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訳あり不動産の事故物件調査ファイル  作者: 虫松


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10/16

ファイル10  ガス爆発した部屋

ぼんやりとつけていたテレビのニュース速報に目が留まった。


《速報 ○○市内のアパート一室でガス爆発 死者不明》


現場の映像が流れる。

黒く焼け焦げた窓枠、真っ黒な煤煙、崩れかけた外壁。


「ここ……ウチの管理物件じゃない?」


千堂は震える手でスマホを取り、担当の小林に電話をかけた。


「小林さん、今ニュース見てますか? これ……○○荘ですよね?」


「見てる。間違いない。……やられたな」


電話越しの小林の声が、いつになく低かった。


「ガス爆発って、どういうことなんですか?」


「自殺だ。ガスボンベ、何本も持ち込んで……」


沈黙が流れる。


「部屋、完全に吹っ飛んでた。現場にいたけど、……人間の形、なかったよ」


「……死んだんですか?」


「わからない。たぶん、生きてたとしても、地獄みたいなもんだろうな」


不意に、テレビからリポーターの声が響いた。


《近隣住民の証言によると、爆発直前、「助けて」という叫び声が聞こえたとのことです――》


俺は寒気を覚えた。

助けて、か。

自分で爆発させたのに、助けを求めたってことか?

それとも、別の何かが?


「こういう場合、損害賠償とか……どうなるんですか?」


話を逸らすように尋ねた。


小林は、しばらく無言だった後、ぼそりと言った。


「事故なら、火災保険で建物修理も、隣家の損害もカバーできる。 でも、自殺つまり故意の場合は、基本的に適用外だ」


「……保証されないんですか?」


「ああ。火災保険には『故意除外』がある。 自分で起こした爆発、放火なんかは、対象外なんだよ」


言葉が重くのしかかる。


「それに……」

小林は続けた。


「もし自殺だと、この物件自体の価値も一気に落ちる。でもな、それによる損害は、金額を特定できない」


「え?」


「自殺による価値下落がいくらか、なんて、誰にも正確にはわからない。不動産って、市場が感じる“気持ち”に左右されるからな。

 だから、保険金も出ないし、損失補填もできない。 オーナーの泣き寝入りだ」


テレビの音だけが、部屋に空しく響いていた。


《現場付近では、異様な焦げ臭さとともに、時折、人のうめき声のようなものが聞こえるという情報も――》


千堂は震えた。

燃えたのは建物だけじゃない。

ここに、消えない「何か」が、染みついてしまった気がした。


窓の外から……かすかに、「助けて」という誰かの声が聞こえた気がした。


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