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ゼムナ戦記  過去からの裁定者  作者: 八波草三郎
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開く扉(2)

「管理局の人間はどうしてる?」

「待ってもらってる。彼らも失敗したと思っているみたいだね」

 一番接触の多いユーゴがリューンの質問に答える。

「大々的に姿を見せるんじゃなかったって言ってる。内々に各国政府と接触すべきだったかもしれないって」

「そいつが当たりだったかもしんねえなぁ」

「今までの異文明とのファーストコンタクトはインパクトを重視してたようなんだ。衝撃に腰が引けている間に一気に情報を拡散させて既成事実化したあとで交渉に入る手法。相手にしてみれば引くに引けないね」

 むろん事前調査を十分にしたうえでの話。

「通用しなかったってわけか。俺らが文明レベルの割に高い技術、言っちまえば戦闘力を持っていたもんだから怯まなかった。技術拡散を急ぎすぎちまったかもな」

「なに? 私たちの所為だとでも?」


 ダークブロンドの超絶美形が目を細める。ゼムナの遺志『エルシ』は彼の『リヴェル』と違って非常に人間臭い。こんな皮肉にもちゃんと応酬してくる。


「そこまで言ってねえって」

「相対的に見て、僕たちは非常にアンバランスな文明になっているのかもしれない。そんな感じはするね」

「否定しないわ」

 余裕の態度が変わらないところを見ると裏がありそうだとユーゴは思う。

「まったく分が悪いっていうのはどうもね。あなたたちを飲みこませたくはなかったって話」

「独立性の維持を目標にしていたってことは星間管理局の存在と接近を予期していたって意味ね?」

『無論だ。時期的にも予想通りである』

 ラティーナの疑問にリヴェルの紫髪のアバターが答える。

「やれやれ、っと」


 そこで新たな数名が操縦室へと現れた。それに気付いたリューンは続く言葉を飲みこんで破顔した。


「よぉ、来たか、魔王」

 そう言うが、入ってきた人物は仮面の男ではなく銀灰色の髪の美形。

「来ますよ。協定者でなくなったとはいえ、妻を戦場に送りだして安穏としている無情な男だと思ってるんですか?」

「そういうのはヘルメットギアと一緒に捨てたってか」

「うるさいし、剣王。ゼムナ革命の終盤じゃパパに泣きついたくせに!」

 挑発的な赤い瞳の女性がリューンに噛みついていく。

「開口一番喧嘩売ってくんじゃねえか、小娘」

「黙らせないと好き勝手言うし」


 じゃれ合っている二人は置いておいて、ユーゴは男に近付き握手を求める。柔らかさの中に鋭さを秘めた美男子はすぐに応じてきた。


「あなたが魔王なんだ」

 話には聞いていたが冷徹な人物には見えない。

「だった、ですね。ジェイルです。今は片田舎で暮らすただの男ですよ、ホワイトナイト」

「ただの男の手際だとは思えなかったけどね」

「お気に障ったことでしょう。同じ協定者だとは思いたくなかったのでは?」

 苦笑の影に警戒感がにじむ。

「目的のために冷たく徹する手段は有効だと知ってる。僕も使った手だからね」

「そうでしたか。君を一番気にしていたのは独りよがりでしたね」

「最初から干渉する気はなかったんだ。あの頃のゼムナはどうしようもなかった。剣王が狙いを定めていたから動きはしなかったけどさ」


 話しているうちにピリピリする感じは失われていった。それと同時にジェイルの足に隠れて見上げてくる子供に気付いて笑いかける。


「あんたはどうなってんだ、魔王? ちゃんと老いぼれろよ、まったく。ハイエイジを卒業したばかりみたいな顔しやがって、もう四十近いんだろうが」

 リューンの皮肉にジェイルは「三十九ですよ」と肩を竦める。

「その坊主は息子か?」

「ええ。挨拶しなさい、ハイノ」

「あら、可愛い」

 出てきた子供がぴょこりと頭を下げる。


 女性陣が寄ってきて次々に少年を抱きしめる。銀髪に赤銅の肌の美少年は人気者だった。


「いくつ?」

「五歳。だれー?」

 たどたどしさの残る口調で尋ねる。

「ラティーナよ。こっちの人はフィーナ」

「綺麗な人ばっかり」

「あー、最高!」

 可愛いさかりの美少年は話題の的。

「身内にしたい。うちの子をもらってくれない?」

「あっ、ずるい。わたしの娘もかわいいよ?」

「大人気だね?」

 当のハイノは彼が気になるらしい。


 仕方がないだろう。父親のジェイルは170cm少しといった普通の体格。対してユーゴは2m近い屈強な身体をしている。抱きあげてやると真新しい視界にみるみる笑顔になった。


「楽しいかな?」

「すごい! 高い!」

 声が弾んでいる。

「よし、うちに婿入り決定!」

「だめー! コリネのほうが歳が近いでしょ?」

「あー、うちの子も連れてくればよかった」

 ガルドワには預けておく場所がいくらでもあるし、ブラッドバウにしても似たような事情だろう。

「おい、シルヴィーネはもう十一とかじゃねえか?」

「十二歳。少し年上くらいがいいでしょう。結構ワイルドに育ってしまったけど」

「そうなの?」

 フィーナは不思議そうに問う。

「だって、ユーゴったら普通に兄弟で雪原の一軒家に一ヶ月とか放りだしてしまうんだもの。逞しさばかりが増しちゃって」

「あれでいいんだよ」


 子育てにおける彼の持論である。大企業国家で生き残るには大自然で生き抜く度胸も必要だと思っている。


 ハイノを中心に彼らはひとしきり子育ての話題で盛り上がっていた。

次回 「彼らも慌ててる、リヴェル?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……またもや、天然女誑し!?
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