第8話 アニメの夜
「それでね、そろそろわたしも今後のことを考えるべきだと思って」
注文を終えた寝ね子(201)はタッチパネルを肩かいる(22,501)に渡す。
「今後? とりあえずおれは自分の麺類を頼むぞ」
「あれだ、寝ね子の小説のことだろ。あ、かいる。すまん、おれにビールを」
がらんどう(198)は注文をする肩かいる(22,501)に言った。
寝ね子のブクマ200到達と、もうすぐ200に到達するがらんどう、そして2万を超えた肩かいるをいつもと違う雰囲気で互いに祝い合うため、3人はスナックるいかを飛び出して近隣にあるチェーン店の居酒屋に来ていた。
「わたしのSYOGUNも200いったし。色々なことをね。先々のことというか」
「先々ってなんだ?」
肩かいる(22,501)は目の前のたこわさをつまむ。
「つまりね、言ってしまえばSYOGUNのアニメ化なんだけど」
寝ね子(201)はジョッキのビールを飲み干した。
十段くらいすっとばしてんなあ。えー、ブリはさっき食べた。おれがまだ手をつけてないのは。がらんどう(198)は刺身盛り合わせから自分が食べるべきものを選ぶ。
「おれのとこにも本の話来たけどよ。アニメ化が確約できるか? って訊いたら、それは出来ないって言われたわ。だからやめた」
「おれ業界のことよく知らないけどさすがに確約はきついんじゃ。というかそれでやめてたら全部断ることに」
「そうだよな。だから次来たら考えるわ」
「そうだ。今後の参考のためにさ、かいるとがらんどうって好きなアニメってなに? あ、原作付きはなしで」
どっちかっていえばなろうに投稿しているおれたちは原作の方面じゃ。がらんどうは(198)そう思ったが、黙ってわかさぎの唐揚げを口に運ぶ。
「そういう条件なら。おれはサイコパスとコードギアスだな」
「お、おお……。さすがかいる。普通そう思っていてもこういう場ではなかなか言えないやつがきた」
「いいじゃない。じゃあがらんどうは? そうだ、ガンダムとエヴァはだめ。話長くなるし」
「ええー、それなら。うーん、ええっと、あるんだよ。あるんだけど、出て、ああ、そうだ。マクロスかな。リン・ミンメイが嫌いなやつなんてこの世にいない」
「はあ……。もう、なんで」
寝ね子(201)はため息をついて、串盛り合わせ(塩)から豚串を取った。
「ガンダムとエヴァがだめならマクロスとジブリもだめでしょ? なんでわからないかなあ」
「ええー、そうなの。じゃあ、うーん。あれ、銀杏が主題歌のやつ。絵があの人で、そうそう、サニーボーイ」
「へえ、わたしそれ観てない」
「おれも知らんな」
こいつら観てねえのかよ。よし、おれが。がらんどう(198)はグラスに残ったビールを飲み干し、タッチパネルでハイボールを注文した。
「このアニメの何がいいかを話そう、おれなりに。このアニメはなあ、監督、原作、脚本を1人でやってるやつなんだよ。そしてこのアニメを作った人はね、何かを激しく伝えたいんだよ。めちゃくちゃ伝えたいんだけど、おれに読解力がないせいでいまいち伝わらなかった。でも、激しく伝えたいという思いが画面から飛び出ててさ。そうなってくると、おおお! ってなるんだよ。人は、おれは。それにこの人はここで自分の持っているものを全部出す、という気概をね、感じたのよ。実際どう考えていたのかはわからんけど。全部を出す、出し尽くす。後のことは知らん! みたいな。だから観てると、もうやめてくれ! あなたが死んでしまう! っていう心配も所々に。でも、気が付いたらおれは拳を握りしめていたんだ」
「他は?」
寝ね子(201)は運ばれてきたハイボールをがらんどう(198)に渡しながら言った。
まあわかってた。伝わらない気はしていた。がらんどう(198)は軽く礼を言いつつジョッキを受け取る。
「原作付きじゃないのかあ。うーん、あ、フリクリは好きだわ」
「おお、がらんどうもか? おれも好きだぞ」
やっぱりあれでピロウズが好きになったんだよなあ。やっぱり、お前もそうか。そうだよ、あとなんだろう、セリフもいちいちこう印象的というか、かみさまっすーとかさあ。わかるわ、おれはたっくんはさあ、のあいつが好きだった。
がらんどう(198)と肩かいる(22,521)が物まねを交えつつフリクリの話をしていると、もう、ね。また。と寝ね子(201)が小さく呟く。
「だから、なんで中年男性はフリクリとザゼンボーイズが好きなの? もう全員そうじゃない、あと寄生獣。ねえ、どうなってるの? その時代学校でなんかやってたの?」
「いや、うん。まあそうなんだけどさ。ちなみにおれそれ実生活でも言われたことあるわ。フェスっていうか、ライジングサンに行ってる時に。ちょうど向井がその辺をうろうろしてて」
「いいから、がらんどう。そこ広げなくて」
その後、話題は肩かいるの作品がアニメ化した場合の主題歌についてに移り、更ける夜。