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崎原和明は可哀想なくらいの勘違い男だった。
その愛人の城野美佐は器量の悪い暗い女だった。
だが美佐が暗かったのは和明と愛人関係になるまでで、その後は良く笑顔を見せるようになったと近所の住民たちが証言していた。
美佐は和明を愛しているのだろう。
年齢が三十二歳だったので男に抱かれたのが和明が最初だとは思えなかったが、本当のところはわからない。
暗い女でも男に需要がないわけではないが、誘いにホイホイと付いていくタイプでなければモテはしないだろう。
美佐のお腹に子供はいないようだった。
少なくとも検査薬を使ったり、産婦人科に通ったりした事実はなかった。
愛人関係でとにかく面倒なのが子供の存在だ。
生まれてくる子供に罪はないはずだが、親の罰が子に当たる例は枚挙に暇がないのだった。
だから美佐に子供が出来ていないらしいことを知って、わたしはひとまずほっと胸を撫でおろした。
次の段階である和明の篭絡など、わたしにとっては赤子の手を捻るようなものだった。
性格的に単純な和明は自分はいわゆるモテ期に入ったのだろうとあっさり信じた。
わたしも彼にそう思わせるように会話する言葉を注意深く選んだ。
面白いように簡単に和明はわたしにのめり込んできた。
わたしは和明の心を自在に操ることに快感さえ覚えた。
好きでもない男の気持ちを自分に向けるのがゲームのようで楽しかった。
だが同時に、わたしはそんなふうに変わってしまった自分の心を哀れんでいた。
自分自身で哀れんでいた。
けれどもそう考えても詮無いことと、すぐに気持ちを切り替えた。