2 卒業パーティー①
レイ殿下から、音沙汰ひとつ無いまま、
卒業のパーティの日がやってきた。
エスコート役は兄にお願いし、開始直前に会場に入る。
間をおかず国王陛下が会場入りされ、私達は深い礼をする。
壇上から、お祝いの言葉をいただく。
陛下が席に着かれると、次はレイ殿下の挨拶だ。
何故か、レイ殿下とナターシャ嬢、側近のうち2人が、
壇上に上がった。
何が始まるのかと、会場がざわつく。
「静かに!みんなに聴いてもらいたい事がある!」
レイ殿下の声が響く。
注目が集まり、満足そうに頷く。そして…
ふと、視線が合う。
(覚悟しろ!という目、ですわね)
アリアは、貴族の微笑みのまま受け流した。
(さあ、何をおっしゃるのかしらね)
隣の兄が微笑み、やさしく私の髪を撫でた後
スッと一歩さがった。
「アリア・ドレイク公爵令嬢!
貴方との婚約は破棄する!
貴方は私の婚約者にふさわしくない!」
「それを皆に知ってもらおうと思う。
ドレイク公爵令嬢は、これまでに何度も
ナターシャ嬢を虐めている!」
「…さぁ、ナターシャ。」
レイ殿下に促され
肩を抱き寄せられたナターシャ嬢が語り出す。
「はい…。
私はドレイク公爵令嬢に、何度も虐められてきました。
特にレイ殿下を含め、他の令息方への対応に関しては、
『馴れ馴れしい』と厳しく叱責され…
恐ろしい思いをいたしました。」
「他にも、2年生の学年末に行われる進級試験では、
『レイ殿下と共に、Aクラスを目指すように』と
強く言われました。
Cクラスの自分を否定され…、悲しかったです。」
「マナーに関しても、
『現状ではレイ殿下のお隣にいるのに相応しくない』と、
何度も注意を受けました。」
震えながら涙を浮かべ、レイ殿下にしがみつく姿は
弱々しく同情をさそう。
「・・・・・」
(お二人は似たもの同士、ある意味気が合うのでしょうね)
「ドレイク公爵令嬢!何か言ったらどうなんだ!」
レイ殿下に厳しい声で、問われる。
アリアはゆっくり瞳を閉じ、そして開く。
その凛とした姿に、会場の視線が集まり、
空気がピンと引き締まる。
アリアは壇上の殿下方ではなく、国王陛下へ向かい
ゆっくりカーテシーで礼をしてから、発言の許可を得る。
「国王陛下からのお話の前に、先ほどお話にありました
私がしたとされている虐めについて、
少し訂正をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
陛下から、ゆっくりと許可の頷きが返る。
私の隣に、陛下から指示を受けていた
監視の文官が2人到着する。
「では申し上げます。
先ほどの、『ナターシャ・コレッティ男爵令嬢への発言』に
関してですが…、そういった内容のお話をした事は、
お認めします。」
あっさりと認めたアリアに、
レイ殿下サイドは、(予想していた…)というような、
まあ満足そうな表情をしている。
「実際に見て確認頂くのが、
皆様に、一番納得して頂けると思いますの。」
「補足致しますと、、、レイ殿下に関係するものとして、
クラスとマナーについてが2件。
他の令息方に関してが3件ですわ。」
「記録をとっておりますので、皆様ご覧下さい。」
アリアのこの提案に、
レイ殿下サイドが、驚愕の表情で固まった。
文官によって魔道具の記録が再生される。
「挨拶で令息方に後ろから抱きつくなんて
…はしたないですわ。」
「コレッティ嬢はレイ殿下だけでなく、側近のお二人とも親しくしていらっしゃったの?信じられない。」
「クラス分けの試験の件も、マナーについての件も
コレッティ嬢を否定する様な事はおっしゃってないな。」
「ドレイク公爵令嬢は普段通り穏やかに話されているし
叱責というより、教えて差し上げているようだ…。」
あちこちから、ざわざわと声が上がり出す。
レイ殿下サイドは、怒り・戸惑い・焦りといった表情を
それぞれが浮かべ、固まっていた。
明らかに風向きが変わり、
こちらを責めるような空気になりつつある。
(この状況はマズイ…!!)
(映像の証拠を準備されているなど、想定外だ!)
今回の計画は、何も知らずにパーティーに来たアリアを
追い詰め婚約破棄し、同情を得たナターシャを、
勢いのまま王太子妃に据えるというものだ。
本来なら、この程度の『学生同士の些末な争いごと』に
よっての婚約破棄は不可能だ…が、
会場の人々の前で宣言し、証人にしてしまえば話は変わる。
(この計画は『完璧』だ!さすが私だな…)
一点の綻びも無い、素晴らしい案だ!と、
レイは、確信していたのだ。
虐めの内容に、あえて暴力など陰湿な内容を
含めなかったのも、私の策略だ。
調査不可能な水掛け論では、本人達の証言以外なく、
証明のしようがない。
婚約破棄を少なからず望んでいるだろうアリアも、
大した痛手にならないこの内容ならば
事実ではなくとも認めたふりをして、
婚約破棄の提案を受け入れると確信していた。
それなのに…
気づけば、こちらが罠にはめられ弄ばれている。
(これからどうするのか…)と、
ナターシャと側近達からの視線は感じるが…
レイは、アリアへと沸き上がる怒りを
抑えることが出来ないでいた。
憎しみをこめた視線を外せない。
アリアの反撃によって、
『完璧』だったはずの計画は破綻した。
プライドの高いレイにとっての地雷を、
アリアが思い切り踏み抜いた状況だった。
(この後は、もう陛下にお任せしましょう)
アリアは文官に礼を伝え、
国王陛下へ再度カーテシーで礼をした後…
しっかりと、前を向いた。