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第5話 自問自答


 いいね、紙で伝える臨時休業。スナックるいかに着いたがらんどう(78)はドアに貼られた張り紙を眺めていた。


 なんていうかな。やはりこうスナックのドアだと雰囲気が出ると。ん、下になんか書いて。ああ、これか。

 

 がらんどう(78)はドア横に置かれた6缶パックのビールに目をやる。

 

 なるほど、詫びとしてこれを持っていけと。がらんどう(78)はしゃがんでビールの側面に触れた。

 まだ冷えている。ということは、ということは? ということは、まあどうでもいいな。がらんどう(78)はしゃがんでドアにもたれつつ寝ね子を待った。



「あ、がらんどう。え、何? 休み?」 

「そう臨時休業みたい。で、これ」

 がらんどう(78)はしゃがんだまま横に置いてある6缶パックのビールを指す。


「……これ大丈夫なの?」

 寝ね子(89)はがらんどう(78)の横にしゃがみビールを指でついた。


「うん。裏にかいるって書いてある」

 がらんどう(78)はビールをひっくり返して底を寝ね子(89)に見せた。


「何それ? なんでわざわざ」

「ほら一応危険物じゃないよってことじゃない。張り紙にも書いてあったし。とりあえず今日は貰ったビール飲みながら帰るか」

「うん、しょうがないよね。がらんどうって家どこだっけ」

「おれは発寒南。寝ね子は月寒でしょ」

「そう。カリー軒ってあるでしょ? あの辺」

「カリー軒? 知らないなあ」

 がらんどうは(78)ビールを持って立ち上がる。


「え、信じられない! 札幌市民全員知ってるよ?」

「いや、それは言い過ぎかと。おれ札幌市民だけど初めて聞いたよ」

「どういう生活してるの? 変人アピール?」

「カレー屋以外そんなにカレーのことを意識して生きていないと思うけど」

「そういう意味じゃない。あくまで一般常識の問題だから。とりあえず1本ちょうだい」

 差し出された寝ね子(89)の手。がらんどう(78)はやや適当に紙を破いてビールを2本取り出し、1本寝ね子(89)に渡した。


「ありがとう」

「じゃあ、行くか」

 2人はビールの蓋を開けて歩き出した。


 

 がらんどう(78)と寝ね子(89)はビールを飲みながら住宅街を通り抜け、東7丁目の北光線に出た。

 市内の主要道路である石山通、創成川通と並ぶ北光線は、午後九時を超えても車通りが絶えず、がらんどう(78)はなんとなく居心地の悪さを感じ足を止めた。

 

「なあ、この通りに出て2人でビールはきつくない?」

「うん、わかる。迷惑は掛けてないけど見方によって結構しんどい2人になるよね。そこのコンビニ寄らない?」

「おお、そうしよう」


 がらんどう(78)と寝ね子(89)はコンビニ駐車場の端でビールを飲み干し、空き缶を4本コンビニのごみ箱に入れ再び歩き出す。

 


「なんか缶ビール2本ってすごくモヤモヤする」

「それはわかる。寝ね子の今までの言動で一番同意できる」

「別に同意はいいけど。あ、かいるのニーガンのタイトルって評判どうなの?」

「だからニーガンじゃないって。そして色々見てるんだけどまあ不評だね、あのタイトル。たまに好評な感じあるんだけど、それはあのタイミングでタイトルを変える意味の分からなさを無理やり褒めてるパターンでさ。結局おれはすべり、かいるは褒められるという」 

「別にいいでしょ。がらんどうが変えたって誰も知らないし。そうだ、今日訊こうと思ってたんだけど最近のギギルコンのブクマの増え方どうなってんの?」

「いいね。それが本題か」

 予想通りの展開だ。がらんどう(78)は気持ちよく口を開く。


「おれもわからないんだよ。なんかかいるのタイトル変えたぐらいから伸びて、ここ2週間で50ぐらい増えてる」

「え、50! うそでしょ!?」

「今は70超えたぐらい」

「ちょっと待ってよ。今って何話?」

「50話超えたぐらいかな」

「まだミナトロンとコミュニティの案内みたいなのしてるとこなの?」


 おお、読んでるじゃないか……。がらんどう(78)は少し感動した。


「そうそう。まだやってる」

「がらんどうごめん。正直に言ってもらいたいんだけど、相互のグループとか入った?」

「違うって。というか相互ってめっちゃ言うよね。寝ね子は」

「友達に頼んだ? 大学時代の人とか、ほら、旅サークルみたいな実態はないけど人が多いとことか」


 こいつ読んだ上でそういう判断をするのか……。がらんどう(78)は少しがっかりした。


「でもさ、ブクマが80でも40でも誤差だよ。普通の人からみたら」

「でもがらんどうはさ、うれしかったんでしょ? アクセス解析しまくったんでしょ? そうだとすると、がらんどうにとっては誤差じゃないじゃない。そうやって自分を卑下してもしょうがないと思うけど」

「ごめん、そうだよ。おれはうれしかった。しかし相互とサークル活動からの正論は効くな」

「あ、そうだ。これも聞きたかった。さっきの話と逆になるけど、わたし達のって大きな視点から見たら読まれてないでしょ? 今の現状をどう捉えているの?」

「なろうで読まれてないってこと?」

「そう。そもそも投稿する目的みたいなのも含め」

「うーん、そうだなあ。きっかけとしては君達の流れに乗っただけなんだけど。おれはね、おれの思ってることを、よりでかい声で言いたいんだよ。だからなろうっていうでかい場所がいいと思ってる。それに、なんていうかなあ。おれのは読まれてないけど、なろう自体は悪くない。だってあれはスピーカーだから。そりゃ投稿サイトで鳴りに違いはあるよ、音こもってるとか、中音域が強すぎるとか。でもみんな同じ条件でやっててさ、おれの曲は低音出ないと伝わらんとか。あほいうな、と。全部まとめてお前が悪いんじゃ、と。大体にして本当にいいものは軽トラのスピーカーだろうが、BOSEで流そうがいいから」

「ごめん、ヒートアップしてるのはわかるんだけど。わたしの聞きたいこととはちょっとずれてるっていうか」

「あー、ごめん。結局ね、大事なのは『勝負しておれは負けてる』ここだと思うんだよ。ちゃんと認めるのが大事っていうか。特にこれなんて現時点で普通に0ポイントだからね。むしろ負け以前の問題で負けてるという。だから、なんかほらポーカーとかやっててめっちゃ負けてから、『え? 金賭けるって聞いてないけど?』っていうやつみたいなのはねえ。わかってただろ、ポイントなりランキングがあるってことは。でも考えが変わって止めるのはいいよ。誰にだって間違いはある。でも後でなろうが悪いとかweb小説が合わないとかは言っちゃだめだろう」

「例えが混じってよくわからないんだけど。それにがらんどうは誰に怒ってるの?」

「ごめん、誰ってわけじゃないんだけどさ。これ系の話になるとおれ永遠に。あ、そうだ、じゃあ寝ね子がなろうに投稿してる理由ってなに?」

「わたし? いくつかあるけど」

 寝ね子(89)は耳を触ってからまっすぐ前を見た。


「ああ、そう。たまあああにいるでしょ。批判を受けた時に『じゃあお前やってみろよ』っていう人。スポーツ選手でも漫画家でもいいんだけど。たまあああに」

「あー、うん。よく知らないけど、たまにいる、ような雰囲気はあるね」

「本当にすごい人って絶対にそれ言わないじゃない? 申し訳ないけど」

「全部把握してるわけじゃないからなあ。すごい人で言ってる人もいそうだけど」

「じゃあいい。イメージよ、イメージ。すごい人が言わなさそうなイメージで」

「それならいいよ。イメージなら」

「そういうこと言う人、わたし本当にどうかしてるって思ってて。それ言っちゃだめでしょ。でもね、そう言う人にも、わたしやってるし! ってきちんと言いたいというのもあるのよ。だからみんなに見える形に残してる。うん、なろうに投稿する意味はそこかな」

「それかあ。ちょっとわかるなあ。さっきの、何だっけ、忘れたけど同意したのと同じぐらい同意できるわ」

「わたしこの話永遠にできる。あ、ここ。焼肉寄って行かない?」

 寝ね子(89)は立ち止まり目の前の焼き肉屋を指した。


「いいよ。永遠に話せる話題が2つあるからな。もう永遠だよ」


 ドアを開け店内に入ったがらんどう(78)は入口付近にいた店員に、2名で予約をしていない旨を告げた。


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