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第4話 グリュニーガンの世界


 数か月前、がらんどうが肩かいるの小説「ライ、川端のマイン」のあらすじを読んだ印象としては、いや、だからどういうこと? だった。 

 恐らくは現代日本を舞台としていると思われる世界。そこで突然、建造物にいた人間はそこから出られなくなり、外にいた人間は建造物に入れなくなった。その設定に関して、じゃあ、これは? あれは? と、いくつかの疑問を抱えたまま、とりあえず1話を開くと主人公である川端が歩道を歩いている場面から始まった。



 イアフォンをして黒のパーカーのポケットに手を入れて歩く川端。その横を並走するように走る車。

 車には若い男女が乗っており、何かを叫んでいるが川端には届かない。

 そのうちに運転席の男に促される形で助手席に座る女が車の窓を開け、何もない空間を叩きながら服を脱ぎ上半身を露出させる。

 川端はただ前を向いて進み、並走している車は前方で事故車が連なっているため停車。

 車内では2人が何かを叫んでいるが川端との距離は開き、数十秒後には完全に川端の視界から消えた。



 車も建造物扱いなんだなあ。それなら閉鎖された空間っていう説明の方が。地下鉄構内とかはどうなるんだ? 入口空いてるけど。と、まあその辺はいいとして。

 

 小説の世界に激しく引き込まれつつあったがらんどうは一旦そこから抜け出し、スマホを置いて自室のベッドで横になった。

 

 うん、これはね。うん、おもろい。というか結局、肩かいるの描写なんだよな。文字を追っていて気持ちがいいし、なんていうかなあ、文章にこう、凹凸みたいのがあって手がつかみやすい。あと想像してる次の展開と内容は一緒だけど違う方向からの表現もいい。というかこんなもんねえ、ただ単純な力技。体形や声質等のどうしようもない部分な気が。

 そう思って逃げる自分に対し、がらんどうは激しいストレスを感じたが、続きを読みたいという気持ちが勝り、結局その日のうちに更新分まで一気に読んだ。




 うーん、そっかそっか。なるほどなるほど。肩かいるの小説に集中し、いつの間にからみのりんの声が届かなくなっていたがらんどう(33)はふと我に返った。


 やはりルールがわからない部分はある。これは今後わかるようになるのか? でもそこをおれがつつくと余計悲しい感じになるし。

 そしてやっぱりね、すげえ小説だ。かつて村上龍が「情景をばっと切って一枚の絵みたいにして書くのは得意だ」みたいなことを言っていたがそれに近いものを感じる。へえ、村上龍ってそんなことを言ってたんんだあ。そしてがらんどうはそんなことを知ってたんだあ。と言って欲しい、おれ。そしてタイトルが思い浮かばない……。


 がらんどう(33)はコップに水道水を入れ、

「あのー、参考までに2人の話を」

 軽く手を挙げながら言った。


「え? 何」

 寝ね子(70)は手を止めて鞄からペットボトルを取り出した。


「ごめん。かいるも一旦みのりんを置いといてもらって」

「おお、いいぞ」

 画面を一時停止して肩かいる(10,014)は振り返った。


「2人はさ。書くときにどういうイメージを持ってやってる?」

「イメージって何? どういうこと?」

「それはそのー、ほら、白い空間に黒い線をかいているだけじゃないじゃない。こう頭の中はどういう状況なのかなって」

「ああ、わたしは主人公になってあの空間、BAKUFU-TOKUGAWAの世界にいるから。そこで見て感じたことを書いてる」


 なるほど。寝ね子自身が溺愛されているということか。がらんどう(33)は、ふむふむと頷く。


「おれはアニメだな。普通にカット割りされてるアニメの映像をなぞっている感じだな」

「へえ、アニメなのか。それはまた」

 あぶねえ、村上龍のくだり言わなくてよかった。全然違うじゃないか。がらんどう(33)は密かに胸をなでおろす。


「まあ一般的と言えば一般的じゃない。がらんどうはどうなの?」

「えー、漫画かな。頭の中の漫画を文字にしてる」

「漫画? それやりやすいの?」

「さあ、それしかやったことないから。次はアニメを思い浮かべてみるかな」

「そういえばがらんどうって人物描写書かないよね。書いた方がよくない?」

「あー、それねえ。うーん、間違ってるとは思うんだけど。おれはね、漫画に勝つとしたらその辺しかないんじゃないかなって。想像の余地を残すやり方。寝ね子、かいるの描写もないけど面倒なわけじゃ。要は、えー、あれだ。マスクしてる方が勝手に想像して美人に見える的な」

「大事な所を他人に任せるって無責任だと思うけど」

「そう言われればそうなんだけど。良く言えばね、より楽しんでもらいたいっていう、その」

「それはいいんだけどよ。タイトルは決まったのか?」


 くそ、やり取りの中からヒントを得つつ時間稼ぎをする予定だったのに。もうしょうがない、あれでいこう。がらんどう(33)は心を決めた。


「実はなんとなく思いついていたんだ。『グリュニーガンの世界』でどうだろう」

「……は? 何それ?」

 寝ね子(70)は片肘をついたまま固まった。


「それは、その、雰囲気というか」

「わたしはそういうの好きじゃないかな。正直逃げたとしか思えない。あ! そう、ガープの世界からでしょ! あと、がらんどう前にウォーキングデッド好きだって言ってたよね! もろニーガンじゃない!」

「それだけでは説明できないな。~の世界っていうタイトルは山ほどあるし。それにグリュがあるからニーガンではない。そこは譲れない」


 グリュニーガン、グリュニーガン、ね。肩かいる(10,014)はビールを飲みながら呟く。


「いいわ、これでいこう。頼んだのはおれだしな。ちょっと思いついたことあるから繋げられそうだ」

「ええ、まじで! 自分で言うのもなんだけどすべった大喜利の答えだぞ! 冷静になれって!」

 がらんどう(33)はスマホを取ろうとする肩かいる(10,014)の手を押さえた。


「がらんどうの言う通り止めておいた方がいいと思うけど。メリットが感じられないし」

「あるぞ。おれの中にない単語を使うと次のシーンも変わる。人に決めてもらうのも面白いな。今更新するからそれと同時に変えるわ」

 肩かいる(10,014)はがらんどう(33)の手を払い、スマホを操作し始める。


「止めてくれ、かいる……。おれの、おれのすべった大喜利が……」

 がらんどう(33)は両手でロックグラスを持ち絞り出すように言った。


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