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*4

 ヴェアハントカップ。当日は、レース日和の快晴。風は、無風か、微風。飛ぶにはちょうどいい日だ。芝は、良。濡れておらず、走るにはそこまで重くならない。距離、飛行と芝を合わせて、1.6マイラー(2500m)。右回り。いわゆる、長距離にあたる距離だ。


 ライヒは、ウォーミングアップとして手綱を握り、鞍にまたがり、ステファンと一緒に芝の上を走る。風を感じる。行きかう景色を流してただ真っすぐに。蹄鉄(作者注:馬の蹄を守るためにつける金具。人間でいう所の靴に当たる装具。)を先ほどつけてもらい、外れる心配もなく調子もいい。流石、ユスティツァに紹介してもらった、装蹄師のおかげだ。いい仕事もする。


 そして、ライヒも感じている。ステファンの呼吸も、ゆったりとしたリズムで、走っている。ライヒの呼吸も合わさり調和している状況。まさにこれこそ、人馬が折り合っている状況だ。


(では、ライ、いつものように加速するぞ。振り落とされるなよ)

「言われなくてもですわ!」


 慣らしで走っているだけだが、やはり、元競走馬。熱くなってきたようだ。脈動する肉体。力強く踏む四つの脚。前のめりにある頭。そして、腰を上げ、姿勢が低くなる鞍上あんじょう


 気力は十分。イメージするのは、先行を走る天馬たちを抜き去るライヒ達。


 負けたとしても、それは相手が早かっただけ、いや、まだやってもいないのに負けることを考えるの人なぞ、どこにいるものか。


 手ごたえ十分だ。


  そして、羽を羽ばたかせ、大空を飛ぶ。昔のライヒなら、踏ん張ったり、落ちないようにしがみついたりしていたが、今はもう慣れたものだ。もう、そこには一羽の巨大な鳥となり、空を泳いでいた。


 あとは、もう、レースを始めるばかり。こくこくと、スタート時刻は迫っていた。

 

 ***

 

 ステファンに騎乗し、ライは空を舞う。スタート地点に向かうためだ。この世界にゲートという物はないが、可視化されている魔力壁の前へ行く。係員の天馬に従い、続々と魔力壁の前に立つ。ライとステファンもいっしょに。


 そして、最後に他国の天馬が、ゲート前へと並ぶ。

 

 さあ、もうすぐだ。


「ありがとうございます」


(なんだいきなり)


「ずっと一緒にいてくれて、貴方がいたからここまで来れた」


(ふん、ここまで来たなら、もう最後までだ。まあ、まだまだやるがな)


「ええ、しんじてますわよ。相棒」


(ああ、まかされた)


 そして、数瞬の静寂。各々の想いが、交差する、スタート前。そして……。


 魔力壁の解除とともに、轟音が鳴り響く。そう、スタートだ。


 各々が空を走り出す。ステファンとライも、中々のスタートだ。彼らはそのまま、中団より前の位置に。


 ライは、ちらっと、リーデを確認する。自分たちを抜かしていったが、そのまま先頭を走るような逃げには徹さないようだ。いわゆる、先行策。そのまま、あわよくばライ達をブロックする気だろう。


 先頭、いうなれば逃げは見えるがどの馬だけは確認が出来ない、前評判では、あの国外の天馬であろう。


 ごおおごおおと、風が鳴る。風だけが、耳に響く。しかし、それを除けば、何も聞こえない、何も聴けない、地を走っていないため、足音も聞こえない。静寂だ。その分、集中できる。どこに、目の前にどの馬がいるか、どの位置にいるか。


 各々が競技場へと空を駆けていく。我先へと。皆、一番最強は自分だと信じて。


 無論、ライとステファンもだ。己を信じて。全てを薙ぎ払う、風。それは自分だと。


 彼らには、進むべき道は見えている。しかし、タイミングはいまではない。そんな簡単には、目の前のレイスには通用しない。


 苦しい。一瞬、ライは自分に負けそうになる。無力になりそうとも。しかし、ステファンの背から熱を感じる。そうだ。いつも『私』たちは、一緒なんだ。


 『彼』と一緒ならなんだって、乗り越えられた。『彼』を信じている。


『逃げ』は、既に競技場を降り立つ。そこから、2番目の馬、レイス、ステファンと降り立ち、その他、続々と降り立つ。


残り、0.6マイラー。そろそろだ。空と違い、彼、彼女らが、駆けていくおかげで芝や土が目の前に降りかかりそうになる。それでも、一人と一頭は挫けない。ライは、握る手綱から、鞭へと手が伸びる。目の前のレイスも、加速を始める。黒き羽根がコンパクトに折りたたみ、速度を増していく。


 風と、土と、足音と。そして、残り、走る『彼』が元いた世界での上り3ハロン。


 進むべき道は、見えた。今なら、行ける。


 ライは、とたん叫ぶ。


「あなたは、最強の『ステファノメグロ』でしょう!!」


 鞭を叩く。ステファンも、おうとばかり、加速する。一頭、二頭と抜かしていき、残りは、レイスドゥーシェとの真っ向勝負。


 風と共に、歓声が聞こえる。応援する声が聞こえる。


 ステファンも、力が入る。ああ、懐かしい。そう、「我」は、このために生まれたことがあると。


(ライ、お前がいたから、ここまで来れた。懐かしき景色を見せてくれてありがとう)


 駆ける、駆ける、駆ける。競り合う。競り合う。競り合う。


「人馬一体!」

(天まで駆け上ってやる!!)


 そして、わずか、ステファンの頭がぬけたところで、ゴール版を通過する。


 歓声が、もっと大きくなる。そのまま駆ける。一頭と一人。一瞬、真っ白。風と、ライが、息を吸う、吐く。


 勝った、勝ったんだ。そして、労うようにステファンに声をかける。


「はい、終わりですわよ。相棒。やりましたね」

(ふん、当たり前だ)


 こころなしかステファンから動物会話で伝わる感情もどこか誇らしげでうれしげだった。



                 ***


 一頭と、一人は進む。まだ見えない場所はあるけれど、それでも乗り越えられると信じて。

 

 ここまでお読みいただきありがとうございました。

 こちらは、『相棒(バディ)とつむぐ物語』コンテストに応募用の作品であり、


 いま、別口で連載しております、

「我、元競走馬だが異世界転生したらなんか天馬になってるんだが!」

https://ncode.syosetu.com/n0961ia/

の未来か、また、別ルートのお話になっております。


 初めてお読みになった方も、もしかしたら連載をお読みになっている方も、置いてけぼりになってしまったかもしれません。その場合は申し訳ありませんでした。

 しかし、どこか本のちょっと心に残ってくれただけでも嬉しいです。


 もし、この連載で興味を持たれた方、もしよろしければ本編の方もお読みいただけたら幸いです。

 遅筆ですが、まだ続いておりますので、別の作者様の素晴らしい作品の数々をを読みつつ思い出していただけたら。


改めまして、ここまでお読みいただきありがとうございました!


――――  風/kaggra,

     Ever Sky Blue/Morfonica

     音一会/MyGO!!!!!

     を聞きながら ――――


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