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婚約破棄ですか?……そんな難しい単語がわかるなんて、本当に天才です!!

作者: へんりん

私の主人、レイト・アストレア第四王子は『無能王子』と陰で揶揄(やゆ)されている。

つい最近十歳の誕生日を迎えた人間に対して無能も何もないと思うし、そんなこと言って見下している奴の方が思考回路を矯正するべきだと思う。

……というか私達侍女の天使に向かってなんてこと言うのよ!本当に頭にきてしまうわね!


『無能王子』と言われるようになったのは、単に兄弟が優秀すぎるせいだ。第一王子は頭脳明晰で常にトップの成績、第二王子は魔法の才に秀でており、第三王子は音楽の天才なのだとか。

そのため、なんでも比べたがる貴族達は第四王子を見下している。比べることでしか他人を評価できない哀れな貴族達には、私達の天使の素晴らしさは一生理解できないのね。もはや可哀想にも感じてきたわ。私が今干しているこのタオルで締め上げて、全員来世に送ってあげようかしら!


「ルリ!今日は王宮の庭を散歩しよ!」


後ろから響く、晴れやかな声。振り向かなくてもわかる、レイト王子だわ!

振り向くとそこには満面の笑みを浮かべたレイト王子の姿が。ああレイト天使……(すさ)んでいた心を浄化してくれてありがとう。このまま天に飛び立っちゃおうかしら。


「ルリ?」

「……は!そ、そうですね。洗濯物を干すのが終わりましたら、一緒に散歩に行きましょう!」


いけない、あまりの神々しさに意識を失う所だったわ。急いで洗濯物を干さなきゃ!


レイト王子の散歩は、王子の気分しだいで不定期に行われる、私の心のオアシスイベントだ。

第四王子ともなると王位継承の可能性はほとんどなく、そのため熱心に剣術を指南されたり勉強を教わったりすることもない。もちろん最低限は行われるが、それ以外の時間、王子は基本暇なのである。そのため散歩に行ったり、日向ぼっこをしたりと優雅な生活をすごしてくださっているのです。ありがとう、第四王子に生まれてきてくれて!


「レイト王子、洗濯物が干し終わりました!今すぐ散歩に行きましょう!」

「うん!」


私の手を握りながらウキウキで歩き出す天使。庭園の花はもちろん美しいけれど、横の天使が輝きすぎて花など目に入りません。ごめんなさい、お花さん。でも仕方がないことだと思いませんか?思いますよね、そうですよね!


「き、今日はね!そのね!ルリにしたいことがあるんだ!」


き、聞きました!?今、私にしたいことがあるって!()()()


「な、なんでございましょう」

「そのね、ルリと婚約破棄がしたいんだ!」


……私、いつの間に婚約してたの!?よ、喜んで良いのかしら。複雑な気持ちね……

でもこの明るいクリクリとしたお顔、たぶん本来の意味を理解していないのね。難しい単語を使いたくなったのだろうか。

こういう時どうすればいいか。そう!ずばり褒めるのだ!


「どこでそんな難しい言葉を覚えたのですか!?レイト王子は天才です!」

「侍女のメリーに教えてもらったんだ!」


フンス!と自慢気に胸を張るお姿、なんと可愛いのでしょう。業務を忘れて今すぐ抱き締めたいわ!

……しかしこの純粋無垢な天使にメリーは何を教えているのでしょうか。後で侍女頭に叱ってもらおうかしら。


「そ、その、嬉しいか?」


……メリー、どういう教え方をしたのでしょう。皿洗いの仕事を増やして差し上げましょうか。

しかしどうしましょう。ここで嬉しいと答えてしまっては、今後事実を知ったときに怒られてしまうかもしれません。

で、でも、私にはあんなににこやかな天使の表情を曇らせるなんて……


「……すごく嬉しいです!ありがとうございます、レイト王子!」


無理でした。だってあんなに嬉しそうなんだもん。そんなん無理に決まってるでしょ!私なんかの発言でレイト王子を悲しませてしまったら、自分の事を死ぬまで呪わないといけなくなるわ。


「良かった!メリーが言ってたんだ!最近女性の間では婚約破棄が流行ってるって!」


なるほど、読み物の話でしたか。言葉足らずなだけで、王子を貶めようというつもりはなかったのね。メリー、勘違いしてごめんなさいね。でも皿洗いはよろしくね。


「そうだったのですね。しかし急にどうして?」

「それはね、そろそろルリは誕生日だろう?だから、お祝いしたいなあって!」


ああ!!尊い!!溶ける!!


私は今日死ぬのかしら。ああ、女神様。私の命はどうなってもいいです。天国でも地獄でも好きなところにつれていってください。でも、一つだけお願いが。どうかレイト様の写真集を持っていかせてください。できれば私の見たことがない一面が載っている物がいいです……


「ゴ、ゴホン。それはとても嬉しいです!本当にありがとうございます!」


今日はなんて幸せな日なの!いつもの風景がよりいっそう美しい。視力が10ぐらいあがったのかしら。ありえる、ありえるわね!


「それで婚約破棄はどうやるんだ?」


……え?


そ、そうでした!レイト王子は婚約破棄について全く知らないのでした!ど、どう説明すればいいのでしょう。婚約して、それを自分勝手に破棄することだと言えと?


無理無理!私達の天使にそんなこと教えられません!どんなにお金をつまれても、どんなに愛しい人の頼みでも無理なものは無理です!


だからお願いですレイト王子、そんなきらめいた目で私を見ないでください!!

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