3週目 平日 トラップ
蜘蛛と戦闘を終えた翌日のことである
楽勝だと高を括っていた運搬作業が、たかが蜘蛛一匹に妨害されるとは思ってはいなかったため、計画に遅れが出始め、大幅に作戦を変更させることを余儀なくされた
まずそもそも、蜘蛛一匹にあれほど手こずる時点で、一晩過ごすなど不可能だ
ということで、巨木の整備を一旦諦め、自身の強化に努めることにした
やるべきことはいたって簡単
異世界の夜を生身で入って、押し寄せる大群の波を切り伏せるだけである
狙いは、己の戦闘経験を上げることもあるが、単にレアアイテムドロップである
つい先日、帰宅途中に煌びやかに光る鶴嘴を手にするオークを目にし、いち早く現世に戻るべきではあったのだが、好奇心を抑えられず、その鶴嘴を強奪し、そのままオークに振りかざすと、何と敵に炎がどこからともなく燃え移り、塵となって焼却されたのだ
突然の出来事に、何事か目の前の事象を理解するまでに時間を要したが、次第に気が付いていく
その鶴嘴に宿す能力を、、、
つまり結局のところ、その鶴嘴には攻撃した相手を燃やす属性があり、その特殊性能を示すかのように、煌々と輝いているのだろう
あれだけ夜道を駆け回り、死ぬ思いを何度も繰り返したのちに、巡り合った武器なので、レア中のレアなのだろう
正直、攻撃力は鉄斧に劣る
だが、単に属性が鶴嘴に宿ったがために、弱体化しただけかもしれない
それに、属性が炎だけとは限らない
きっと、水に土、木、風、光、そして闇といった定番があるはずだ
そもそも、エフェクト持ちの武器を目にしたら、収集してコンプリートさせたくなるというのが、男という生物である
完璧に揃えた暁には、鉄斧などゴミと同然と化し、部屋一面に輝く武器を展示することを夢に見るのだ、、、
てなわけで、だいぶ長くなったが、レア武器めざして、敵をバッサ、バッサなぎ倒していこうと思う
早速異世界に入る、、、という流れだが、しばし待ってほしい
このタイミングでわかった情報をひとつ開示しておこう
異世界における一日のサイクルが分かったのだ
大雑把でわあるが、現世の時間と対応させたのが下記の通りだ
0〜4時 昼
5〜8時 夜
9〜12時 昼
13〜16時 夜
17〜20時 昼
21〜24時 夜
数分単位の誤差は生じるだろうが、先週の土日にかなり時計を気にして計測したから、かなり正確なものだと信用してくれて構わない
まあ賢い読者なら、もうお分かりかもしれないが、異世界の一日はいたって単純
昼夜各4時間ずつ、計8時間で1日は構成されている
異世界での活動しか報告していないから、忘れ去られているかもしれないが、これでも俺は立派な学生である
てなわけで、一日の大半が学校に拘束されているため、時間的観点からすると活動可能な時間帯な夜は5~8,21~24時
どちらがいいか吟味する前に、そもそも学校前に汗を流すとか論外
どこぞの強豪運動部と打って変わって、朝から意識高い系などにはなれぬ俺はその選択肢を排除する
そういうわけで、必然的に消去法で真夜中を駆け回る事となった
そこで、懸念点が一つ
睡眠をしっかり確保しようものなら、正直、家に帰ってる暇がないのだ
もっと詳しく説明するならば、前まで
家→学校→家→神社→家
のように逐一、家に帰っていたのだ
だが、それでは時間効率が壊滅的に悪い
そこで、苦渋に苦渋し、迷いに迷った末
家を捨てることにした
・・・流石に過激で過言であったが、言葉の綾ってことで許してほしい
要するに家を経由するのを辞め、神社→学校、学校→神社というように直接通うことにした
そんな普通の学生とはかけ離れた生活を送るには、必需品を揃えなければならない
というわけで、寝具といった必要な物を全て家から石室まで移動させ、全て運び終え、今に至る、というわけだ
時刻は20時
つまり、夜になるまで、まだ1時間ほど猶予が残っている
暇を持て余すには、もったいないので、腹ごしらえといこうかと考えてた訳である
ただただ、男児が孤独に飯を貪るシーンなど退屈で仕方がないだろうから、ここで一つこの俺の天才的な発想をお見せしようと思う
準備するのは、カップ麵と沸騰させた水だけ
もちろん、この時点で何一つおかしな点はありません
さあ、まず、カップ麵にお湯を注いでいく
次に、こぼれないようフタをキッチリとしめたことを確認し、カップ麺を異世界に放置
頭の中で、60秒数え切ったら、すぐ引き返す
そこで、フタを開封すれば、あら不思議、カップ麵の完成だ
勿論うわべだけなどではなく、麺全体が水を吸ってプルプルになり、蒸気と共に食欲をそそる香りが辺りを充満させる
三分足らず、いや、ものの一分で調理を完成させて見せたのだ
理屈は至って簡単
現世における1日が、異世界における3日なのだ
それはつまり、単純計算、現世より異世界のほうが時間の流れが3倍早い
故に3分クッキングが、1分クッキングになるのだ
ホントただそれだけの話
だが、3分もジッと待機できない、せっかちな俺にとって、この仕様は実にありがたい
ああ、そうそう、後それに味覚がバグる仕様も理解がいった
結論から言うと「現世の物を、異世界で食べるから」異常をきたすっぽい
例をあげるなら、家でにぎりを握ってきたとする
それを異世界で口にすれば、辛、苦、甘、酸、鹹味の5つのどれかにランダムで襲われる
ただ、たとえ、何度も世界を行き来し、食糧が異世界の空気に触れたとて、現世で食べるなら問題はない
つまり、感染とか伝染が原因だと勘違いしていたが、単なる場所、空間が問題だったらしい
故に、このカップ麺が異世界に渡ったにも関わらず、ヘンテコな味をしていないのはそう言うことである
出来立ての麺をかきこみ、汁ごとイッキに飲み干した
夜になるまで、まだ時間はあるが、早めにスタンバる事にする
狙い目はやはり、オークである
経験則から出現率の高い草原の中央に陣取り、夜が更けるの待つ
しばしすれば、辺りは暗黒に包まれすぐに敵がわんさかと出現し、俺を殺さんと迫ってきた
俺は迫りくる敵を一匹残らず薙ぎ払っていった
ーーーーー
特に煌めく武器は手に入らず、実質1日目は失敗に終わる
だが、それ以上に面白い発見があったのだ
恐らく、その無駄骨を超えるほどの
まず、あのスライムみたいに溶けて消滅していった武器たちを思い出して頂きたい
あんなに意義が無いと、無価値だと、そう暴言を吐き続けてきたのだが、まだ使い道はあったようだ
原理や理屈は全く分からんが、どうやら敵は溶け出した奇妙な液を踏まないよう避けて進むようだ
つまり、バリケードとしての役割を果たすっぽいのだ
此れは実に面白い
使い方次第で敵を翻弄出来るかもしれない
っと言う訳で、敵の討伐効率を上げるためトラップを作成していこうと思う
まず手始めに、スライムみたいな液状物を作るためには、まずまず溶け出すための原料、つまり木材が山ほどいる
だが、この点は、問題となる前に解消されたようなもんだ
運がいいことに神社付近は山である
ご自由に使える薪を掻っ攫えばいいだけの話
そんな訳で、可能な限り薪を担いでは、次々と異世界へと運んでいく
さあ、ここからは、トラップの製作である
運び込んだ木材を、ある基準となる点から、二本の線が直角になる様に伸ばす
その線の上を薪で、寸分たがわず並べていく
そして基準点を中心に半径1メートル程の円を描いて並べていく
出来れば、野球のグラウンドをイメージしてもらえると有難い
白線をなぞるように木を並べたのとほぼ同等なのだ
さて、超簡易トラップについて説明しようと思う。
まず、前提として、白線がバリケードを意味し、敵は白線を跨いで侵入は出来ないこと予めご理解いただきたい
そして、俺はホームベースに陣取り、ほぼ動かないと考えてもらっていい
そこは、先程円で完全に囲まれた場所で完全バリヤ、つまり無敵というわけである
それはつまり、敵の攻撃どころか、そもそも侵入できない安全場所から、高みの見物を決め込むかのように、一方的に殴りつける寸法である
ここで、製作途中であれだが、シールドを張るなら、単なる円だけで、二本の直線は要らなかった気もする
だが、左、右、後方の三方向を捨て、正面だけに注視できるという利点がある
それはつまり、ファウルゾーンから迫りくる敵をガン無視して、フェアゾーンのひと方向だけに全力を注げるのだ
安全面は高くなるが、効率はどうなるか分からない
考えたところで、巧妙な案は出ず、「ものは試しだ」という訳で、当初の予定のまま製作を続ける
一通り完成し、ただ並べただけの小二レベルの作品にもかかわらず、達成感に満ち溢れていた
木材が、全体的に溶け始めるのは、3日後
つまり本格的に使えるのは、金曜になる
折角、完成したし、早く試したいと首を長くして待っていたのだが、、、
ーーーーー
ヒュッ、、、スパン
「ひっ、、、」
今、絶賛死にかけ中
罠を夜間問わず作成に更けていたら、見知らぬ敵と遭遇した
敵が放った矢が頭を掠めて、俺を追い抜いていったのだ
一目散に逃げていく俺の後を、弓を装備したオークが追跡してくるのだ
・・・ホント、弓持ちなんて聞いてない、、、
反撃のため、間合いを詰めれば、やけに的確に放たれる矢が、行く手を阻み、近づくことさえ許してくれない
オークなんて大した事ない敵なのだが、武器差には、どう足掻こうと逆らえない
そんな訳で、一方的に狩る側から地位が転落し、今度は狩られる側になってしまったのだ
足を止めれば、即座に射殺されるのは目に見えてるので、斧を投擲して反撃を試みようにも振り返ることすら憚られる
逃亡だけでは、埒が明かないので、木を盾にして矢を防ぐ
オークの様子を窺うために、木から顔を覗かせた刹那
矢が頬を掠めて飛んでいく
「くっ、、、。」
電流のような痛みが頬を走る
掠り傷から滴る血を拭い、目をギラつかせ、覚悟を決める
次の矢が木の脇を通過したことを目視した瞬間
足に力を込め、木の影から姿を現し、盾となる障壁が何一つない草原に躍り出る
頭部に目掛けて放たれた矢をすんでのところで斧で、はたきおとし、一気に間合いを詰めていく
オークの腹部目掛けて、切り込んでいく
ゴン
鈍器が衝突しあう音が辺りに響いていく
すんでのところで、俺の攻撃を敵は、弓で防いだのだ
突然の防御に驚き、とっさに後ろに飛んで、間合いを取る
だが、悪手だったようで、これを狙っていたと言わんばかりに敵は、矢を即座に用意しキリ、キリ、キリと引いていく
逃げるのも無理、躱すのも無理、防ぐのも無理、そんな距離感に位置する俺は、賭けに出る
溜めをつくって、腕を大きく振りかぶり、そのまま投げ下ろす
互いに図ったのか、それとも単なる偶然か、奇跡的に同タイミングで矢と斧が互に発射される
放たれた武具は互に、掠めあい標的に向けて飛んでいく
投げ出した反動のまま俺は地面に倒れこむようにして躱す
一方で、矢を放射した刹那、身動きのとれぬ敵は、斧の餌食となり、地に伏した
ふ~、っと一息ついて、ぎりぎりの戦闘だったと思い返した後、討伐したオークに駆け寄り、弓を回収する
弓は木製で、弓幹は、先程切りつけた斧の跡がくっきりと残っている
弓幹には、節や樹皮が残り、持ち手以外、やすりがかけられていないところから、手作り感は否めない
だが、性能は十分に高い
そのことは、この身で実感したばかりだ
そんなわけで、初の遠距離武器、ゲットである
これで、狩りもはかどり、万事OKである
・・・OKではないんだよなあ、、、
ここで、皆さん悲報です
つい先日、完成したトラップ、日の目を浴びることなく、お蔵入りになりそうです
え~、あのトラップ、近接型に特化した構造になっておりまして、矢が飛んでくるなど想定されているはずもなく、無敵などとデカデカと宣伝しておりましたが、むしろ格好の的です、、、
試す間も無く、欠陥が見つかり、一人絶望する
ただ打ちひしがれていてもしょうがない
弓という道具、(おもちゃ?)で遊んでいこうと思う
っと言う訳で、絶望を払拭するように、無理にでもテンションを上げながら、なけなし程の矢と弓を担いで、夜の異世界を駆け巡る
・・・なけなし程度しかないのかよ、、、
さあ、気を取り直して、やはり的となるのは、人畜無害で移動速度が段違いに遅いゾンビ
弓を得意とするアニメキャラを思い描きながら、弓を引き、掛け声とともに、矢を放つ
「ステラーーーーーー」
矢は、自分でも驚愕するほどに、明後日のほうへ飛んで行く
流石に、おふざけが過ぎたというわけで、今度は真剣に弓を引く
慣れない所作だけに、焦点がグアグアと揺れる
それでも懸命に固定させ、敵と一致した瞬間に放つ
張力が溜めたエネルギーがふんだんに、矢に伝わり、光のごときスピードで吹っ飛んでいく
地面と平行に直線を描いて飛ぶ矢は、敵を捉えたかと思われたが、頭一つ上を通過していった
あまりの惜しさに悔しくなり、間髪入れずに、連射していたら、矢を打ち尽くしてしまった
どこか、コツをつかみ、手ごたえを感じ始めたので、たとえ面倒でも、回収に向かい、また定位置に戻って矢を放つことを繰り返す
見事に、弓に熱中してしまった、、、
ーーーーー
あれから、弓を使いに使い、威力に、精度、あろうことか連射速度も多いにレベルアップした
何なら、射撃場まで自作してしまった
いや、ホント、のめり込めるものがあるって、いいよね
ってなわけで、弓で遊んでいたら、いつの間にかもう金曜
想定通り、設置した木は、ドロドロに溶解し辺りを侵食していく
致命的な欠陥があるトラップだが、弓持ち以外の敵には十分程に刺さるし、あの労力が無駄になるのは絶対に避けたい
そんな思いから、結局、トラップを稼働させることにした
予定通り、ホームベースで陣取る
暇を持て余すことなく、わんさかと敵はやってきた
だが、もちろん敵は、獲物である俺が目前にいるも、得体の知れぬ液体を前にして、わたることができず立ち往生する
戻ろうものなら、次から次へと寄ってくる敵に押し戻され、ダマとなっていく
溢れかえる群衆に、何だか魔王になった気分
密集した敵は無害だとは言え、絵面が地獄なので、斧で片っ端から片付けていく
それにしても、やはり楽だ
一歩も動くこと無く、ただ一点目がけて斧を振り下ろすだけで、敵がバッタバッタ斬り倒されていく
もうほぼ半自動、いつか全自動トラップ欲しいな~
などとほざき、安心出来ていたのも束の間
次々にできる死体の山が後続にされ、液状の上に橋となって、道をつくる
文字通り、屍を渡って攻めてきたのだ
・・・ホント、聞いてない、、、
流石はアンデット、敵にも仲間にも容赦がない
ガン無視した・・・ホント、弓持ちなんて聞いてない、、、ファウルゾーンは、勿論、地面が見えぬ程に敵で埋め尽くされ、ただの地獄
そうとなれば、必然的に、逃げる選択肢は正面突破、ただ一つ
粗方、斧の餌食にしたがために、正面の敵数はまだ少ない
フェアゾーンに躍り出て、ひとまず内野内の敵を駆逐する
一先ず、一時、安全確保
だが、ファウルゾーンは、まだ手つかず
白線の奥には、血に飢えた獣が俺という餌を前に、狂暴化している
だが、焦ることはない
敵は移動速度に大幅な違いがあるとは言え、俺を直線的に追うことにしか脳がない
つまり、具体的に言えば、液を境界に、俺が左に移動すれば、大群が左に、右に動けば、右に動く
かなり、従順なペットなのだ
まあ、愛情表現が甘噛なんてレベルではないのだが、、、
というわけで、両手に枝を持ち、液を伸ばしていく
両腕を肩幅程度に固定し、平行な二本線を引いていく
それは、傍らから見れば、まるで線路を必死に伸ばす幼稚園児のようだろう
だが、こんな子供じみた策でも、十分に機能するのがこの異世界
脳無しどもは、俺の思うがままに、線路内を直進する
ぞろぞろと迫る敵に後れを取らないよう、後進ではあるが、時にカーブを織り交ぜながら、確実に伸ばしていく
うねうね、ぐにゃぐにゃと、特に深く考えもせず、ただ一心に伸ばしていたら、液がきれ始め、「ここらでいいだろう」と判断し、線路を閉じる
ふう、捕縛完了
完全に身動きをとれなくなった敵どもは、おしくらまんじゅう状態で、味方であるのに関わらず、押し合いが始まる
更にお馬鹿さんな事に、弓持ちが放った矢が、味方に当たり、本格的に仲間割れをする始末
退路を塞いだ敵は、次々に数を減らしていく
俺が手をかける間もないようだ
バリケードが破られ、一時はどうなるかと不安に駆られたが、敵の阿呆さに救われた
残った馬鹿どもを狩るうちに、夜が明け、太陽が草原いっぱいに光を注ぎ始めた
あれ程いた大軍を、ついに殲滅させ、戦利品の収拾へと入る
行動範囲が狭かっただけに、アチラコチラと走り回る手間が省け、スムーズに終える
今回の収穫はこんな感じ
薪と化す木製武器は、言わずもがなで、大漁
壊れかけた鉄斧も、タイミングが良いことに新調が入った
何より嬉しい事に、矢が大量に集まった
これ程あれば、無駄打ちなど気にせず、ジャンジャン打てる
ただ、お目当ての煌めく武器は、またもや手に入ら無かった
それ程に貴重なのだろう
気長に行くとしよう
トラップの改良も含め、まだまだ課題が残るが、今日はこのへんで終えるとしよう