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第七話

「僕は魔法師団の中でも特別な権限を与えられていてね。例え相手が五大貴族であれ、罪を犯した場合は拘束する権利を持っている」

「なっ!?そんなの初耳だぞ…!?」

「そりゃあ特別な権限だからね。吹聴するものでもないでしょ?さて、僕は君を捕まえて相応の処分を与えるとするよ」


 既に二度壁に打ち付けられてフラフラになっているモビウスは、虚勢を張ってか高笑いをした。


「ふ、ふはは!いくら魔法師団のエースとはいえ、五大貴族の魔力には叶うまい」


 そう、五大貴族は平民とは違って非常に高魔力を持っている。だから貴族同士ならまだしも、一般人が敵う相手ではないのだ。

 グレイシアは手に汗握り、ハラハラと二人に交互に視線を移した。


「ま、普通はそうだろうね。でも僕はちょいと特殊でね」


 ヴィクトルはちらりとグレイシアに視線を投げ、ぱちりとウインクをした。


「来世の分の魔法の知識、それから魔力量も引き継いでるからね。記憶と愛を取り戻した僕はもう君の知るヴィクトルとは一味違う」

「……は?来世?何を言っているんだ一体」

「分からなくていいよ。君は今から負けるってことだけ理解してくれれば」

「ふ、ふはは!面白いやつだ。捻り潰してやる」


 バチチッと二人の間に魔力の(いかずち)が走った。まさに一触即発。


 え、ちょ…ここ店内なんだけど…!!!


 グレイシアがようやくそのことに理解が及び、止めようと立ちあがろうとした時には、二人は両手に魔力を圧縮し、各々放出するところだった。


 ああっ!ごめんなさい、マスター…


 グレイシアが咄嗟に目を瞑って祈りを捧げた時――


「御免」

「えっ」

「はあっ!?」


 パァン!と何かが弾けたような音がして、恐る恐る目を開けた。魔法が激突し、吹き飛ばされると覚悟していた衝撃が訪れない。


 目を開いた先に居たのは――


「マスター!?」

「…………店内ではお静かに」


 いつの間にか二人の間に入っていたマスターが、それぞれが放った魔法を手のひらで握りつぶしていた。そして目にも止まらぬ速さでモビウスの手首を掴んだかと思うと、あっと思った時にはモビウスは床に仰向けに転がっていた。

 モビウスはこの国でも五本の指に入る使い手であるにも関わらず、マスターは蚊でも仕留めたかのようにパンパンと両手を払って、何事もなかったかのように足元に置かれた麻袋を持ち上げた。そしてカウンターに戻ると、食器や器具の無事を確認し、いつものようにティーカップを磨き始めた。


 呻き声を上げ、起き上がる気配がないモビウス。魔法を放った体勢のまま呆けているヴィクトル。

 グレイシアは目をぱちくり瞬きながら、ふと昔に聞いた話を思い出していた。


「マスターって確か…昔この国一番の魔導騎士だったって聞いたことがあるけど、本当だったのね…」

「ええっ!?」


 グレイシアの呟きに驚きの声を上げたヴィクトルは、緊張の糸が切れたのか、へなへなとその場に膝をついた。


 グレイシアはいまだに天井を見つめたまま呆けているモビウスへと歩み寄った。この騒ぎのけりをつけなくてはならない。


「モビウスさん、ごめんなさい。私はあなたの気持ちには応えられません。もっと早くにはっきりお伝えするべきでした…私が曖昧な態度を取っていたのがいけませんでした」

「ど、どうしてだグレイシア…せめて納得のいく理由を聞かせてはくれないか?」


 モビウスは諦め悪く、床を這ってグレイシアに縋る。

 グレイシアはモビウスを一瞥すると、ゆるゆると首を振った。


「誰かを愛することは自由です。ですが、その相手を縛ることや、制限すること、ましてや監視するような行為は許されません。それは愛ではなく独占欲です。本当に愛するのなら、その身を引いてでも相手の幸せを願えるはず…気持ちの押し付けは愛ではありません」

「グレイシア…」

「私は知っています。一途に一人の女性を思い続ける人を…そのお相手のことは、ちょっぴり羨ましいと思います」


 グレイシアはヴィクトルの方を見ずに静かに語る。その表情は穏やかで、けれども少しの寂しさが滲んでいた。

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