表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

第7話 レビューの意味


「うーん、なんか進まないな」

 スナックるいかのカウンターに座る寝ね子(129)は、キーボードから手を放し背伸びをした。


「まあ無理せずともね。そのうち書きたくなるから」

 同じくカウンターに座るがらんどう(112)はスマホに表示されている広告を眺めつつビールを飲む。


「だって、わたしブクマ130だよ? ということは1,300人ぐらいが続きを待ってるはず。その人達のためにもちゃんとやらないと」


 そんなに読者いないって。どういう計算だよ。がらんどう(112)はそう思いながらも右上の×を押して龍と苺の続きを開いた。


「2人はどうなの? 書きたくない日ってないの? あ、ごめん。かいるはいい。書くのが好きで好きでたまらない変人だから」

「かいる。言われてるぞ」

「おれか?」

 キッチンでじゃがいもの皮を剥いていた肩かいるは(19,554)手を止める。


「寝ね子がさ、書きたくないときってあるの? だって」

「おれはないな、楽しいだけだ。というか趣味なんだから止めたきゃ止めればいいだろ」

「ほら、やっぱりおかしいよ。楽しいだけって。一応客がいるのに明日食べるカレーを作ってるし。がらんどうは普通だよね? しんどいよね?」

「おれも楽しいよ。辛いと思ったことはないかなあ」

「……え? 本当に?」

「1人しりとりやってて意図せず負ける、みたいなのあるしさ」

「ちょっとかいる、がらんどうの言ってるのわかる?」

 寝ね子(129)は肩かいる(19,554)にジョッキを差し出す。


「いや、わからん。なんで小説書いててしりとりやってんだ? ビールでいいのか」

「うん、お願い」


 ぐ、きつい。やっちまった……。なんだよ、しりとりって。がらんどう(112)は心を落ち着けるため空になったジョッキの底を覗いた。


「あ、そうだ。それならね。嫌じゃなかったらでいいんだけど。2人でわたしのレビュー書いて貰えないかな。ほんと嫌じゃなかったらでいいから」

「あー、レビューね。いいよ。それならの流れはわからないけど」

 がらんどう(112)はしりとりの話から離れることを目的にすぐさま了承した。


「かいるもいいかな?」

 寝ね子(129)は遠慮がちに言った。


「ああ、おれか。とりあえずがらんどうの見て考える」


 またおれが生贄か。でもいいよ、しりとりの話を忘れてもらえるなら。がらんどう(112)はスマホを取った。



「よし、出来た。これ投稿すればいいんだろ?」

 15分後、レビューを書き終えたがらんどう(112)はスマホを置き、ビールを注文するため肩かいる(19,554)を探す。


 そこにいたか。だめだな、これは集中してるやつだ。トイレで書く前の段階のやつ。


 一番端の席でスマホを操作している肩かいる(19,554)の様子から状況を察したがらんどう(112)は、自分でサーバーからビールを注ぎ、レジ横のメモ帳に正の字で1杯分を追加した。


「ありがとう! ごめんね、ちょっと一回見せてもらっていい?」

「じゃあ送るよ」

「大丈夫。ちょっとスマホ貸して」

「いいよ。まあ若干適当な部分もあるけど」

 がらんどう(112)はスマホの画面を確認し寝ね子に渡した。




 とにかく溺愛されたければ読むべき溺愛小説  投稿者:がら がらんどう


 この小説の溺愛は他の溺愛とはわけが違う。溺愛の重さが違う。

 永遠とも思える溺愛、常に溺愛。普通ならこんなに溺愛されてもしんどいだけだよ。

 だが、たまにはいいじゃない。ドーナツにメープルシロップを塗りまくってもいいじゃない。シロップで手が汚れたっていいじゃない。




「これを読んで、これを読んだわたしがね」

 

 がらんどう(112)にスマホを返した寝ね子は、がらんどう(112)と同様にサーバーから自分のビールを入れ正の字で追加した。


「ほうほう」

「例えば、そう。例えば、ちょっと怒って、無理やり作品を褒める文言を入れるように指示。みたいな流れいらないよね。しんどいから」 

「そういう感じでいく? それならそれでいいよ」

「あ、かいる」


 寝ね子(129)は端に座る肩かいるに近づき、ねえ、今何書き? と詰め寄った。


 すげえ。おれ集中しているかいるに声かける勇気はねえ。がらんどう(112)は一応投稿は保留とし、自分の小説を開いてアクセス解析を行う。


「おれも書いたぞ」

「え、そうなの? 見せて」

「いや、もう投稿したわ」

「え……」

 何とも言えない表情で固まる寝ね子(129)

 

 まあ不安だよな、かいるだもんな。がらんどう(112)は寝ね子(129)のページに入り肩かいる(19,554)が書いたレビューを開いた。




 設定の出オチではない  投稿者:肩 かいる


 こういう設定は読んだことがない。おれなら思いついても書かない。しかしこれまで読んだことがないもの、見たことがないものを良しとする人。そういった人には向いている。

 先は読めるが分かった上で読ませるだけの力はある。ただ、これを読むなら他を読むというのは間違ってはいない。


 しかし、誰にだってこの小説を読む時間ぐらいはある。




 うーん、微妙なのきたな……。がらんどう(112)は2度読んだ後、ちらりと寝ね子(129)を見た。


「……ねえ。わたしも2人の書いていい?」

「ごめん、おれはいいかな」

 がらんどう(112)は即答する。


「わざわざ書かなくてもいいだろ。別に今口頭で言っていいんだぞ」

「……やられっぱなし、やられっぱなしで」

 寝ね子(129)はスマホを握りしめて呟く。


 がらんどうは(112)静かにカウンターの棚に自分のボトルを戻し、肩かいる(19,557)に会計を頼む。


「は? 逃げるの? ねえ、がらんどう。逃げるの?」

「いや、逃げるっていうか。おれは、ごめん。逃げる。空気が重くなる前に」

「こっちだって撃てるんだよ! 弾はいくらでもあるんだから!」


 遠くから寝ね子の声が聞こえる。


 がらんどうは一度振り向いて、ごめん。と告げ店を出た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ