シンデレラには時間がない
魔法使いのおばあさんが、魔法の杖を振るうと、シンデレラはたちまちドレス姿となり、カボチャは馬車に。お友だちのネズミは御者になりました。
「すごい、すごい! おばあさん!」
「さあ、おゆき」
「おばあさん、本当にありがとう」
「でもね、シンデレラ。魔法は夜中の12時までしか効かないの。あなたは12時までのお姫様なのよ」
「12時? 充分よ。おばあさん」
「その意気よ。パーティーを楽しんでらっしゃい」
シンデレラは馬車に乗り込んで、ネズミの御者に言いました。
「さあネズミさん。お城まで行ってちょうだい!」
「任しといてください!」
パチン!
ネズミが馬を鞭で打つと、馬は勢いよく駆け出しました。
道中、シンデレラが尋ねます。
「ネズミさん。あとどのくらいかしら?」
ネズミはスマホを取り出して確認すると21時。お城まであと20分ほどでした。
「あと20分ほどです」
「あら。少し急いだほうがいいかしら?」
「はい」
ネズミが馬に鞭を入れたその時でした。
ウウーーン!
「前の馬車、止まりなさい。前の馬車、止まりなさい」
後ろの車両は覆面パトカーでした。無情にも突然赤色回転灯を出現させてシンデレラの乗る馬車に止まれと命じたのです。
ネズミさんは仕方なく馬車を路肩に止めました。
すると、後ろから人の良さそうな警官が御者席に近づいてきたのです。
「お急ぎでしたか~?」
ニコニコ笑いかける姿がよけいにイラッとします。
「ここの道、何キロ制限か知ってましたぁ?」
「それは、あのう……40キロ」
「そうなんですよねぇ。ところで何キロ出てたと思います?」
「えと~50キロくらい?」
「そうです。55キロ。15キロオーバーですね」
「そんなに出てました?」
「あと運転中、スマホ触ってませんでした?」
「あの~、ナビのために……」
「ナビのためでもダメなこと知ってました?」
「あのー、すいません」
「目的地は逃げませんよ。ゆっくり、ゆったり、ゆとりドライブを心掛けてください」
「はい。ごめんなさい……」
「じゃ後ろの車両で書類書いてもらいますんで、来てもらっていいですか?」
警官とネズミのやり取りをシンデレラは乗車席で聞いておりましたが、その窓が別の警官によって叩かれます。
シンデレラは驚いてそちらを見ると、女性の警官が眉を吊り上げて言いました。
「シートベルト!」
「あ、ハイ。すいません」
こちらの女性警官は少々キツめのパターンの人でした。
「ちょっとの距離だからいいという気持ち。その気の緩みが取り返しのつかない事故になるんですよ!」
「ご、ごめんなさい」
「シートベルトは死を止めるベルト。誰のためでもない。あなたのためなんですからね!」
「は、はい……」
そこに、先ほどネズミを注意した警官が女性警官のほうにやって来ました。
「鈴木さぁーん。15キロオーバーと、ながら運転。あと免許不所持ですね」
「こっちはシートベルト」
「あらら」
「どちらにせよ、免許もってないなら車両は置いてってもらわないと」
なんということでしょう。シンデレラは馬車を置いてお城に行かなくてはならなくなったと悲しみました。
でも言い方はキツめな警官でしたが、内緒でパトカーにシンデレラを乗せてお城に送ってくれたのです。
シンデレラはなんとかパーティーに間に合ったのでした。
でも今回はたまたまラッキーだったのです。こんなことにならないように、よいこのみんなはちゃんと交通ルールを守りましょう。
右見て、左見て、もう一度右見て、手を上げて横断歩道を渡りましょう。