第3話 タイトルについて
「だから、がらんどうのはタイトルがだめなのよ。『泥状のギギルコン』って何? 全然伝わらないから。あ、それわたし。ありがとう」
スナックるいかのカウンターに座る寝ね子(70)は、肩かいる(10,012)からレモンサワー受け取った。
「まあ自分でも最高のタイトルか? って問われたらごめんなさいって言うしかないんだけど」
がらんどう(27)は先週入れたボトル(サントリー角)の溝をなぞる。
「長文にしたら? 色々楽よ」
「長文かあ。うーん、素人なりにやってみたい気持ちはあるんだけど。でもなんかいいの浮かばなくて」
「おれは長文しんどいわ。普通にやるより難しい」
カウンター内の椅子に座る肩かいる(10,012)は首を回しながら言った。
「かいるみたいな例外が言っても意味ないから。読みに来る人はね、無駄な時間を過ごしたくないの。だから最初にある程度伝える配慮があっても決してマイナスではないから」
「よし、やろう。じゃあ」
えー、例えば、えー。がらんどう(27)は頭に浮かんだ言葉を繋げる。
「倒した生物の力を吸収できる世界に転移したら、時間差で転移した空港がラスボスにぶち当たり初日でえげつない経験値をもらえて……、もらえて……、からの、泥状のギギルコンと。これでどう?」
「だめだろ。どう考えても」
肩かいる(10,012)はがらんどう(27)の前にロックグラスと氷を置いた。
「わたしもない。でも、かといってなのよ。今のよりはまだいい。うん、ありだと思う」
「だめなら無理する必要はないかな、と」
「違うよ。正直だめだけど、より良くなれば意味はあるから」
えーっとかいるは? がらんどうが視線を肩かいる(10,012)に向けると、こちらに一切視線を向けずスマホを操作していた。
そうか、そうか。がらんどう(27)はロックグラスに氷を入れサントリー角を注ぐ。
スマホで書いてるって言ってたからなあ。すげえよ、おれ家じゃないと無理だもんなあ、そしておれのタイトルに興味ねえ……。
「なあ、寝ね子さあ。やっぱり長文タイトルは難しいよ。なめてたらえらいことになる。これはしっかりと考えないと」
「言い訳はいいから。とりあえずさっきのでいいから変えてみようよ」
「えー、まじで」
「また戻せばいいんだから。ブクマ20ぐらいのタイトルでしょ? 気にしてたって進まないし」
「まあおれが恥ずかしがろうが誰もみんな見てないし。よし、わかった。変える、変えるけどキリのいいところで戻すから。上手くいってても、いってなくても」
「もちろん。それは書く人の自由だから」
自由なのにタイトルは変更させられてるけどな。からからと氷を揺らし後、がらんどう(29)はグラスに入ったウイスキーを飲む。
「じゃあよ、おれのも変えてくれよ」
肩かいる(10,013)はスマホを操作していた手を止めて言った。
「いやいや、無理無理無理。かいるのは無理。怖い怖い」
「え、わたし達で変えていいの?」
「おお、いいぞ。元々今のは仮でつけたやつだからな。ああ、そうだ。長文は合わせにくいから止めてくれ。注文はそれだけだ」
「ふーん、そう。じゃあ、がらんどうに任せる」
「だからあ。ブクマ1万近いやつのタイトルで遊んじゃだめだって。それはだめだって」
「今更新するからよ。その時に一緒に変えるわ」
「ええ、ちょっとさすがにそれは」
「早く考えたほうがいいんじゃない? こういうの引っ張るといいことないから」
寝ね子(70)は鞄から8インチ程度のタブレットと簡易的なキーボードを取り出した。
「わたし書いてる。決まったら教えて」
「おお、おれは今日の分終わったからアニメ観てるわ。寝ね子、音出していいか?」
「うん、わたしは大丈夫」
席を移動した肩かいる(10,013)はリモコンを取り出して壁掛けのテレビの電源を入れる。
くそ、かいるのリラックスタイムだ。今日もあれが……。
数十秒後、とらドラの3話が始まった瞬間、がらんどう(29)はかいるが座っていたカウンター内に移動した。
やっぱりみのりんが活躍するところを観るつもりだ。またピッチャーがびびってる、びびってないのくだりを永遠……。
がらんどう(29)は集中しない方向への集中を試みつつ、タイトルの参考にするため肩かいる(10,013)の小説を開いた。