1 アリアと婚約者
アリアは冷静に悩んでいた。
今日は休日。婚約者で第一王子のレイ殿下と、
定期的に行うお茶会の為登城した。
殿下からのお誘いは、どんどん減っており、
今回なんて2ヶ月ぶりだ。
さらにここ最近のレイ殿下は、遅れて来たり、
忙しいとすぐに帰ったりと、私にはもう関心がない様子だ。
現在、私達は3年制の学園の2年生。
卒業すれば結婚なのに…。
今日も所用があるとの事で、お茶を1杯だけ飲んで、
さっさと帰ってしまった。それなのに、、、
(なぜ、ここに殿下が?)
予想よりかなり早く切り上げることになった為、
侍女のマリーと本屋へ寄ることにした。
以前マリーに勧められた恋愛小説にハマってしまったのだ。
マリーはアリアが小さい頃から、面倒を見てくれている、
姉の様な存在だ。
待ち遠しかった新刊を手に入れ、帰ろうと馬車まで歩く途中
ある光景を目にして、マリーと共に足を止める。
鋭い視線で対象を捉えたまま、ぼそりと問いかけられる。
「どうしますか?」
『踏み込むか?』と暗にきいているのだ。
私達は、実家からの護衛を、数名つれているのだが…
彼らもしっかり目撃したようだ。
ならば、この情報は、当主の父に必ずいく。
(どうしたものかしら?)
婚約者を放置しての、別の異性との逢瀬。立派な醜聞だ。
…だが、おそらくこの程度では、何かしら言い訳をされ、
内々で謝罪されて終わりだろう。
目線の先、ジュエリーショップに
レイ殿下とナターシャ男爵令嬢がいる。
彼らは同じクラスで、関わりも多いのだろう。
すでに噂は広がっており、アリアも気には留めていた。
恋人のように寄り添う2人は、
お互いの事しか見えないといった雰囲気だ。
厳しい王妃教育を、受けさせられている身としては、
蔑ろにされ、嫌な気分にはなった。
でも、それだけだ。
もともと『レイ殿下のフォローが出来る令嬢』という事で、
私に白羽の矢がたった。
(家族は激怒していたわね…)
王家からの、『王命』でなった婚約ではあるが、
出来るなら、お互いの関係は良好な方が良い。
交流を持とうと努力はした…そう。努力はしたのだ。
しかし、知れば知るほど…
レイ殿下には尊敬できない点が多すぎる…。
プライドは高いが、努力はしない。
無責任な発言、他人を見下すような発言が多い。
私に対しても疎ましく思っている態度を隠そうともしない。
手がかかろうとも、私を尊重してくれるのならば
フォローは可能だ。
だが蔑ろにされ、勝手に動き回られるのでは、
フォローのしようが無い。
愛の力だけで国が回らないように、
知識があるだけでも、上手く回らないのだ。
(これは確認の為、少し試させて頂く必要がありそうね)
帰宅後、父と相談し、
いくつかの根回しで協力をお願いする。
「私達の大事なアリアに…。ふふっ任せておきなさい。」
笑って快諾してくれたが、父の目は笑っていなかった。
父の動きは驚くほど早く、翌日の夕食の席で
『根回し完了』の報告を受ける。
母も兄も先日の父と同じ様に微笑んでいた。
さあ、私も動き出しましょう。