開く扉(3)
「なんの話だっけか?」
美少年は流れでリューンの膝に収まって珍しいオレンジの髪を引っ張っている。
「リヴェルたちが星間管理局の接近を知っていたって話かな?」
『当然じゃの。あれらも超光速通信で用いているのは時空外物質じゃ』
「使っているのは高周波帯域だからこちらでは検出されていないわ。でも、彼らは低周波帯域で交信が行われているのは検知してずっと監視していたのよ」
老いた姿のドゥカルの説明をエルシが補足する。
『ある程度の情報分析はしていたはずである。しかし、聞くと見るとでは勝手が違ういうことだ』
「彼らも慌ててる、リヴェル?」
『かなりな。アームドスキン技術の獲得は必須だという議論になっている。すでに対価に無償で提供する技術の検討に入っている』
譲歩を考えているということは同等の相手と見なしているという意味でもある。その辺りを引き出すのがリヴェルを始めとしたゼムナの遺志が意図するところだったようだ。
「奴らも形無しじゃん。まさか手の内が筒抜けだとは思ってねえだろうさ」
超文明だと構えていた余裕はないだろう。
「それをこちら側の誰かには言わないようにしてくださいね、リューン。つけあがらせてはいけない人間も多いですから」
「そうだよ、リューン」
「分かってるって」
話の流れを読みとったジェイルが指摘したのでユーゴも念押ししておく。
(これか。ちょっとした会話で内容を酌んでくる。この頭の冴えは本物だね。時代の子でもない人間を協定者に据えたくもなる)
命の灯もひときわ明るい。ドゥカルの慧眼に笑いがこみあげてきた。
(三星連盟大戦で生まれてしまったねじれの解消も、僕らを招集した創造主の再生計画も、異文明との接触に焦点を絞った動きだったわけか)
ゼムナの遺志は星間管理局につけいる隙を与えないために段階を踏んでいたらしい。彼らにも一部勢力の増長までは読めなかったようだが。
「それと、僕は戦闘には参加しませんからね」
ジェイルは涼しい顔で宣言した。
「あー、あんたは作戦たててくれるだけでいい。生きてるって分かると面倒なことになっちまいそうだからな。死んどけ死んどけ」
「邪魔みたいに言うなし。パパと本気でやったら負けるくせに」
「うっせえよ、小娘。なんならやってみっか?」
リューンは獰猛な笑いを口元にこびりつかせている。
「あたしがパパの代わりに潰してあげるし」
「ははは、じゃれ合うのはそのくらいにしときなよ」
剣王の視線が動き、ニーチェも反応して振りかえる。ユーゴの瞳にはドア越しに近付いている人間が視えている。まったく混じりけのない透きとおった灯だった。
「御大の登場か?」
「ああ、バルキュラが誇る先ゼムナ人らしいね」
スライドしたドアの向こうにはユーゴも知っている女性の姿。
「皆さま、お集りくださり感謝いたします。あ、ユーゴ様、あの時はお世話になりました」
「いいよ。今回は彼にも会えるみたいだし、楽しみにやってきたんだ」
「はい。こちらが先ゼムナ人。ヴォイド・アドルフォイです」
彼女が横にずれると黒髪に緑の瞳の男が現れた。
(すごいな。品格っていうものにも大概は慣れてきたつもりだけど格違いだね)
威厳を持つにはある程度の才能も必要だと感じてしまう。
「時はきた」
青年は宇宙を示して手を差し伸べる。
「勇気の鍵、ユーゴ・クランブリッド」
「はい」
少し照れくさくて頭を掻く。
「力の鍵、リューン・バレル」
「おう」
オレンジ髪の男は不敵に笑う。
「知恵の鍵、ジェイル・ユング」
「ええ」
美男子は涼しげなまま。
「君たちの能力をもって未来の扉を開け」
「了解ですよ」
「一丁やったるか!」
「承りました」
三本の鍵が今、扉を解き放つ。
◇ ◇ ◇
第二次統一大戦はわずか三日で終結する。
それを実現したのは言うまでもなく英雄たちの働きによるもの。その足跡は歴史に忠実に記されている。
ゴート系人類圏は、進宙歴514年をもって星間銀河圏ゴート宙区に変わった。
ゼムナ戦記 ゴート編 <完>
最期までお読みくださりありがとうございました。
同時更新で「あとがき」も付けてあります。次回作の予告と、ちょっとした内部設定にも触れているのでよろしければお立ち寄りください。




