第一章・森に紛れる半竜 3
生物兵器・ドゥオの討伐隊を率いるビリーは、これまでにない嫌な汗を流していた。
湾岸戦争で戦死した父の意志を継ぎ、アメリカの為、大義の為に国に従い、銃を手に幾度もの戦場を渡ってきた。数え切れないほどの恐怖と悲しみを乗り越え、多くの功績を残してきた彼は、今はアメリカの為、ひいては世界の為に、人類を脅かす人造生物たちと戦うことを己が使命と定めた。都市を襲う人造生物を駆逐し、人々を守る為に部隊を率いて、最前線で戦ってきた。
そんな彼が、有りたいに言えば焦っていた。
不意打ちで二人を銃撃してきたあの人造生物は、そのまま森の中を飛行し、どこかへ消えた。
そして、何もなかったかのような静寂に包まれた暗い森の中で、ヘルメットに内蔵された特殊なカメラで赤外線レーザーを見たらしき隊員の一人が自分を庇って撃たれ、銃で応戦した二人の隊員が一瞬で首を撃たれた。防弾チョッキやヘルメットで守られた急所ではないが、出血に加え、呼吸困難になって藻掻く隊員たちを、どうすることもできなかった。
腹ばいになり、敵に顔を見られないようにすることしかできなかった。
腹ばいになってからレーザーサイトの赤外線レーザーが見えないあたり、恐らく敵は目視による狙撃に切り替えたはずだ。ならば今は耳を澄ませ、奴が狙撃ポイントに行く物音を聞き分けなければならない。
そうして精神を研ぎ澄ましていた時、ビリーの嫌な汗がドッと増した。
何か、今まさに死の危険に瀕していることを、ビリーの第六感が捉えた。
ビリーは知る由もなかったが、彼は既に敵の手中にはまっていた。
見えざる何かが、ビリーの首筋を捉え、死神の鎌の如く必殺の一撃がその命を絶とうとしたその瞬間。
タンッタンッという木の幹を蹴る音とともに、銃声が響いた。
その銃声に交じって草を掻き分ける音が聞こえた。予想外の方向からの銃撃に、敵は撤退を選んだようだ。
「よっと」
聞き覚えのある声とともに、乱入者は木の幹を蹴りながら追跡を開始した。
「・・・。あれが人類最後の希望か・・・。」
得体のしれない殺気から逃れたビリーは安堵の息を吐き、負傷者の応急処置に向かった。