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ロード・オブ・キマイラ  作者: 詩海青登
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第一章・森に紛れる半竜 4

 敵を視界に捉えながら、木の幹を足場にし、森の中を飛ぶ。

 体勢を変えながら木々の間を器用に滑空する標的を、この方法で追跡していた。地面を使わないのは、万が一にも石や木の根につまづいて転ばないようにするためだ。

 向こうも時折木の幹を蹴って加速しながら飛行するが、距離を詰めるのはそこまで難しくない。ある程度距離を詰め、PDWの銃弾を浴びせる。

 何発かは当たったが、致命傷には程遠い。向こうもどれだけ詰められると銃撃してくるか理解したらしく、三度目からは距離を詰められると加速しながら方向を変えて間合いを乱すようになった。

 逃走劇がしばらく続いた頃、一気に引き離すつもりか、標的は一段と強く踏み込み、猛然と加速した。

(逃がすか・・・。)

 どれだけ逃げようと、私の目からは逃れられない。この逃走劇を終わらせようと、最短距離を進む。

 そして、開けたところに出た。

 森の薄暗さに慣れた目に日光が射し、目がくらむ。

 その直前、障害物を警戒してやや真上に飛んだが、それが仇になった。

 眼前に広がったのは、ノースウッズに無数に存在する湖の一つだった。

(しまっっ!・・・。)

 都合良く木の板が浮かんでいるわけもなく、派手な音を立てながら冷たい水の中へと落ちてしまった。

 秋の湖は凍えるほどではないが十分冷たい。思わず顔を上げそうになるが、今顔を上げては的になるだけだ。そのまま潜り、湖底に足をつける。

 身体を纏う特殊な戦闘服の機械は完全防水機能付きなので問題なく稼働している。水中に飛び込んでくる弾丸から標的の位置を大まかに捉え、副武装(サイドアーム)を構えた状態で一気に湖底を蹴る。

 ()()()()()と機械による強化と補助が加わり、水深数メートルからシャチの様に湖面を突き破った。

 直後、副武装が標的の腹に食い込み、突き飛ばす。

 標的諸共宙に残された身体は重力に従って落下し、上手いこと岸辺に着地した。

 前髪と顔についた水を手で払い、視界を確保する。

 目の前には片手に銃を持ち、もう片方の手で腹を撫でる標的が立っていた。

 一部が黒に染まった特徴的な銀髪に、雪のように白い肌と澄んだピンクの瞳。その身を包む黒を基調とした上品な服は袖口や襟元等に白いフリルが施され、頭の黒いリボンや胸元の簡素なデザインのペンダントも合わさって、妖艶で愛玩心をくすぐる可愛らしい美少女に見える。

 しかし、背中から生える大きな翼や、首をもたげる蛇――資料によれば、尾――が不気味且つ禍々しい雰囲気を醸し出している。悪魔や吸血鬼の類と対峙しているような気分だ。

「やれやれ。妙な刺客が来たもんだ」

 一種のルーティーンなのか、気分なのか、標的は両手を幅の広い袖の中にしまい、シックなスリット付きの黒いロングスカートの中で靴音を鳴らした。

「さっきはお前だけが私に気づいた。オオカミやクマも振り切れる私に追いつき、泳ぎもせずに湖から飛び上がった」

 織り込み済みではあったが、向こうはこちらの正体に気づいたらしい。徐々に声が低くなり、威嚇するように翼を広げ、尾の毒蛇が牙を見せる。

「お前も()()か」

「答えるとでも?」

 そんなつもりはない。任務を全うすべく、PDWを構える。

「だろうな」

 向こうも銃を構える。音もなく隊員たちの命を狙った、銃声を消すサプレッサーと赤外線レーザーサイトを装備したカスタムハンドガンを。

「いつかはこうなると思ってた。だが関係ない。俺を狙う奴は殺す。今までも、これからも」

 人を殺すために生み出され、育てられてきた怪物が、眼前の刺客に本気で挑まんとしていた。

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