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旅をしていたら番だと愛され連れて行かれ苦労しながらも切り開いていく薬師は自分の人生を守る〜突然番と言われてもピンとこない〜

作者: リーシャ

 それは、砂漠の熱風が吹き抜ける夜のこと。


「見つけたぞ、我が運命の番よ」


 突然現れた男の声に、フランジュは持っていた水差しを落としそうになった。夜空には満月が輝き、男の顔は影になってよく見えないものの声には、フランジュの心臓を掴んで離さない強い力が宿っていた。


「わ、私はただの旅の者です。人違いでは?」


 フランジュは戸惑いを隠せない。異世界に転生してきてからというもの、目立たないようにひっそりと暮らしてきたから運命の番などという、物語のような言葉が自分の身に降りかかるとは思ってなかった。


「違う。お前だ。その瞳の色、その魂の輝き。千年もの間、私はお前を探し続けてきた」


 男はゆっくりとフランジュに近付く。


 月明かりがその顔を照らし出す。深く彫りの入った顔立ち、燃えるような赤い瞳にアラビアの王族を思わせる豪華な衣装を身につけ、圧倒的な存在感を放っている。


(な、何だこの人……)


 フランジュは言葉を失う。瞳に見つめられると、まるで魂の奥底を見透かされているような、不思議な感覚に襲われる。


「私の名はザイール。砂漠の民を統べる王をやっている」


 ザイールはそう名乗り、優雅な仕草でフランジュの手を取る手は熱く、体温を瞬く間に上昇させた。


「あ……フランジュと申します。た、ただの……薬師見習いです」


「薬師か。それもまた、運命の導きだろう。さあ、フランジュ。私と共に来い」


 ザイールは有無を言わせず、フランジュの手を引いて歩き出す。夜の砂漠は静かで、二人の足音だけが響くフランジュは頭が混乱していた。

 一体何が起こっているのか、なぜこの王様が自分を運命の番などと呼ぶのか。


「あの……ザイール様。少し待ってください。運命の番とは、一体どういうことなのですか?」


 フランジュは勇気を振り絞って尋ねたらザイールは足を止め、振り返る瞳は真剣そのもので。


「我々一族には、古より伝わる予言がある。魂の伴侶が現れる時、砂漠に一輪の青い薔薇が咲き、二つの魂は永遠に結ばれると」


「青い薔薇……?」


 フランジュは驚いた。そんな花、この世界で見たことがない。


「そうだ。そして、今日、私の庭園でその薔薇が咲いたのだ」


 ザイールはそう言うと、遠くの空を指す。満月がひときわ明るく輝いていた。


「月の女神が、我々の出会いを祝福しているのだ」


 フランジュは、この状況が全く理解できないのは異世界に転生してから、平凡な生活を送ろうと努力してきたからだ。


「でも……私は本当にただの薬師見習いです。王様の運命の番だなんて……」


「お前の魂は、私と同じ色をしている。初めて会った時から感じていた。信じられないかもしれないが、これは紛れもない事実なのだ」


 ザイールの声は優しく、しかし確信に満ちていたからフランジュは彼の瞳を見つめ返し、その真剣さに心を揺さぶられる。


「……私には、元の世界での記憶が少しあります。運命の番、なんて言葉は、物語の中でしか聞いたことがありませんでした」


 フランジュは、自分が異世界から来た人間であることを、彼に打ち明けることにしたのは隠し通せる自信がなかったから。


「異世界……?なるほど。だから、お前は私が今まで出会った誰とも違うのだな」


 ザイールは驚く様子もなく、むしろ興味深そうにフランジュを見つめる。


「予言は、魂の伴侶がどこから来るかまでは語っていない。重要なのは、二つの魂が惹かれ合うことだけだ」


 彼の言葉に、フランジュは少しだけ安堵してしまうのは自分の過去を受け入れてくれているのかもしれない。


「さあ、フランジュ。私の宮殿へ来よう。お前には、知るべきことがたくさんある」


 ザイールは再びフランジュの手を取り、今度は優しく微笑む笑顔は先ほどの威圧的な雰囲気とは全く異なりどこか寂しげで、フランジュの心を掴んだ。夜風が二人の髪を撫で、砂漠の星空がどこまでも広がっていく。

 フランジュは、この先の運命がどうなるか全く想像できなかったが、ザイールの温かい手に導かれるまま一歩を踏み出す。


 宮殿はフランジュが想像していたよりもずっと壮麗できらびやかな装飾、美しい庭園、何よりもそこで働く人々のザイールに対する忠誠心。

 フランジュは、ザイールの傍にいるだけで、周囲からの好奇と尊敬の眼差しを浴び「王妃様」と呼ばれるたびに戸惑いを隠せない。


「まだ、その呼び方には慣れません」


 ザイールの私室で、フランジュはそう呟くとザイールは優しく微笑み頬に触れる。


「いずれ慣れる。お前は、私の運命の番なのだから」


「でも……私は、あなたに見合うような人間ではありません。ただの薬師見習いで……」


 フランジュは、自分の身分や知識に自信が持てない。異世界から来た自分は、この世界の常識も、王族の務めも、何も知らないのだ。


「大切なのは、お前の魂だ。そして、私がお前を必要としているという事実だ」


 ザイールは、フランジュを優しく抱き寄せる体温が、フランジュの不安を少しずつ溶かしていく。


「お前がここにいてくれるだけで、私の心は満たされる。他のことなど、どうでもいい」


 ザイールの言葉は、フランジュの胸に深く突き刺さる。


 こんなにも真っ直ぐに、自分を必要としてくれる人がいること、フランジュにとって初めての経験。それから、フランジュはザイールと共に過ごす中で、少しずつこの世界に馴染んでいく。


 ザイールは、彼女にこの国の歴史や文化、そして王族としての務めを丁寧に教えフランジュもまた、薬師としての知識を活かし、宮廷の健康管理に貢献する。


 二人の間には、言葉を超えた強い絆が育まれていく。

 ザイールの熱い眼差し、優しい言葉、フランジュを心から大切に想う気持ち。

 そんなふうに過ごす中でも、気に入らない人というのはいるせいで、二人の未来は、決して平坦なものではなかった。


 ザイールの王位を狙う者たちの陰謀、異世界から来たフランジュに対する偏見、運命の番であるが故の試練が二人を待ち受けていたのだ。

 ザイールは深刻な表情でフランジュに告げてきた。


「近隣の国が、我が国に侵攻の準備を進めている。彼らは、私の弱点を探っているのだ」


「あなたの弱点……?」


 フランジュは不安を覚えた。ザイールのような強い王に、弱点などあるのか。


「ああ。それは……お前だ、フランジュ」


 ザイールの言葉に、フランジュは息を飲む。


「お前は、私にとって何よりも大切な存在だ。もしお前に何かあれば、私は……」


 彼は言葉を詰まらせ、苦しそうな表情を浮かべる。フランジュは、ザイールの強い愛を感じると同時に、自分の存在が彼の弱点になり得るという事実に、深く心を痛めた。


「私に、何かできることはありますか?あなたの力になりたい」


 フランジュは、自分の無力さを痛感しながらも、必死にザイールに訴えた。


「ああ、ある。お前は、お前らしくいてくれればいい。お前の笑顔が最大の力になる」


 ザイールはそう言って、フランジュを力強く抱きしめてきた腕の中で、フランジュは決意を固め自分はただ守られるだけの存在ではない、ザイールの横に立ち共にこの試練を乗り越えてみせると目を開けた。

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