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高校演劇

作者: 祁答院 刻

高校で演劇部に入った。

「頑張れる」という出どころ不明の自信と、「頑張れば絶対にうまくいく」という確信めいた予感を胸にして。


しかし、物事は計算どおりには進まない。

気張れば体が緊張したし、根を詰めれば心が窮屈になった。演劇に必要なのはリアリティであったが、それは筋トレのような単純な追い込みで手に入れられるものではなかった。だんだんと、努力の仕方が分からなくなってきた。目指すべき場所も、何もかも。


特に、セリフの練習や暗記において、方法を決めきれずにつまずいた。まず、練習を始めると、役との性格の違いにぶち当たった。セリフのニュアンスを正確に掴めなかったし、言い回しに引っかかりを覚えたりもした。違和感の連続に練習が座礁してしまいそうだったので、次からはセリフを深く掘り下げないようにしようと決めた。しかし、この選択がよくなかった。


セリフの深堀りをやめたら、台本をそっくり暗記することはできた。ただ、セリフを“言の葉”として賞味することができなくなった。セリフは、台本上の文字列として、口慣れた音声として、意味を持たずに私に宿った。例えば、心からの同意も、「ああ、そうだね!」の表記と、「アーソーダネ」の発音にせいぜい完結してしまうといったところだ。


そういった時、わたしは、セリフを「生きた言葉」ではなく「生かされた言葉」のように感じた。いけすの中で一時的に生かされた魚のように、本当の役割をすっかり忘れた、形ばかりの存在。でも、それを感じたところで出来ることはなかった。


ふと、脳裏にひとつの映像をひらめいた。

花の蜜を吸うミツバチの光景だ。

ミツバチは、花の蜜を自分の唾液と混ぜることで、甘くて深い味わいに仕上げていた。


この時、弾かれたように思いついた。

ミツバチははちみつを、花の蜜を材料にして作り出していた。蜜をもとにして自分の手で「作り出して」いたのだ。


そこから得た答えは明白だった。

わたしに出来るのは、セリフに独自性を乗せることであり、セリフを自分の言葉として再び吐き出すことだった。もちろん、材料となる台本をしっかりかみ砕いて消化した上で。


結局、一度は投げ出した「深堀り」も、大切なステップだった。これからは、せかせかしないスタンスで、手間暇かけて演劇に向き合おうと決意した。


もちろん、勝負はこれからだ。

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