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第六話

「ヴィクトルさん、どうして……」


 グレイシアが目を見開いて呟くように尋ねたと同時に、ヴィクトルは右手をモビウスに向けた。


「ぐわっ!?」


 ブワッと突風が渦を巻いてモビウスを吹き飛ばし、対面の壁に身体を打ちつけた。壁にぶつかった衝撃で、天井からぶら下がる観葉植物たちがゆらゆら揺れる。


 グレイシアはずる、と壁にもたれてへたり込んでしまった。モビウスを警戒しつつ、ヴィクトルが素早くグレイシアに駆け寄った。


「ごめん。未練がましい男だと軽蔑してくれても構わない。少しでも君の姿が見たくて、毎日この店の前を通っていたんだ。さっきも店に来てみたら結界が張られてて…嫌な予感がして咄嗟に飛び込んでいたんだ」

「……助かりました」


 申し訳なさそうに、そして心配そうにグレイシアの頬に触れるヴィクトル。なぜかグレイシアはヴィクトルの顔を見るといたく安心して、肺に溜まっていた息を深く吐き出した。


「ねぇ、グレイシア。一つ聞いてもいい?」

「…なんでしょうか」


 こんな時に何を?と首を傾げつつ、グレイシアは頷いた。

 ヴィクトルは徐にグレイシアのエプロンに手を伸ばして、きらりと光るお守りに触れた。


「この…お守り、だっけ?これを付けているのは君の意思?どんなものが分かった上で付けてる、ってことでいいの?」

「ぐ……何を…それに触るな…!」


 ヴィクトルの問いに、呻き声を上げながら反応したのはモビウスであった。なにか都合の悪いことでもあるのか、苦痛に歪む表情には焦りの色が滲んでいる。


「……いえ、お守り、としか知りません」


 グレイシアは胸がやけに騒ついた。ずっと違和感は感じていた。気味が悪くて、考えないようにしていた。疑惑はだんだんと大きくなる一方で…もしかして、これは……


「そう、じゃあ、壊すよ」

「あっ!」


 戸惑うグレイシアに一言断りを入れると、ヴィクトルはお守りに手を翳した。眩い光が弾けて、二つのガラス玉は粉々に砕け散った。キラキラと光の粉が空気に溶けて消えていく。


「ぐうう……お前、それがどれほど金と魔力を費やして作られたものか分かっているのか!」


 ギリギリと歯を食いしばりながら、ゆらりと立ち上がったモビウスがヴィクトルとグレイシアに歩を進めようとした。が、再びゴウ!と突風が吹いてモビウスは壁に捕えられた。


「ちょっと黙ってて」


 涼しい顔で五大貴族を抑え込むヴィクトルに、グレイシアは目を瞬くばかりだ。鋭い目でモビウスを睨みつけていたヴィクトルは、グレイシアに向き合うといつもの優しい目でグレイシアの両手を取った。


「グレイシア、あの男が君に持たせていたものは、盗聴器だよ」

「え……盗聴…?」


 グレイシアの目が大きく見開かれる。


 正直、驚きよりもやっぱりそうかという気持ちが大きかった。あまりにタイミングよく現れることや、彼の居ないところでの話題を漏らさず知っていたこと。

 薄々そんな気はしていたが、処分したらしたでモビウスがどんな行動を取るのかが恐ろしくて動くことができなかった。それをヴィクトルが呆気なく破壊してくれた。


「ぐぅぅ、お前……貴族の俺にこんなことをして許されるとでも思っているのか!」


 貴公子だとご令嬢方が熱を上げるモビウスの端正な顔立ちが、憎しみにみるみる歪んでいった。


 ヴィクトルは指をくるりと回してモビウスを解放すると、グレイシアに「大丈夫だよ」と囁いて、モビウスに対峙した。

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