4 アリアを救った物語
卒業パーティーの後、しばらくは慌しかったが、
やっと落ち着きを取り戻すことが出来た。
アリアは部屋のソファに座り、のんびりと読書を
楽しんでいる。
先ほどマリーが淹れてくれた紅茶を飲み、ゆっくり息を
吐いた。そして紅茶の香りの余韻を楽しみながら、
先ほどテーブルに置いた本を眺める。
***
学園に通いだした頃、
マリーが「息抜きにでもどうぞ」と、勧めてきた
恋愛小説だ。
よくある、悪役令嬢が婚約破棄される物語なのだが、
その本には1巻と表示されており珍しく2巻へ続いていた。
王道のシンデレラストーリーで終わった1巻。
この幸せな2人の、これからの物語も
きっと素敵なのだろうと、自然と口もとが緩んだ。
マリーに読み終えたことを伝えると
「2巻こそ、しっかりお読みください」と真剣な顔で
手渡される。
(?)
よく分からなかったが、とりあえず「わかったわ」と
頷き、本を受け取った。
2巻は、予想通り、その後のストーリーとなっていた。
しかし幸せになった2人のその後の幸福な話ではなかった。
なんと、断罪された悪役令嬢は、冤罪だったのだ。
罪を犯していなかったにも関わらず、主人公達に証拠を
捏造され、表舞台から去らなければならなかっただなんて…
(なんて、ひどいことを…)
罰は国外への追放だったが幸いにも家族に恵まれていた為、
隣国の親戚にしっかり保護されていた。
(良かったわ。この悪役令嬢、気の毒だったから…)
一方、主人公達は、能力不足によって、
周囲に迷惑をかけ始める。
学ぶ努力をせず、愛に溺れ、自分達のしたい事だけし…
欲を満たし続けていくのだ。
(幼いのね…これでは国が傾く一方だわ…)
結局、国に混乱を招き続ける主人公達を、
王弟が反乱を起こし、止めることになる。
再調査の結果、悪役令嬢の冤罪もはれ、
家族とも無事に再会する。
…そして主人公達は…処刑されるのだ。
(…確かに他人事とは、言えないかも)
考えさせられる内容だった。
目を閉じて、思考してみる。
(どうするのが、最良だったのかしら…)
***
婚約解消について、真剣に考えるきっかけとなった、
お茶会があった日…
私は、どうするかを決めたのだ。
例の本を読み返し、何パターンか検討していた事が、
とても役に立った。
人生、何が役に立つかわからないものだ。
(あの本に巡り会えて良かった…マリーに感謝だわ)
そして父から陛下へ話を通してもらい
『最良と思われる未来』を目指し、動き出したのだ。