三週目 日 拠点づくり2
白熱の防衛戦を繰り広げた日の翌日である
何とか凌いだとはいえ、夜を越すたびに、死を覚悟するなんて、冗談じゃない
本来、森へ赴くための休憩所であって、戦闘で体力を消耗させるなんて、元も子もない
ってなことで、拠点を改造することにした
俺好みの要塞に仕立て上げるのだ
此れは、これで中二の血が騒ぐ
まず手始めに、蜘蛛に荒らされた跡を綺麗に掃除していく
アチラコチラに蜘蛛の糸が張り巡らされているのだ
鬱陶しくてしょうが無い
不必要な武器にでも糸を巻き付け、撤去していく
粗方、綺麗になったので次の段階に移る
今度は、電灯と丸太を吊り下げていく
吊り下げるように使う紐は、何と蜘蛛がドロップしたものだ
つい先日、戦利品を整理していたら、そのような紐が見つかったのだ
注意深く観察、実験してみれば、これが実に優秀なのだ
普段は毛糸のようなフワフワした手触りであるが、極度に引っ張れば、ワイヤーのように固くなり引きちぎれることは無い
おまけにベトベトしていない
っという訳で、万能な紐をふんだんに使って吊していく
電灯は言わずもがな、光源の役割だ
漆黒に包まれる夜に、必須になることぐらい、想像に難くわないだろう
丸太と言うのは、小樹を胴体ぐらいの大きさにカットしたもののことだ
それを、紐でぶら下げる
そして、ブランコのように揺らすだけ
ただし枝、つまり敵の進行方向と垂直になるよう、揺らす
そうする事で、振り子のように揺れた丸太は、いづれ敵と衝突し宙へと突き飛ばすという寸法だ
クリスマスツリーに装飾するかのように、懐中電灯と丸太をデコっていく
満遍なく配置を終え、次の段階に移る
次は、地面
理論上、登ってくるのを塞いでしまえば、拠点は安息地になる
つまり、そもそも巨木に敵を近づけなければ良い
ここでやっぱり有効なのは、あのドロッとした液
だが、如何せん溶け切るまでの時間がもう無い
それの代替となるかは置いといて、堀、もとい溝を制作していく
・・・ほら、無いよりかはましだろ、気持ち落ち着くし、、、
だが、敵は基本、平坦には強いが、段差に弱い
それに、段差といっても階段ほどでなくていい
ほんの少しの段差であろうと、途端に鈍くなるのだ
案外、活躍するかもしれない
そう願いながら、巨木を中心にして、溝を3層程構築していく
丸太にも盾にもならなかった小樹の余りは、板状にして、巨木に巻き付けた
申し訳程度のネズミ返しの完成だ
幹の半周も届いてないが、無いよりマシだろう、、、
夜が耽るには、まだ時間があるということで、残り一つの段階に取り掛かる
アレコレと色々準備したのは、良いものの
結局、大群に効果的な大ダメージを負わせるには、枝を切り落とすのが手取り早い
それは、先日体験した通り
這い上がる者どもを巻き添えにし、地で待機する姑息どもを下敷きにするからだ
こんな大技、折角なら自分の手で、タイミングを計って、繰り出したい
っという訳で、矢と飲料を補充する貯蔵庫から、一段下の枝に目をつける
鉄斧である程度、傷を付けておき、崩れるように調整する
傷口を紐で結んでおき、思いがけぬ時に崩落しないように固定する
後は、追い詰められた時、固定を外せば、みんな奈落行きという具合だ
一発逆転の大技とは言え、足場が消える訳なので、いざという時にだけ使用することにしよう
そうこうしている合間に、日が沈み、辺りは、暗黒に包まれる
急いで、矢に紐を括り付け、同じ紐を腰に巻き付ける
結ぶのに、もたもたしていると、矢が飛んできた
のんびりと説明している暇はないようだ
この使い道は、後で話すとしよう
弓と盾を手に取り、反撃に出る
溝は、少しは役に立っているようで、遅延は出来ている
今のうちに、蜘蛛と弓持ちをかたずける
だが、そう余裕を持って戦闘できるのは、始めのうちだけ
堰を切ったかのように、ゾンビどもが押し寄せてきた
途端に作業が忙しくなる
這い上がるゾンビどもを突き飛ばし、合間を見ては弓を放ち、背後から蜘蛛が襲い掛かれば、すかさず返り討ちにする
一人三役を果たし、目に留まらぬ速さで、処理していく
それでも、じりじりと数の暴力に、前線を奪われ、一先ず一段下の枝まで後退する
徹底すると同時に、丸太を押して、作動させる
俺を追うことにしか脳のない馬鹿どもは、まんまと丸太の餌食となって、奈落へと飛んで行く
一先ず、突進するものは、丸太に任せ、別の敵に専念する
すると、蜘蛛が、罠の欠陥をついて、枝の側面や裏側から難無く侵入してきた
・・・ホント聞いてない
糸を乱射される前に鉄斧で敵を切り刻んでいく
どんどん追撃する蜘蛛に苦戦を強いられていると、黒い線がわき腹を掠めていった
何事かわからず、擦れた部位を抑えると手が赤くにじんだ
どうやら、狙撃されたらしい
戦闘をきたすほどの大怪我ではないが、迂闊だった
なんと、弓持ちが登ってきた
地から矢を放つだけかと思っていただけに、わざわざ前線に出迎えに来るとは、思いもしなかった
・・・ホント聞いてない
弓兵は、出しゃばらずに、後方で大人しくしてるもんだろ、、、
弓持ちは、幹にとどまり、半身を隠し、絶妙な位置から矢を放つ
こちらも弓で対抗する
だが、やたらIQの高い立ち回りに、苦戦を強いられる
一匹に集中を割いている間に、丸太の殺傷力は鳴りをひそめ、先頭は罠を突破し、おまけと言わんばかりに蜘蛛も侵入して辺りを糸で張り巡らせる
・・・もう頃合いか、、、
渋りに渋り、時期尚早と、ケチりにケチってきたが、これ以上、持ちこたえることはできそうにない
足場を崩す装置に手を伸ばす
切口を固定した紐を引っ張り、巻き込まれることがないよう出来る限り遠くへ飛んだ
すんでのところで、ゾンビの殴りをかわし、宙に躍り出る
スルスルスルと、紐がほどけていき、固定が外れていく
とうに重量オーバーだった枝は、周辺の敵を巻き込んで地に落ちていく
足場が完全に崩壊したことを確認
すぐさま、その後を追うように、俺も落下状態に入る
ブワッと風圧が体の至る部分で感じる
地面との距離がみるみると縮まっていく
地が迫ってくると錯覚するほどに
ここから助かる方法などないように思える
無様にぺしゃんこな死体ができあがる光景がありありと思い浮かぶし、実際に落下を体験している今も、死を沸々と感じさせられる
だが、策もなくて飛び降りる程、俺は馬鹿ではない
甘く見られては困る
腰に巻き付けた紐につながる矢を手に取る
うつ伏せになった体を無理にねじって、仰向きになり
そのままの苦しい体制で、弓を引く
射られた矢は、重力を無視するかのように、空へ、空へと向かって飛んでいき、巨木へと着弾する
即時に紐がピンと張られ、地で待機する敵の手からギリギリ届かない位置で、静止する
なんとか落下死は免れた
だが、安堵できるのも束の間
落ちた時の勢いが完全に消えてないわけで、今度は、幹に正面衝突するように進んでいく
怒る牛の背に乗ったかのように、到底操縦などできず、幹にへばりつくオークをクッションにして、衝撃を和らげる
緩衝材として犠牲となった敵を蹴落とし、一旦体制を整える
どうやら、這い上がる敵軍のど真ん中に、乱入してしまったらしい
即座に、蹴って再び地に躍り出る
着弾した矢を頂点として円錐を描くように移動する
それはまるで、巨木の周りを回る、ブランコのよう
この状態で、戦況を把握する
片側は相変わらず、びっしりと敵で埋め尽くされ、俺をつかもうと手を伸ばしてくる
中には、相打ち覚悟で飛んでくる、とびきり頭のねじがぶっ飛んだ奴もいる
・・・ホント危ねえ
だが、片側は完全に壊滅しており、敵はまばら
想定通りというか、狙い通りというべきか、やはりその下には、切り落とした枝がドンと落ちていた
すかさず、安全地帯に降下する
そして、ピンと張った紐を頼りにして、巨木を登る
何とか貯蔵庫まで復帰した
そうこうする内に、日が姿を現し、辺りをほのかに照らしていく
完全に敵を全滅させた訳では無いが、無尽蔵に湧く夜間とは違い、昼間は這い上がる敵を突き落とす単純作業になるので、ここいらで説明を加えようと思う
日が沈む前に焦って製作していたのが、まさにこれ
衝撃時にワイヤーのように固くなる性質を活かし、万が一、巨木が敵に占拠された時に、空中に脱出出来るよう準備していたのだ
弓で狙いを定め、行き先を指定出来るから、かなり使い勝手がいい
だが、ただ1点、巻き取る装置が完成していないため、矢が着弾した所に自分が引っ張られる訳では無い
つまり、地上から木のてっぺんに登りたい時、矢を放ち、木の高所に突き刺さったとしても結局は自分の地で登らないといけない、ということ
結局、まだ落下防止の安全装置としか役割を果たしていない、というわけだ
言わば立体機動装置の超下位互換だ
ただ、まあ、登る際に、紐を手繰り寄せながら上を進めるので、手のつかみ場所を探す必要がなくなった上に、何より安全ロープが備わっただけに、登るスピードが段違いに早くなったのだ
巨人に対抗する装置とは、完全に見劣りするが、今の俺にとって、重宝すべきものなのだ
なんせ、ついさっき、命を救われたばっかだ
安全装置としての役割は十分だ
、、、やっとの事で、敵の襲撃を看破した
地に降りる際、ここぞとばかりに装置を使う
自由落下する合間、体を捻って矢を放ち、地面スレスレで、体が引っ張られる
着弾地点を中心にして、俺は弧を描くように揺すられる
最下点を通る際、真横を通過する幹を足で摩擦させながら、勢いを殺していく
幹に降下して、地に足をつけようと伸ばし、、、伸ばす、、、
届かないのだ
ピンと張られた紐は、完全に俺を固定しこれ以上下に降りることを許さない
この身を自由にするには、突き刺さった矢を抜かなければならない
降りるために、また登るとか面倒くさいにも程がある
出来れば取りたくない手段なのだが、面倒が勝り、紐をちぎることにした
だが、バンジージャンプしても命に別条はないと、評価のついた紐が、ほんじょそこらの力で切れる筈がない
手で引きちぎるのをあきらめ、鉄斧を取り出し、ギチギチと擦り、やっとのことで引きちぎった
ドン
あまりに紐を切ることに集中しすぎて、まだ空中だったことを忘れ、受け身を取れずに背中から落ちたのだ
イタタと手で患部をさすりながら、立ち上がる
・・・こりゃ、改良が必要だな
強く強くそう感じた
ーーーーー
一旦装置の件は置いといて、戦利品の回収に取り掛かる
一先ず、切り落とした枝を手頃の大きさに分割
武器はレアリティごとに分類
紐の収集
いつもの作業を終え、お待ちかねの収穫発表
何と、今回、3つも煌めく武器があったのだ
ちなみに、鶴嘴、鍬、剣
すぐにでも性能を試してみたいが、二日間の戦闘続きで、体のいたるところが痛い
また後日にしよう
そういうわけで、心身ともに疲弊したので、大人しく帰路に就いた