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 体験としてはそれだけである。

 伯父との愛人関係はそこで終わり、その後、元には戻っていない。

 おそらく再燃することもないだろう。

 だが、わたしの身体には未練が残った。

 正直、誰と寝ても感じなくなってしまったのだ。

 おそらく伯父とであってももう駄目だと思う。

 わたしと伯父との関係はそれなりに特殊だったから、伯父のことを考えるといつでも伯母の顔が目の裡に浮かんできてしまう

 それでは伯父を男として認識できるわけがない。

 だから、わたしは他の相手を探すしかなかった。

 そうはいってももちろん、わたしはまったく何も感じなくなってしまったというわけではない。

 汗もかけば、普通の快感もある。

 身体の機能も壊れていない。

 けれども、わたしは感じないのだった。

 身体ではないのだから、おそらく精神のどこかが欠落してしまったのだろう。

 肉親の死と同じで、それを癒せるのは、時間しかないのかもしれなかった。

 けれども最初の頃、わたしにはそれが理解できなくて、また伯父と別れた淋しさも手伝って、誰彼となく寝るふしだらな女になった。

 何人目の男だったが忘れたが、伯父に似ていなくもない、昔風のちょっとダンディーな男と酒場で知り合った。

 わたしが男を物色するために利用していた酒場でだった。

 男はわたしの発する暗いオーラを捕らえると、わたしの席に擦り寄ってきた。

 男に連れはいなかった。

 恋の鞘当もそこそこに、すばやく商談をまとめると、男とわたしはホテルに向かった。

 男は金持ちだったようで、シティーホテルの最上階を取ってくれた。

 わたしは気もなく男に抱かれた。

 その、余りに投げやりなわたしの態度が男の気持ちをそそったらしい。

 男はもう一度わたしに会いたいと懇願した。

 わたしは同じ男との関係を続けるのは気が進まなかったが、男が握らせた紙幣の額に自分を売った。

 男との逢瀬の五回目に男の妻が部屋に飛び込んでくることになる。

 その日は温泉地にある男の別荘にわたしは誘われていた。

 普通にホテルだったら、問題は起きなかっただろう。

 妻が部屋に入りたくとも、簡単に部屋には入って来られないからだ。

 だが別荘となれば話が違う。

 そこは勝手知ったる自分の家だ。

 家族が上がるのに躊躇はなく、また間取りだって熟知している。

 閨の戯言に男に別荘のあるのを聞いて、わたしは一度くらいそこに行きたいと思ったことがあった。

 だがある別の理由で、わたしは男に別荘行きをねだったのだった。

 いつもは愛想を見せないわたしの頼みに、男は二つ返事で別荘行きを承諾した。

 その日の夜、男とわたしの行為中をわざと狙って、男の妻が部屋に現れた。

 わたしは男の妻が現れることは知っていたが、まかさ行為の最中に現れるとは思っていなかったので吃驚した。

 さすがに予想外の出来事だった。

 現れた妻は冷静で、夫もわたしも詰ることなく、この浮気の後始末をどう付けるかを落ち着いて話し合う素振りを見せた。

 その瞬間、妻との約束通りに、わたしは理性を飛ばしたイカレ女に変身した。

 この人が愛しているのは、あたしの方で、奥さんなんかには、これっぽっちの愛情も感じていないんだよ!

 浮気されるのが嫌だったら、首に縄でもつけて、四六時中監視してりゃあいいじゃないの!

 そんな定番の台詞をでんと構えた男の妻に上にポンポンと投げかけて、男の気持ちをげんなりとさせた。

 わたしを蔑む心を与えた。

 実際どれくらいの想いがあったのか知らないが、男のわたしに対する愛情を瀬戸物の貯金箱を金槌で割るように打ち砕いたのだ。

 男は直ちにわたしに幻滅したことだろう。

 夜叉の目でわたしが睨んだ男の顔には、わたしの豹変への驚きとともに、精神状態の正常ではない女に対する素直な怖れが浮かんでいた。

 さらにわたしはもう一荒れすると、すばやく服をかき集めて、その部屋を去った。

 男の妻との打ち合わせはそこまでだった。


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