2週目土 炎
生贄を並べて撤収した次の日からの話である
水分確保と巨木の制圧などと忙しく、時間がシビアで、家に戻る暇すら勿体ないと思うようになった俺は、ありったけの食料を購入し、ゲートを祭る石室で一晩過ごす
起床と朝飯を済まし異世界の夜が明けるまで待機する
9時ごろ、暗黒な世界から日差しが差し込んでいき、朝の到来を告げる
さあ、本日の目標の確認といこう
森に到達するのに水分が必要で、その水を汚染された川から得るしか道は残されてない
安心安全な飲料を確保るには、沸騰させて十分に殺菌する必要がある
その過程に必要な火を灯すことが、今日のミッションだ
到来の目的である水分確保も重要だが、火を操れるようになれば戦術の幅も広がると期待できるので、是非ともわが物にしたい
そう思うが早いか、木まで駆け寄り樹皮をむくように鉄斧で幹を削っていく
いい感じに平面に広がる板を自作し、斧で一か所穴を開ける
そこら中に落ちている枝をかき集め、開口とぴったしになる太さを探していく
枝を穴にはめ、板を足で固定したら準備OK
後は、両手を駆使して枝を回転させるだけ
コス、コスと木と木がこすれあう音が響く
何だか原始時代にタイムリープした気分
初め固定が甘く、幾度となく穴から外れ、勢い余って足を削るところだっただが、慣れてくれば話は別
安定性が増し、次第にシュ~、シュ~と音を上げながら煙が立ち込める
あと少しだと確信し、さらに回転を増していく
もう少しで火が付くのだとそう信じて、、、
かれこれ奮闘してもう、2,3時間
手元が見えなくなるほどの煙と手袋なしではやけどしそうな摩擦熱が発生してもなお火が灯る気配はない
方法が正しくないのかと思いなおし、今度は墨を硯で削るように、枝を板でこすっていく
回転では充分に力を加えられないが、摩擦部分を上から押さえて削る分、摩擦熱の発生量も多く、煙もすぐに発生したのだが、、、
これでもやはり火はつかない
慣れない単調作業と、普段使わない筋肉を酷使したため、体が悲鳴を上げていることと、もうすでに夕焼けに差し掛かってきたこともあいまって、いったん現世に撤収することにした
俺が思うに、いいところまできていて、恐らく、もう一押しとなる何かが必要なのであろう
ここから、4時間耐久なので、時間効率もかねて火おこしについてヒントやカギとなるものを調べてみた
ネットにつなぐには、石室を抜けねばならぬ
隠し通路から外に出て、回線を拾う
科学といえば、電先生
そこからしか得られない、癒しと知識、はぴエネをこれでもかってぐらい摂取する
他にも、検索エンジンやら動画を視聴し、何だかんだ夜が明けたのでリベンジを果たしに異世界に渡る
電先生曰く、初めに試したのがキリモミ式
二つ目が、一番シンプルな火溝式
そして、後者なら削られるほうの木が重要
繊維が縦目で柔らかいという条件が必要だそう
それが火が付かなかった理由か知る由もないが、少なくとも俺が使用した木は硬かった
柔らかい木を探すにはここ周辺では木々が少なすぎる
かといって条件の見合う木を見つけるには、森に捜索へ出ねばならん、今から探索への準備を整えているというのに、、、
くっそ、万策尽きたーーー
と心の中で叫ぶと共に絶望する
どうしたものかとホントに途方に暮れていたところ、鉄斧が視界に入る
そう言えば、柄の部分は木製だった
これが、火おこしに向く木か分からないが試してみる価値は十二分にある
あまりに余っているが、貴重かもしれないので、厳重に一か所に保存している戦利品を取りに行き、刃先も木製の武器を引っ張ってきた
鉄斧で削っていき、木の特徴を確認していく
初めは硬くて傷一つつけるのがやっとだったが、切れ込みを入れてしまえば、その切れ込みに沿って追い打ちをかけると、途端にきれいに真っ二つに裂けた
力を加えてもびくともしない先程の木とは違い、この木はうまく力を伝えれば、曲げることだって可能
これが正しく追い求めていた縦目で、柔らかい繊維なのだろう
この木では、戦闘に向かないと違和感を感じたが、恐らく、蠟だとか漆だとかを周りにコーティングして、殺傷力を補強し、柔らかさ故の軽さも追及された一品なのだろう
こう思うと敵が担ぎ上げる単なる道具が、この世の技術や知識を詰め込まれた賜物だと思えてきた
武器を分解し、板状にして地面に敷く
電先生が楽しくファイアする姿を掘り起こしながら、自分でも実践する
ふ~、と一息ついて肩を脱力し、腕をまくる
枝を握り力をこめて丁寧にこすっていく
削れた時に木の粉が、あたりに散らばっていく
次第に摩擦熱により、黒い粉が煙とともに発生する
煙の発現を確認するや否や、こする手を早め、高速で削っていく
ある程度黒い粉が蓄積されると、その粉を素早く火口に移す
ふ~、ふ~、と息を吹きかけ、今にも消え入りそうな火の手助けをする
空気を送るごとに、煙の勢いが増し、瞬時に燃え上がる
「熱っ、、、」
突然の燃え広がりに、火口を持つ部分が失われ、熱さに耐えきれない指は、激しく燃え上がる火口を手から放してしまった
草原に燃え広がろうとする炎を、はたいて対抗する
こちとら水が貴重すぎて鎮火する為になんて使えんのじゃ
すばっしこいハエを退治するかのように、地面をバシバシ叩いて鎮火させる
ひと通り火種を鎮火し、これ以上燃える危険がないことを確認してから一息つく
ふう~、危うく大炎上するところだったぜ
大火災は免れたが、一面緑の美しい草原の中に、禿げて露出した土がなんとも違和感
まあ、何はともあれ火が付いたことには変わりない
今度は川辺へ場所を移して、鍋に水を汲み、再点火を試みる
一度コツをつかんでしまえば、お手の物
難無く火が灯り、集めた枝葉に燃え広がっていく
燃料を調節して、火加減を調整し、濁った水を煮沸していく
しばらく待機したのちに、ボコボコと溶液が暴れだした
禍々しい濃青色が次第に透明感のある清潔な色へと変わっていく
ある程度色素が抜けたところで、燃料の追加を辞め、炎がやむのを待った
熱湯をボトルに注ぎ、ふ~、ふ~と冷ましてから、一口
口内と舌、それに喉に熱が帯びていく
正直、熱さ故に味など到底わからぬが、辛味、苦味、酸味といった拷問は感じられなかった
つまり、これはもう安心安全な飲料水を手に入れたといってもいいだろう
煮沸した水を可能な限り、ボトルに移しゲートまで運び、明日の日曜に向け現世で睡眠をとった