕輪が本当に純金製だったら、どんなに王都での生活が楽になっていたか……。


 まぁ、考えても仕方ないんだけど。


「おぉ!」


 脱衣所から浴室に移動すると、感嘆の声が漏れる。入浴料が銅貨八枚だったからあまり期待してなかったのだが、小さいがちゃんと湯舟があるし、体を洗うスペースもある。日本の古き良き銭湯に近い形だ。違いと言えば、壁に富士山が書いてないくらいだろう。


「いい所見つけたな」


 たぶん毎日通うことになりそうだ。


「すごーい!」


 隣の女湯からマリーの大きな声が反響して聞こえてくる。イナカ村にはこんな施設なかったから驚いているのだろう。


 いきなり異世界に放り出されて、そして王都でも放り出されて、生きていけるのかさえ心配だったけどなんとかなりそうだ。



 ◇



「はーびばのんのん」


 久しぶりの風呂でさっぱりした後は、夕食である。


 食事を意識すると、ものすごくお腹が空いてきた。そういえば、今日はお昼食べてなかったな。


 もしかしたら、初めての王都でオレも興奮していたのかもしれない。


 宿は南門のすぐ近くにあるのだが、南門にある広場では、犇めき合うように屋台が軒を連ねている。もう日が沈んだ時間だというのに屋台が明るいのは魔法だろうか?


「王都名物ソーセージノバシターノはいらんかねー!」

「おっかあが作った特製ポトフだ!」

「黒パンはいかが? ウチは混ぜ物なしだよ!」

「王都と言えば魚だろ! 魚介のスープだ。飲め!」

「フライドポテトはいかがかな? ウチは三日に一回油を代えてるからうまいぜ!」

「働く男はポークビーンズ! これさえ食っとけば他になにもいらねえ!」


 活気があるなぁ。今から飯屋を探すのも面倒だし、今日は屋台で済ませちゃおうかな? 種類も豊富そうだし。


「マリー、今日は屋台でご飯を食べるのはどう?」

「いいわね! とってもいい匂いだもの!」


 マリーの了解を得て、オレたちはそのまま二人で屋台巡りをする。日本の縁日で見かけるような物もあれば、スープ料理など食事に重きを置いた屋台もある。


「マリーは決めた?」

「ええ。あたしはこれにするわ」


 マリーが選んだのは、黒パンと魚介のスープだった。


「海の魚ってどんな味がするのかしら?」


 イナカ村は内陸部にあったから海の魚には縁がなかった。好奇心旺盛なマリーとしては気になるのだろう。


「オレはこれにするよ」


 オレが選んだのは、ソーセージノバシターノとかいう名前のまっすぐなソーセージだ。その長さは三十センチを超えるほど長い。ノバシターノの名は伊達じゃないな!


 それからフライドポテト。これだけでは野菜がないので、後は適当に酢漬けの野菜を買った。


「「いただきまーす!」」


 オレたちは芝生の上に座って夕食を取り始めた。

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