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4週目 平日 準備

週末全て、要塞に捧げた翌週のことである


あれこれと罠や仕掛けを(こしら)えた訳だが、まだ平穏に一晩過ごせるなんて言い難い

一先(ひとま)ず、荒らされた拠点を掃除することから始める


あらゆる方面に張り巡らされた蜘蛛の糸を取り払い、突き刺さった矢を引き抜いていく


粗方、綺麗にして一息つく

そして上を見上げる


土日に各一回ずつ枝を切り離したわけで、ボトルや矢を貯蔵する拠点からもう下には降りれない

それはつまり、上を開拓する以外に他に道は無いことを意味する


この拠点も、存外簡単に敵が侵入してくるわけで、可能な限り高所に移動させるべきか、、、と考えつつ起動装置で登っていく


巻き付けた紐が解けることはないかと、入念に確認しながら進んでいく

やっとのことで木の頂にまで辿り着いた


そこから辺りを見下ろす

地で待機させた相棒は豆粒ほどで、雲なんて手を伸ばせば、掴めそうな感覚だ


ここ一体、草原が広がっていることは、頭でわかってはいたが、いざ一望するとなると話は違う


眼前に広がる風景は、予想打にしないほどに緑で覆われ

下の方に視線を移せば、不発に終わった野球盤トラップが微かに見える

奥の方にやれば、時計回りで、ゲート、火山、森、川と広がっているのが目に見える


ひと通り、視察を終え作業に戻る


当然っちゃ、当然なのだが、高くなるにつけ、木は細くなるわけで、外泊出来るほどのスペースが無い

妥協案だが、貯蔵品は比較的安全な高所に避難させておき、俺は拠点で戦闘ないしは、くつろぐのが妥当な策だろう


そんなわけで、期間たった二日で引っ越しを開始する


飲料を高い位置に移動させるために往復する合間、無駄な枝を切り落としていく


これは、蜘蛛対策だ

蜘蛛は基本、上から奇襲をかける傾向が高い

それはつまり、蜘蛛は高所の枝から湧いた可能性が高いと見ていいだろう

そのため、視界良好と、湧き潰しを兼ねて間引いてるのだ


数時間かけて、足場になりえそうなものだけを残し、粗方撤去した

そのせいで、モサモサと生い茂る以前の姿も虚しく、かなり禿()げてしまった


他には、電灯ぶら下げたり、罠仕掛けたりと思いつく限りの仕込みを入れ、要塞造りは其の辺に留めておいた


ーーーーー


そして、皆さんお待ちかね

煌々と光り輝き、選ばれし者にしか扱えない、まさに武器が担い手を選ぶ、ごく希少な武器紹介である


と言うわけで、夜を迎えたので、かなりのハイテンションで、我自ら敵陣の中に突っ込んでいく


まずは、期待の薄そうな木ピッケルから

手頃なゾンビ目がけて、一振り


スッ、と綺麗な線が入り、血が垂れていく

そして傷口から、一気に燃え上がり始めた


・・・あれ、どこかで見た演出


それもそのはず、以前見つけた火属性と全く同じものだからだ


・・・属性が被ってしまった、最悪、、、


その上、鉄から木にグレードダウンしたのだ

完全なハズレだ


幸先の悪さに、不安が掻き立てられる

だが、悩んでいても仕方がない


次は鉄鍬(てつくわ)


正直、鍬とか、既にもう、ビジュアル的に戦闘に向いていない


欠片(かけら)程の期待を胸に、ゾンビめがけて一振り


ブン


振り下ろすや否や周辺の空気が、鍬に(まと)わり付いていく

それは、まるでこれから大技を放つ準備のよう

空気が集約されていくのが、肌でビシビシと感じる

集約されるたびに、風の威力が増していく

そして、過密された空気は、ついに限度を向かへ、一気に開放される

解き放たれたエアは空砲となって、ゾンビを突き飛ばす


ゾンビは為す術なく飛んで、、、飛んでいった、、、2、3m後方に、、、


・・・酷く、凄く、微妙


なに、そんな巻き風旋風みたいなエフェクト出すから、竜巻でも起こすんじゃないかって期待してしまったじゃないか


期待が高まった時に、速攻で裏切られるほど物悲しいものはない


演出と効果があまりにも、かけ離れていたがために納得がいかないでいる

不発に終わっただけと、そう信じ、その後何度も試したが、やはりショボイ


しいて、使用すると言うのなら、周囲に完全に囲まれた時、敵をノックバックして、相手の包囲網を崩すことは、出来るだろう

だが如何せんダメージを与えられる訳では無いようだ


・・・正直、いらん、、、


さっきまでの深夜テンションが噓のよう

どんより、とした重苦しい空気があたりに漂う


さあ、さあ、気を取り直して、最後の一つだ

これが本命だから、大丈夫、、、

たぶん、きっと大丈夫、、、


こうやって鼓舞しなければ、命を賭けた報酬に見合わなすぎるのだ

三分の二がハズレで、既にもう、相当心にきていたが、

「大丈夫、大丈夫、大丈夫だ」と自分に言い聞かせながら、最後の武器を手に取る


武器と言われれば、何を思い浮かべるだろうか

恐らくは剣であろう

俺もきっとをれを思い浮かべる


だが、実は剣を実践で使ったことは、まだない

先ほど申した通り、勿論、剣を嫌っていたからではない、むしろ、憧れてたまである

なのに、鉄斧を優先している理由

憧れでありながら、(かたく)なに使用しなかった理由


それは至って単純

単に、剣の保存状態が悪かったからだ


俺が武器とするのは、冒険者の譲り受けるわけでも、腕のある鍛冶から購入したわけでもない

ゴブリン、オークから強奪したものだ


敵が創造した武器だからと言って、粗末なわけではない

ただ、剣だけが以上に傷ついているのだ


鉄斧なんて、ほぼ新品なのに、鉄剣は、刃こぼれが酷すぎて切れるものも切れない、なんてことはザラ

ヒビが入って今にも崩れそうなのもあれば、中にはネットリした血が付いている事もシバシバ

こと細かい理由は知らないが、敵が生活する際に、きっと剣を使用するのだろう

そうでもないと、ボロボロにはならない


だが、今回、(まさ)に眼前にあるこの剣は、ヒビも汚れも無い

これ以上保存状態がいいのを目にしたことが無い

そして、レアリティは鉄、その上煌めくバフもかかっている


お分かり頂けただろうか、俺がどれ程、この鉄剣に思いを掛けているのかを

イヤ、(むし)ろ、賭けてる

全てをこの一本に、、、


鉄剣を振り上げ、ゾンビに一振り


スー、っと、つっかえ無く刃が通っていく感動を覚えながらーーーーー


肉を引き裂くとともに、鉄剣は熱を帯び、闇を(はら)うかのように眩く発光する


突然の光で面食らい、反射で目を覆う

だが、もう既に遅い

極度の光線を浴び、目がまいる

寧ろ、脳まで焼かれた気さえする

まるで、フラッシュバン


目が元に戻るまで

立ち上がれるまで

時間が必要だ


やっとの事で目が慣れ、急いで戦闘態勢を取る


怯んでいる間に、囲まれた、、、訳では無さそうだ


何なら、敵もまた目を(ふさ)いで、その場でうずくまっている

どうやら敵にも効果抜群らしい

まあ、俺も例外ではないが、、、


まだ、チカチカと視界に赤いものが残るが、地に伏す雑魚どもを、鉄剣で一刺し


ピカッ


太陽と全く引けを取らない光が、剣から放出される


どうやら、やはり剣は、刃が何かを切り落とす時、眩く光るらしい


地に(うずくま)る敵を片付け、遠くの方へ視線をやる


まだ、敵は大量

実験体の数には、困らない


・・・斬り込んでみるか


鉄剣の性能を図るべく、己自ら敵軍に乗り込んでいく


敵を切り裂くたびに、神々(こうごう)しく光る剣は、まるでライトセイバーのよう

暗黒に包まれた夜に振り回される剣は映える

思うがままに振り回している内に、あっという間に群衆を一掃した


感想。

鉄剣のダメージは、鉄斧と引けを取らず一撃

その上、高電圧で周囲を照らし、ザワザワと群がる敵を麻痺(まひ)させる

性能には申し分がない

だが、切り込む際に、イチイチ目を閉じ、目眩(めくら)ましを防がないといけないのが、ナンセンス


この上なく、攻撃型の、俺が理想とする武器だが、如何せん扱いが難しい


完全に光を遮断できるはずもなく、何度も光線浴びていたら、目がマイル

いつか、失明し、失命しそう


・・・実戦には向かないか、、、


ーーーーー


え〜、結論 


不作


回りくどく言っても構わないのだが、どうせ結論は覆らないのだから、バッサリと言い切ることにした


だがまあ、その場にポイ捨てする程、使い道が無い訳ではない


鉄剣は、叩けば即座に点灯し、高松代わりになる

この辺り一体は、懐中電灯で照らしているから、特に剣の恩恵を感じにくい

だが、月明かりぐらいしか頼れるものがない、森探索では貴重になるかもしれない


それにほら、鉄鍬だって別に悪くない

なぜなら、振れば、程よい風が巻き起こり涼しいからだ


時間の流れが早いからか、元々ここは()()()()()()なのか、定かでは無いが、ここ最近暑くて、暑くて仕方がない

半袖で丁度いいぐらいに


つまり、向暑(こうしょ)の中でハンド扇風機として活躍するってことだ

降る速度とスナップの効かせ方で、強弱とリズムが調節できるので、現代版より優れモノ


つまり、使い方次第ってやつだ

まあ、結局、不作である事には変わりないけど、、、


ーーーーー


さっきまでの、ほのぼの、うふふ、お花畑状態はもう終わり

森への探索は今週末と決めたのだ


何かと、敵に邪魔されたり、弓にハマったりと色々と遠回りしたが、流石にもう先に伸ばすわけにはいかない


もう一度言おう

森への探索は今週末と決めたのだ


ならば、平日に準備するのが、必然というもの


修学旅行のような、行く場所、食べ物、旅館なんかを想像しながら、楽しみだな~、と呟きながらリュックに物を詰める、楽しい会ではない


帰って来れないかもしれない

命を落とすかもしれない

俺はそういう旅、いや、(いくさ)に出るのだ

準備は念に、念を入れても足りないぐらいだろう


さあ、気を引き締めていこう


やはり始めに手を付けるのは、要塞

矢が届くなどと、まだ欠陥も多いからな

そろそろ本格的なやつを築き上げたい

少なくとも、一晩ぐらい、安心して眠れる程のレベルに仕立て上げたい


となれば、トラップを敷いて敵を駆逐する以外に他はない

だが、敵を一網打尽にする巨大落とし穴や、肉片すら残さず業火に燃やすような、本格的なものを作れるわけではない


そんなものを作っている暇も無いし、材料もないし、道具もない


それに、欲を言えば、トラップは、ドロップ目当てで、製造しているわけで、戦利品が回収出来ない構造では正直意味がない


物騒でなくていい

敵軍の押し寄せる波を留めるほどでいい

寧ろ、足止め程が丁度いい

とどめを刺すのは俺でいい、、、


となれば、、、


便利なものが溢れ、生活に困らない近年でも、

いや、近年だからこそ、時に、時代を振り返ることは重要となる

はるか昔、時代は平安、村を囲い、隣町からの敵軍の侵入を許さんがために造られたもの


その名も()、、、


いや、もちろん、勿論、以前の付け焼き刃で、如何にも幼児が造りそうな代物では無く、本格的な

具体的な数値で言えば、深さ2〜3メートル程の物だ


言うからには、手抜きなどはしない

やるからには、徹底的に


そうとなれば、敵から強奪したシャベルを片手に、巨木周りを掘り始める


本番は、堀の内側をあの液で埋め、万が一、堀を突破した敵を立ち往生させる、二段構造で行こうと思う

まあ、堀が完成したらの話だが、、、


黙々と掘り続ける

草原というわけで、土自体は柔らかいのだが、深さ1メートル程で、全身がもう根を上げている


異世界に来てから慣れぬ作業ばかりだ

社会の教科書に掲載される堀を知識ではなく、実践として役立つなんて思いもしなかった、、、


・・・まあ、そらそうか、、、


つまらぬ事に思いをはせてしまった

それ程までに、どうやら暑さに、まいってしまったらしい


木陰に入って一休み


鍬の風を全身に浴びながら、水をゴクゴク

いやホント、水が無かったらやってられない


もっと涼しさを求め、スナップを利かす


ブワッ、と風圧が肌を横切り、髪を(なび)かせ、汗を飛ばし、、、土を吹き飛ばす

視界いっぱいに土が舞い上がる


・・・これは使える


そう確信した


今度は、土の表面に適当に切り込みを入れてほぐし、そこから2、3歩下がり、少しばかり、振りかぶって、力を込めて鍬を振る


ブワッ


唐突にその場に風を巻き起こし、切り込みを入れた土を、まるで引き剥がすかのように宙へと飛ばしていく

気づけば、既に、2〜30cm程の穴ができていた


思わぬ発見

嬉しい誤算


どうやら、軽くほぐした土程度なら、風で運んでくれるらしい


掘っては、捨て

掘っては、捨て

掘っては、捨て

を永遠に繰り返していた、さっきまでの苦労が嘘のよう


ひと風起こせば、掘る、棄てるの作業を同時並行で進められる

故に、効率が倍増

みるみる内に、堀が出来ていく

そしてとうとう、完成しきった


まさかあの鍬がここまで役に立つなどとは思いもしなかった

やはり、あれか

ゴミをゴミたらしむか、価値ある道具にするか、それは持ち主次第ってことか、、、


まあ折角、命賭けて集めたものだ

使わずに放ったらかしにして、錆々にならずにすんで助かった、、、


ーーーーー


堀の完成の勢いのまま、次の準備に取り掛かる


今度は、巨木から離れ、堀よりも更に外


そこに見張り台、いや、高台()()ものを建設しようと思う


材料は、以前伐採した枝でいいだろう

もう十分薪木は揃ったので、見境なく木材を使っていい


となれば、、、問題は、釘、いや、もっと正確に言及するならば、固定する部分だろう


この異世界に釘となりそうな代物は、今の所目にしたことはない

そうとなれば、代替するしか他はない

しばし熟考


う~んと唸ってみても、特に名案は思い浮かばない


まあ、とりあえず、ワイヤーのように硬い紐で縛って、固定することにしよう

正直、今はこれ以外に策が思いつかない

うまくいかなければ、その時考えるとしよう


一先ず、大枠となる4本の柱を立てる

そして骨格となる部分を架け渡し、両端を紐で括って固定

ただそれを繰り返すだけである


だが、言うは易く行うは難しである

枝の重さ、高所での作業のおぼつかなさ、それに何と言っても建築への知識の皆無


素人建築では、豆腐建築もままならない

幾度となく、倒壊し、崩壊し、

やっと完成したと喜んで目をそらしたその最中、全壊する始末である


あえて、これを構築する目的について、まだ言及するのは、後送りにするが、これが完成しなければ、森への探索どころか、出発すらままならない、超重要要素なのである

うまくいかないからと言って、逃げ出すわけにはいかないのである


あれからというもの

数日間にわたる格闘が行われ

失敗を繰り返し、そのたびにあらゆる工夫を凝らす内に、最適解に辿り着いた


どうやら、固定には蜘蛛の糸

ワイヤーのように硬い方ではなく、身動き取れない程に粘着のある糸の方が最適らしい


運がいいというべきか、糸は、巨木を占拠する際に、蜘蛛が乱射したため、余りに余っている


糸を棒にでも絡め取り、固定したい接触部に塗るだけ

たったこれだけの作業なのだが、叩いたり、蹴ったりしてもビクともせず

全壊を防ぐことが出来るのだ


ただこの最適解にたどり着くまでに、色々と手間取り、試行錯誤を繰り返したがために、制限時間を迎えてしまった

結局、骨格だけの廃墟同然の、見苦しい建造物で終了を余儀なくされた


だが、それでいい

高さと頑丈さ、それさえあれば、及第点


なぜなら、そこで、敵を偵察するわけでも、敵の数を減らすわけでもない

巨木から近すぎず、だからといって遠すぎない絶妙な位置に、気持ち高めのオブジェがあれば、それだけでいいのだから

つまり、見栄えは最悪でも、最低限の働きさえしてくれれば良いということ

学校のテストなど所詮、赤点回避すればいいだけのこと、と全く同じことである


ふと空を見上げる

まだ、日は高い

だが、現世に戻り始めるには丁度いい時間

未知に対する希望を胸に明日の探索に向け帰路についた

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