魔女に育てられた魔術師、光を追い求める
時代は魔物と魔法が存在する古のファンタジー。
しかし、魔女によりファンタジーは夢物語ではなく現実のものとなった。
私の世界は国王が存在し、冒険者が存在し、魔物が存在する。人は日々自分たちに襲いかかってくる魔物を倒すのに忙しい。そんな人を助けるのが魔を使う者の役割。
「よし、忘れ物ないかな?」
忘れ物を確認しているのはこの町の魔術師の一人、アーリン・アンローズ。
魔を使う者は魔法使い、魔術師、その他の三つにわけられている。アーリンが過ごしているこの町は決して大きいとは言えないが、魔法使いが一人と魔術師が三人いる。
「用意完了、着替えちゃお。」
明るいオレンジ色の長い髪の毛をブラシでとき、絡まりをほぐす。そして表面だけ掬い二つのお団子にした。残された髪の毛はお団子にした髪とは違い、肩につくぐらいの長さだった。
片耳にお星様のイヤリングが付いているか確認をしたら服を着替え始める。
女だからといって彼女はこの町の数少ない魔術師。着飾るのではなく、シャツとネクタイを締め清潔感を保つ。上着にはポッケが多く体よりふた周りも大きい森の色のような服を着た。
「あとは認識阻害の魔術を私にかけたら大丈夫。」
上着のポッケのひとつから小さな瓶を取り出し人差し指を指揮棒のように動かす。
「《認識阻害 変化:男性》」
中身の粉がたちまち意志を持ったように彼女のまわりを回り始めて頭上で弾ける。
アーリンは満足そうに笑ったあとお星様のイヤリングを外し鏡を見る。
「久しぶりの男の私だ。髪型も違和感ないし、声も少年!ま、これの難点は子供に見られやすいことだけど。」
イヤリングを付け直したアーリンは自分の部屋の2階から降り、お店としても扱ってる1階へと向かう。
簡単に食べれるサンドウィッチなどを用意してバケットに詰めているともう出発の時間だ。
「ふぁ〜……えっ、もう行くの!?」
アーリンと同じく1階へ降りてきたのは幼馴染のリリィ。まだ着替えも顔も洗ってないことから、つい先程起きたことがわかる。
そんな彼女を微笑ましく見ながらアーリンは元気よく返事をしバケットを掴んだ。
「うん!できるだけ早くついて必要な素材とか買いたいからね!」
「けど、朝ごはん食べてからで良くない……?」
「朝ごはんは行きながらでも食べれる!そういうことだから、行ってきます!」
もう出発の時間が迫っている。そう焦るアーリンを引き止めたのは心配故にだった。
「ちょっと待って!まさか護衛もなしに街まで行かないよね!?」
リリィの心配は当たり前だ。この町には魔法使いが結界を張っているから何も被害は起きないセーフゾーンだが、たちまち結界外に行けば魔獣は有象無象にいる。
大きな街だと二重三重に結界が張ってあり、ある程度の距離は魔獣の心配も少ないのだが、この町には老婆の魔法使いしかいないのでどうしようもない。
しかし、アーリンだってその危険性はわかっている。16年もこの町、この世界で育っているのだから護衛の捕まえ方も完璧だ。ただ、たまに近くだから大丈夫だと護衛なしで出かけることがあるが遠出をする時は必ず護衛をつけている。
「大丈夫!ギルドにはもう依頼済みで時間のことも、」
「あれ、早かったかな。」
カランカランと気のいい鈴の音が鳴り響きお客人が家へと入ってくる。彼女たちは魔術師以外にも兼業をしているのでその客かと思えば、持っている剣と完璧な装備を見る限りお客人ではないことがわかる。
「あなたは、もしかして?」
「えっと、ギルドに依頼があって派遣されてきたんだけど間違えたかな?」
彼はふんわりとした笑顔を彼女たちに振りまく。アーリンは思った以上に顔のいい男性が来たなと思ったが、それ以上に面食いなリリィを思い出した。
長話にならないように護衛だと言ってさっさと出よう。そして買い物をしないと。そう逃げの体制を取りながらアーリンはリリィを見るが、いつものイケメンを見たリリィの顔ではなく不信げに彼を見つめているリリィがいた。
違和感を抱きながらも彼への返事をする。
「ううん!合ってる!リリィ、この人が依頼を受けてくれた人で間違いないよ!」
「僕はシウル・フルトプラ。見ての通り剣士さ。」
「ねぇちょっと」
「わっ、なにさ?」
やはり顔に食いついたかと警戒すればまさかの回答を貰った。
「ねぇ、あんなふわふわした人大丈夫?見た目があんなにふわふわしてるってことは中身もふわふわしてるんじゃない?」
「えっ、ふわふわ?」
何の事だとリリィを見るが、訝しげにシウルを見ているだけだった。釣られてアーリンもシウルを見るがひらひらと手を振る隙のない顔のいい男にしか見えない。強いて言えば鋭さが見える。どう見てもふわふわした見た目には見えない。
何かがおかしいと思いながらもアーリンは出発することを優先にした。
「大丈夫、いつものギルドに依頼をしたから心配ないよ。ってことで、時間が無いから行くね!」
「わかったよ…フルトプラさんでしたっけ?」
「合ってるよ」
「絶対、ぜったい、ぜーったいアーリィを守ってくださいね!!傷一つでもつけたらタダじゃおかないんだから!」
「それは怖いですね、肝に銘じます。」
あはは、と愛想笑いをしているシウルを見つめて少し違和感を覚える。一体なんなんだろ。そう思いながらもリリィに手を振りやっと出発をする。
「随分熱烈な恋人さんでしたね」
「あぁ、リリィのことですか?」
「えぇ。一応護衛ということで僕もいるのにあれだけ心配されるとは愛されてるなぁ、と。」
「そうですね、愛されてると思います。けど、あれは家族愛であって恋愛というのは一切ないです。そもそもただの幼馴染ですし。」
多分男の姿に見えるからそう勘違いしたのだろう。一応彼女は恋人がいる。もちろんアーリンではない。アーリンもリリィも異性が恋愛対象だ。リリィは面食いなだけあってキャーキャー言うのは男女関係なかったりもするが。
「さて、ここからが結界の外です。忘れ物はありませんか?」
「えぇ。よろしくお願いします、シウル」
私たち人間には感覚のない結界を通る。ここから近い大きな都市までは少し時間がかかるが、不安は全くない。それはシウルを信用して安心しているから、などの理由ではなく都市に着くまでなら私一人で最低限対処できるからだ。それよりシウルの方に不信感はある。
始めてみる顔。馴染みのギルドの新人?いや、それなら受付嬢が一言手紙を送ってくれるはずだ。なら顔を変えてる?そんなことはない。私のイヤリングが看破するはずだから。
もしかしたら外部の人かもしれない。聞いたことはある。ギルドの依頼は審査が通れば誰でも受けれると。ただ手数料も取られて支援もないからこっちの地域では全く見たことがなかった。
距離を取りながら依頼だけ達成してもらうようにしよう。
「いやー!シウルさん強いですね!」
「あなたはもう少し落ち着いてくれませんかね……」
ただいま都市に着く前の街で休憩しているのだが、シウルはめっぽう強いことを理解した。剣で一太刀、それで半分の魔獣を仕留めることが出来てた。私はここぞとばかりに魔獣の素材を集め、薬草を集めた。
「だってシウルさんCランク帯の魔獣も倒してくれたんで……もったいないじゃないですか!」
「だからって戦闘中に素材を取りに来ないでください!」
「ビャッ」
ガチャンと食器と机が鳴いたが私もびっくりして鳴いた。
確かに邪魔だったかもしれないけど、素材は鮮度が大事で……鮮度が落ちると取れる素材が変わってくるのが多いから……もうあの時は強いの理解してたし……けど、邪魔だったのは確実か。目が眩ん出たのはあるから謝らないといけない。
「すみません……次は魔獣を引きずって離れたところで素材取ります……」
「……。」
なぜだか大きくため息をつかれた。なぜだろう、ギルドの人たちに良くされる顔になってきた。
シウルは空を仰ぎ大きく息を吸ってにっこりと笑いかけてくれた。眩しい笑顔だ!良かった私の気持ちは伝わったみたいだ!
「そうですね、今回限りの依頼なので都市まではちゃんと護衛しますよ」
「ありがとうございます!シウルさん!」
いやー、次も依頼したいぐらい……あれ、もしかしてもう依頼を受けないぞって遠回しに言われた?