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4.青い屋根のお屋敷にて

彗星は朔夜から人形を借り、買い物と称していそいそと自宅から飛び出した。


人形は鞄の中に隠し、鞄ごと大事に抱きしめた。その人形に向かって、心の中で問いかけた。


『あなたはどこから来たの?あなたのことを知りたいの、お家を教えて』


彗星は今まで物に話かけられることはあっても、自分から話かけたことがなかった。なのでこれが合っているかわからなかったが、人形の微かな声が彗星に聞こえてきた。


〈ヒガシヤマ…アオイ…ヤネノ…オオキナイエ〉


『東山の青い屋根の大きな家…ああ、買い物する場所から見える山の中にある青い屋根の西洋風のお屋敷のことかな?』


〈ソウ…ソコガ…ワタシ…タチガ…スンデイタ…バショ〉


彗星はぱああと顔を明るくさせ、一目散にそのお屋敷へと向かった。


彗星は、自分の能力が朔夜の仕事の役に立つかもしれない。そう思い、行動した。


この人形の生い立ちを聞き出せたとして、このことを朔夜に話をするならば、結局今まで隠していた自分能力がバレることになる。


でも、あんなに悩んでいる朔夜を見ていたら、居ても立ってもいられなくなり、突発的に朔夜に人形を借りていた。


後先考えずに、苦しむ人や物のために行動する。そこが彗星のいいとことではあるが、結果今までの人生、彗星自身を苦しめていることでもある。


山の麓にある青い屋根の大きなお屋敷の手前には、侵入者を阻むような細い鉄格子の大きな門が立ちふさがっていた。


名のある家柄の住人が住んでいることだろう。予約も取らず訪問するのはいささか不躾である…そう思った彗星は一度予約をとってから再度訪問をしようかと門の前の前うーんうーんと考えていた。


「何か御用ですか?」


執事用の服を身にまとった白髪でメガネをかけた初老の男性が彗星に声をかけてきた。


服装、柔らかな物腰からこの屋敷の執事であることは間違いない。


〈コノヒトハ…ダイジョウブ〉


この人は?その部分が少し気にはなったが、人形が大丈夫というなら間違いはない。彗星は姿勢と服装をただし、その男性に視線を送る。


「はじめまして、私、さ…か、神林彗星と申します。あの、このお屋敷の奥様か旦那様とお話をしたいのですが、生憎予約をとっておらず…再度訪問すべきかと悩んでおりました」


「そうでしたか、どういったご用件で…」


彗星はしまった、と顔を少し歪めてしまった。


この場で人形のことを聞きたいんです、と話をしたところで快く迎えられると思えない。何せ家に置き去りにされた物なので、手放したくて仕方がない物が帰ってきたとなると、門前払いにされる未来しか見えない。


彗星を何を言えばいいのかとまたうーんと悩んでしまった。


そんな時、しっかりと閉めていたはずの彗星の鞄のボタンがパチリと外れ、人形がパタリと地面に落ちてしまった。


「あっ…!」


「これは…」


初老の男性はさっと人形を拾い上げ、埃を払い、細い目をさらに細め、愛おしげに人形のことを見つめていた。


「牡丹お嬢様の人形ですね…奥様がお捨てになられたとは聞いていましたが…一体どこで」


彗星が口を開きかけたとき、鉄格子の向こうからきゃあ!という声が聞こえてきた。


「その人形…!捨てたはずなのに!なんでここにあるのよ!」


金色の髪を丸く一つにまとめ、青色の長いスカートを身に纏った女性が鋭い目つきでこちらに向かってきた。


『もしかして…この人がこの人形を捨てた人…?』


「あの、このお人形について…」


「気味の悪い人形を任せてほしいというから預けたのに…なんで戻ってきてるのよ!さっさと帰ってちょうだい!」


どうやら捨てたのを依頼したのはこの奥様で間違いなさそうだが、神林宅に置いていったのは別の人らしい。


「貴方が聞いてた怪談小説家の妻?気味の悪い職業だからそんな輩にこの人形はいい話の種にでもなると思ったのに…何?手に負えないって貴方に泣きつきにきたの?怪談小説家と言っても空想の話、実際の怪奇的現象に恐怖して、妻に人形を返品させに来るなんて、弱い男ね」


ヒステリックに叫ぶ女性は見るのは初めてではない。彗星の母親で何度もそういう姿は見てきた。なので彗星は冷静に言葉を聞き、その姿を観察していた。しかし、自分のことを言われるのは構わないが、朔夜のことを悪く言われるのは心外であった。


「気味が悪いだなんて失礼です!想像だけで朔…しゅ、主人のことを侮辱するなんて!今回のことは私が独断で行動したまで、主人は弱い男などではありません!発言を撤回してください!」


きっと金髪の婦人を睨みつけると、婦人は一瞬怯みはしたが、再度彗星にまくし立てる。


「気味の悪いは間違ってないでしょ!それに貴方もでしょ!気味悪い同士お似合いじゃない!」


『この人…私のことを知ってる!?』


この地は彗星の実家から2町も離れた場所にある小さな町。周りには彗星を知る人は誰もいなかった。それがとても心地よかった。


彗星の両親はよく社交界に出かけていたので、顔は広かった。この人も社交会で出会った両親の知り合いなのかもしれない。


久しぶりに自分のことを知っている人物に出会い、ひゅっと血の気が引くような感じがして、彗星の足元がふらついてしまった。


あ、倒れる…と、体が倒れかけた瞬間、彗星の体は抱き留められ、地面に倒れこむのが防げた。


「私が気味悪いと侮辱されるのはまあ…良くはないですが、妻を侮辱されるのは心外ですね」


「さ…朔夜さん!?」

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