第一章・森に紛れる半竜 2
作戦開始から一時間。森の中をひたすら進むも、変化は無し。
隊長ビリーの率いる小隊は、ノースウッズの森の中を警戒しながらゆっくりと進んでいった。マツやモネの木が立ち並び、青々とした草が生い茂るノースウッズの森はうっそうとしていて、とても暗い。
「何にも見えないな。それに静か過ぎる」
「この辺りの動物たちは警戒心が高いらしい。俺たちに気づいたか、奴が近くにいるせいかだな」
兵士の何人かがボソボソと小言を言うが、特に気にしない。
兵士たちが周囲を警戒しながらゆっくり進む中、自分は先頭で歩幅を合わせつつ、前方を見つめる。
「何か見えるか?アリス」
「人間大の生物の反応はないですね。ただ、データの通りなら意図的に消している可能性もあります。集中したいので、しばらく静かにしてもらえませんか?30分後に休憩しましょう」
「良し」
隊長が合図すると、兵士たちは雑談をぴたりとやめた。人の声が聞こえると、土を踏む足音とマスク越しの息遣い、だけが聞こえるようになった。
そして、それらの音を意識から消す。
五感を研ぎ澄まし、時折風になびく草木の音を聞き分ける。
意識を沈め、森に溶け込ませ、探る。こちらを狙う殺意を。
そして・・・。
カチャ、というかすかな音が聞こえた。
(そこかっっ・・・!)
後方数メートルからした、拳銃のスライドを引き、初弾を装填した音。そこめがけて持っていたPDWを向けたのと同時、太い木の幹から何かが飛んだ。
蝙蝠のような翼を広げる何かは低空飛行しながら小隊が通った道を横切り、引き金を引いた。
パシュッ、パシュッという空気が抜けるような音と共に、兵士が二人倒れる。
うろたえる兵士たちより先にPDWの引き金を引くも、弾のほとんどは木の幹に防がれ、飛行する生物は森の中へと消えた。
「ニック、負傷者の手当と基地に報告!他のメンバーで追跡する!」
隊長の号令で、ニックと倒れた兵士たちを除く全員が速やかに茂みに入る。一部の間もない行動には感心するが、今回は分が悪すぎる。
(急がないと・・・。あのままでは、皆殺しにされる)
バッグから副武装を取り出すと、首筋のチョーカーのスイッチを入れる。
キュイーンという電子音とともに、戦闘服に仕込んだ機会が起動する。
(奴が隊長たちに気を取られている間に仕留めないと。あれじゃ皆殺しにされる)
機械の準備に時間をかけてないつもりだったが、起動時間が長い上に向こうの対応が予想以上に早い。森の中から響いた複数の銃声がとっくに止んでいた。
「クソッ!」
一瞬だけ悪態をつき、その場で一気に数メートルの高さまで跳ぶ。足を取られないよう、木の幹を蹴って戦場へと進んでいく。