表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者:
12/16

2週目 日 蜘蛛

異世界に初めて火をもたらした翌日のことである


火の灯しかたがわかり、飲料を無限生産を試み始めたのはいいが、ここで思わぬ事態に陥る

燃料が尽きたのだ

拾い集めた枝葉は、燃え尽き

確保しようものなら、森まで足を運ばねばならん、それが目的であるのに、、、


どうにかならんものかと、頭を捻らせた所

そこで苦肉の策として、戦利品を燃やすことにした

だが如何せん、燃費が悪い

漆をはぎ取り綺麗にしてなるべく燃えるよう工夫するも、対して効果はない

折角命をかけて蓄積した報酬が、燃え盛り塵と化するのを傍らで見ていると、つい涙ぐんでしまう

だが、武器よりも飲料のほうが大事なのだ、背に腹は代えられない


こんな風に自我をだましにだまし、やり繰りしていたがその戦利品とやらも底を尽きてしまった

てなわけで、薪集めと、更なる武器報酬を目指して夜の異世界に身を投じることにした


死亡してもまたリスポーンする、どこぞのゲームとは異なり、ライフは一つしかない

入念に、入念を重ねる必要がある

てなわけで、夜の中でも俊敏に動けるよう懐中電灯をそこら中に設置

まあ、設置といっても丁度いい木がなくて、地面に放置状態だが、、、


そして、暗闇の中、方向感覚を見失わないようゲートには、ひときわ明るい照明を備え付けた

これさえ有れば、迷うことなく現世に戻れるだろう


鉄斧を背中に結びつけ、出来立ての飲料を相棒のスタンドに備え付け準備完了


よし、と短く気合を入れ、暗闇の中を漕ぎ始めた


夜は無尽蔵に無制限に敵は湧いてくる

そんなものを相手にしていては、キリがなく、無駄に体力を消費するだけだ

それならば、初めから狙いを絞っていたほうがいい

そうだな、だとすれば、戦利品を落とすゴブリンとオークだけを討伐対象とし、ゾンビは完全無視でいいだろう


目前に迫りくるゾンビをシカトし、ゴブリン目掛けて突っこんでいく


ーーーーー


ゲート周辺は、一掃したが武器なしの敵が多く、戦利品もショボい


ここでは目的の物は手に入らないと悟った俺は、ゲートから離れ一気に草原まで駆け降りる

効率を上げるため、ゴブリンの中でも武器もちだけを的確に処理していく


初め戦利品を拾い集めていたが、面倒で、次の昼時に回収できると気づいてからは、ただ戦闘だけに集中する


そして探し求めていたオークの群れをやっとの思いで発見する


燃料として灰と化した武器も、今手にするこの鉄斧もきほん大概は、オークからもらい受けたものだ

つまりオークの群れを一つ殲滅するだけで一攫千金(いっかくせんきん)、大漁のチャンスなのだ

この機を逃す手はない


一度相棒をわきに止めて、地に足をつけてオークの出方を(うかが)

俺の存在を認識したオークたちは群れ単位で襲いにかかってきた


数の暴力にはさすがに敵わないので、いったん退却し、戦力を分散させてから、切り込んでいく


ポコッとでた腹を鉄斧で切り裂いていく

目立つ急所だ、失敗することはない

立て続けに、1匹、2匹、また1匹と討伐していく


防具もちには、苦戦させられたが、想定通り

一度敵対した相手の攻略法など心得ている

槍で心臓を穿(うが)ち、見事オークの群れを一蹴(いっしゅう)してみせた


鉄斧を振り回すハードな運動に、額から汗が止まらないが、休むことなくオークの群れを探し求めて相棒をこぎ続けた


ーーーーー


結局その後、三組のオークパーティーを蹴散らした後に夜が明け、戦利品を回収しに行く

各所に点在していて、注意深く周辺を見渡さないと見落としそうになる

あらかた収集を終え、石以下のレアリティの武器は躊躇(ちゅうちょ)なく炎へとくべる


山のように積み上げられた戦利品が、見る見ると減っていく


一晩で、かなり戦利品は集まるのだが、やはり燃費が悪い

大体のところ、1群れ、2~3Lといった具合だ

先の長くなる話だが、こうする以外に他はない


ある程度飲料水の確保ができたということで、運搬へと作戦を移行しようと思う


ただ、巨木の中で二晩過ごせるだけの水を運ぶだけ

とっても簡単な任務、チャッチャと済ませてしまおう


っと言う訳で、煮沸したばかりでまだ熱のこもるボトルをリュックに敷き詰めて背負う

そして、巨木向けて漕ぎ始めた


程なくして目的地まで着く

難なく巨木の根本まで運び込めたのは良いが、モンスターの手に届かぬ上まで運び込むまでが任務


実は、想定以上の重さにリュックが食い込んで肩がヒリヒリと痛いのだ


一気に運ぶのは、難しい

手間になるが、諦めて着実に一つづつ運ぶ事にした


ボトルを一つ腰に巻き付けて、登り始める


一度通ったため、ルートが目に焼き付いており、手のかけ方から足の運び方まで、以前の動きをトレースしていく


程なくして、地に一番近いチュートリアル地点である枝に到着する


一度そこで休息を取り、巻き付けたボトルがあることを確かめる

そして見上げる


目指すは、ここから更に二つ上

そこなら、くつろげる程のスペースがある事は、すでに把握済み

その上そこは枝葉が()い茂り雨風を防いでいる

つまり、飲料水の貯蓄としてこれ以上ないロケーションなのだ


その高みへ目指そうと幹に手足を掛けて、登ろうと上を見上げた刹那(せつな)


バッ


と視界が遮られ、一瞬で暗黒とかす

余りの衝撃に、反射でその場にかがみ込む


ドッサと後方で、何かが着地する音がした

何物かと振り向くと、、、


チュイーーーーー


そこには、爛々(らんらん)とした目で睨み、怒りを(あら)わにした音で俺を威嚇(いかく)する敵がいた


突然の敵の出現に、俺は混乱し戸惑いを隠せずにいる


そんな俺に猶予(ゆうよ)を与えるはずもなく、敵は胴体から生えた6本の足を器用に、足場の少ない枝の上を伝ってくる


俺と同等な大きさに驚きを隠せないでいるが、カタカタと迫りくる不気味な動作で何者かが判断できた


蜘蛛(くも)か、、、」


襲いに来る敵に反撃をお見舞いしようと足を開いたところ、運悪く足を踏み外す


ズルッ、滑らせた足から自由落下に入る


無様に落下しするわけにはいかず、天に手を伸ばし、すんでのところで枝を掴む

結局片手で、体を支える羽目となった


不幸中の幸いなことに、蜘蛛の突進は(かわ)せた


蜘蛛は勢いを殺せず、幹に正面衝突しその場でクラクラと目を回している


その隙を好機と捉えた俺は、枝を両手で掴み鉄棒の要領で、後方支持回転で戦場に復帰

そして間髪入れず蜘蛛を蹴飛ばした


宙に躍り出た蜘蛛は枝に足が届くはずもなく、虚しく地へと落ちていくーーーと思われた矢先


プッシューーー


蜘蛛の口から白い物質が放射された

それが枝に着弾し、瞬時にピンと張って宙ぶらりん状態となる

そして、糸を手繰(たぐ)り寄せるかのように、ニューと蜘蛛も戦場への復帰を試みる


奈落に敵を突き落として勝利を確信したのに、実は死んでなくて、再登場する時の絶望感と言ったらありゃしない

その上、軽量化のため斧は下に置いてきたまま


このままでは打開策は無いと瞬時に判断し、撤退へと移行する


一刻も早くこの場から逃げ去りたいが、闇雲に飛び降りれば、落下死するのは火を見るよりも明らか

敵の討伐は失敗したが、時間は稼げた筈だ

落ち着け、落ち着け、きっと大丈夫だ


焦りではやる気持ちを抑えながら、一歩、一歩順調に降りていく


時折、蜘蛛の位置を確認するため上を見上げる


あちらもあちらで、枝に辿り着くのに必死なようだ


ガタイがデカいとは言え、やはり蜘蛛

枝に辿り着くや否や、驚く程のスピードで枝、幹と渡り歩き、瞬時に間合いを詰めてきた


コチラといえば、陸にあげられた魚状態

迫りくる蜘蛛の気迫に気圧され、アプアプして、なかなか進まない


「くっそ、、、速え」


顔を上下にやり、自分と地、そして蜘蛛との距離を測る


俺のいる位置はまだ半分、どう考えても追いつかれるに決まっている


なら、ーーー


猛スピードで迫りくる蜘蛛と衝突するほんの(わず)かな隙ーーーーー


幹を蹴って戦線離脱する


フワッとなる気色の悪い感覚と、高さ故の恐怖を無理矢理払拭し、落下地点を見定める

体をひねって可能な限り相棒近くへと目指す

着地の瞬間、前に転がり込んで限りなく衝撃を和らげる


数回転したせいで目が回っているが、敵はまだ残っている

悠長(ゆうちょう)に出来るはずも無く、頭を抑えながら何とか立ち上がり、斧を手に取る


それと同時に、蜘蛛も地に降りてきた


目線は蜘蛛に見据え、相手の動きを図る


右か? それとも左か?


そう推測した矢先ーーーーー


視界に白い点が迫りきて、為す術無く右足に着弾する


ベッチャっとした嫌な感覚が右足を襲う

それに耐えられず、足を動かそうとしたのだが、うまく動かない

白い糸が絡みつき、足が地に固定されたのだ


・・・クッソ、接近戦と思い込んだせいで飛び道具への反応が遅れた


慌てて、斧で糸を斬ろうとするも、今度は斧が絡まって戦闘不能になる


動きを封じられ、武器も無効化され、絶体絶命のピンチ


敵に情などあるはずも無く、触れられる距離まで近づいてきた


右足が封じられただけで、まだ手と左足はまだ自由

こんな所で終わるわけにはいかないと、蜘蛛の胴体に蹴りをお見舞いする


キーーーーー


耳をつんざく悲鳴が辺りを震え上がらせる


戦闘中にもかかわらず、あまりの高音に耳をふさぐ


騒音が止み、ハッと我に返る


敵は、ただ突っ込んでくるゾンビ程馬鹿では無いらしく、学習し、俺の手足では到底届かない間合いから、糸を連射する

手足の自由を奪いに的確に狙撃される


だが同じ手を喰らう程俺も馬鹿ではない


すんでのところでかわしていく


片足が封じられている中、跳ねて、伏せて、と激しく動き続けるうちに、糸の粘着が弱まっていき、次第に右足に可動域が増していく

頃合いだと判断し、力を込めて一気に引き抜くと、固定が外れ、斧をまとりつけたまま右足の自由を取り戻す


蜘蛛も罠から逃れる獲物をみすみすとみごせるはずもなく、なりふり構わず連射した


斧が張り付いて、移動にぎこちがないが、弾幕ならぬ糸幕の合間を縫いながら確実に間合いを詰めていく


蜘蛛も連射をやめ、「望むところだ」と言わんばかりに突進してきた


正面衝突するその刹那、俺は右足を高々と上げ、そのまま振り下ろす

右足に張り付いた斧は、足の軌道を追い蜘蛛の胴体を切り裂いていった


キーーーーーー


耳を通じて頭を浸透させる断末魔が辺りに響き渡った

ひとしきりないた蜘蛛は、力尽き、ドサッと地に伏した


蜘蛛の死を確認し、安全が確認されてから一息ついて腰を下ろす

死を覚悟した戦闘にまだ心臓の鼓動が止まない

震えの収まらない手で、絡みついた糸をほぐしていく

かなり複雑に絡まりあったようで、ちょっとした難解パズルな上に、ベタベタな手触りで苦戦を強いられる


めんどくささ故に躍起になって、一度手で糸を全て絡み取り、その場の草になすりつけた


なんとか、鉄斧と右足を切り離すことに成功したのはいいが、そうこうしているうちに、日は沈みにかかろうとしていた


飲料水の運搬がまだ達成できていないが、渋々と帰路に就いた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ