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010 森で出会った子ども

「これが冒険者の証ねぇ……」


 オレの首元には、名前の書かれた羊皮紙を革紐で結んだ首飾りが揺れる。


 こんなチャチな作りだが、これが冒険者としての身分を証明してくれるらしい。


「ねえ、南門ってどっち?」


 マリーが道行くモヒカン頭の青年に道を尋ねている。


 冒険者ギルドの受付嬢さんの言葉を信じるなら、最近は王都の南の森でゴブリンが多数目撃されたらしい。それを狩りに行くのが今回の目的だ。


 オレにとっては初めての実戦になる。馬車での移動中、騎士たちに指導してもらったけど、やっぱり実戦は緊張する。


 というか、正直怖い。


 だって、相手はゴブリンだ。人型の魔物だよ? そんな生き物の命を奪うのが怖い。


 日本にいた頃には、生きてる魚の頭を落とす時も緊張したくらい小心者のオレだ。


 そんなオレに人型の生き物を殺すことができるだろうか?


「南門はこっちだって。行こ!」

「う、うん……」


 マリーに手を握られて、オレは南門から王都の外に出た。急に空が広くなって、草の緑の香りがする。


「こっちよ」


 森は王都を出て右側に広がっていた。


 なんで王都を出たすぐのところに森があるんだろうね?


 ゴブリンが住み着いたりするからバッサリ木を切っちゃえばいいのに。


 あれかな? 木材や薪を手に入れるためにわざと残しているんだろうか?


 そんなことを考えていると、すぐに森の入り口にたどり着いた。里山みたいに手入れをされているのか、歩きやすい。木漏れ日がチカチカ眩しい。


「ゴブリンってどこにいるのかしら?」

「やっぱり森の奥の方なんじゃない? 行ってみよう」

「うん!」


 森の奥に入っていくと、だんだんと木漏れ日が少なくなり、薄暗くなっていった。足元も踏み均された土ではなく、ふかふかの腐葉土になって歩きにくい。


「はぁ……はぁ……」


 歩いているだけなのに、息が上がってきた。


 もう引き返そうかと考え始めたそんな時だった。木陰から子どもがこちらを見ているのを見つけた。王都にでもいそうな普通の子どもだ。それが三人。


「子ども? なんでこんな所に?」

「GEGYAGYA!」


 子どもは訳のわからない鳴き声を発すると、棍棒を振り上げて向かってくる。


「え? え!?」

「ゴブリンよ!」


 訳がわからず動揺していると、マリーの鋭い声が飛ぶ。


「ゴブリン!?」


 だって、どう見たって普通の子どもだ。


「ここでもバグかよ!」


 オレは急いで背中に吊っていた大剣を構える。


 どうする? 腕輪の力を使うか?


 だが、ゴブリンが近すぎる。腕輪を展開している暇はない!


「ワアラフルーティゴーヤ、はい!」


 背後からマリーの魔法が発動する。


 水の玉が勢いよく飛び出し、先頭を走るゴブリンを吹き飛ばした。見た目よりずいぶん威力のある魔法だ。


 そうこうしているうちに残り二体のゴブリンがオレの間合いに入り込む。


 攻撃するなら今だ。


 だが、相手はゴブリンだとわかっていても、オレの目には王都にいそうな普通の子供に見える。


 子どもを斬れるのか?


 違う! あれはゴブリンだ! ゴブリンなんだ!


「くそがああああああああああああああああああああああ!」


 オレはもうどうにでもなれというような自暴自棄にも似た気持ちで大剣を横薙ぎに振るう。


「ッ!」


 オレの振るった大剣は子どもたちの首を刎ねる。


 その瞬間、子どもに見えていたものの正体が露わになる。人間の子どもとは似ても似つかない醜悪な姿。オレのよく知るゴブリンのものだ。


 その時、オレはこれ以上ないくらい安堵した。


 マリーが嘘を吐くとは思えないけど、オレには本当に人間の子どもに見えたんだ。


 そして、子どもの正体はゴブリンだったとはいえ、オレは初めて命を奪ったことを実感する。


 あまり気持ちのいいものじゃない。


 森は葉の腐った臭いではなく、濃い鉄の臭いで満ちていた。


 正直、吐きそうだ。


 だが、これからも冒険者としてやっていくのなら慣れなくてはいけないのだろう。


 それに、オレの最終目的は魔王を倒すことだ。こんなところでつまずいていられない。


「大丈夫、ヒイロ? なんかひどい顔してる……」


 いつの間にか残りのゴブリンを倒したらしいマリーが心配そうにオレを見上げていた。


「大丈夫じゃないかも……」


 大丈夫だと答えようと思った。でも、口は真逆のことを口走っていた。


「もう、しょうがないわね」


 そう言って、マリーはオレの頭を自分の胸に抱く。


「ちょ!? マリー!?」

「よしよし、ヒイロはがんばってるわ。ヒイロのがんばりはお姉ちゃんが保証してあげる」


 ゴブリンの血の臭いがマリーの匂いに上書きされていく。なんだか無性に安心する匂いだ。なぜだかイナカ村のことを思い出した。オレの記憶では一日しかいなかったのになぜだか懐かしい思いがした。


「もう大丈夫?」

「うん……」


 いつの間にか吐きそうなほどの気持ち悪さはなくなっていた。


 たぶん、これからも大変なこともあるだろう。


 でも、マリーと一緒なら超えて行けるような気がしたんだ。


「じゃあ、早くゴブリンの右耳を切り取っちゃいましょう」

「うへぇ……」


 オレは気持ち悪いのを押し殺してゴブリンの右耳を実家から持って来た包丁で切り取っていくのだった。

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