開く扉(1)
ユーゴ・クランブリッドが妻のラティーナ・C・ガルドワをともなって操縦室に入ると、席のひとつを一人の青年が占拠している。オレンジ髪の男は彼に気付くと手をひらひらとさせた。
「よぉ、ホワイトナイト。久しぶりじゃねえか」
傍らの金髪の女性に無作法をとがめられている。
「いいですよ、フィーナさん。いつものことです。本当に久しぶりだね、剣王。忙しそうで何より……、じゃないか。君が忙しいのはどうもよろしくないかな」
「だろ? 勘弁してほしいもんだぜ。今回もクソみてえな連中が徒党を組みやがってよぅ」
「あなたに年相応の落ち着きを期待するのは無理そうね、リューン・バレル」
ラティーナは鼻を鳴らす。
「やめてあげなよ、ラーナ。彼が紳士に化けていたら気持ち悪いじゃないか」
「それもそうね。前言撤回してさしあげます」
「言ってくれんじゃんよー」
それでも一番乗りでこの場にいる。粗暴な振る舞いが板についたリューンだが、妙に律儀な一面を持っているのをユーゴは知っている。
国際軍事組織『血の誓い』が扱う案件にしても、ガルドワが絡んでいれば必ず事前に伺いを立ててくる。そんな部分に好感を抱いていた。
「ラーナさんも久しぶりー」
夫の頭を一つ叩いたフィーナが舞うように駆けて妻に抱きつく。
「フレニオン越しにはよく話しているけど、ちゃんと会うのに比べると味気ないもんね?」
「ええ、会えてとても嬉しいわ。あなたはいつまでも少女みたいで羨ましい。仕事に忙殺されて年を取っていく私とは違うみたい」
「そんなことないよ? 美しさと気品は深みが出てきてるもん」
妻同士は話が弾むようだ。二人にしておいて、ユーゴは剣王の元に歩みよる。表示させてあるパネルを覗きこんだ。
「また増えてるかな?」
「ああ、業突張りどもが雁首揃えて集まってきやがった」
◇ ◇ ◇
進宙歴514年。ゴートを祖とする人類は訪問を受けた。彼らとは起源の違う人類がやってきたのだ。
それも未確認のジャンプグリッドを抜けてきたのではない。任意の地点に跳躍が可能な超光速航法を備えた船団で。相手はゴート系人類を超えるテクノロジーを持ち得ていた。
ただし、侵略を受けたのではない。星間銀河圏の代表と名乗る派遣団は、星間管理局の局員であるといい、彼らに友好的な関係を求めてきた。
そして、星間銀河圏の一員として社会を広げないかと持ちかけてきたのだ。もちろん技術的な交流も促進し、任意な超光速航行システム『フィールドドライブ』を無償で提供するという。
寝耳に水の申し出にゴート系人類圏の各国政府は慌てふためく。超光速航行システムを始めとした各種高度技術は垂涎の的。行動範囲も広がりビジネスチャンスも同じだけ生まれるはず。
ただ、国家としてはリスクも考慮しなくてはならない。技術的に劣るとなれば足元を見られる危険性は捨てられない。慎重な対処が必要。
しかし、派遣団は不安を打ち消す説明を各国にしていく。星間管理局はその名の通り管理組織なのだそうだ。政治的意味合いは否定できないまでも、加盟各国の航宙安全保障や貿易不均等防止が主な役割であるという。
星間銀河圏では星間管理局の元、各国が自由な政治システムで相互に交流や貿易を行っている。例外を除いて内政干渉もない。円滑な貿易と治安維持を目的とした星間法に触れない限り、独立性は保証されるとの説明だった。
ひと月ほどはどの国も対応に困っていたが、ブラッドバウとガルドワが初めに加盟に賛成すると情勢は大きく傾く。交渉を重ねたのちに加盟に批准する国々が増えていった。
しかし、賛成する者もいれば反対にまわる者もいる。特に覇権を窺っていた幾つかの国が頑強な抵抗を見せる。ガルドワやアルミナ、バルキュラが往時の力を取り戻し切れていない現在、成り代わろうと狙う国も後を絶たない。
そんな国々にしてみれば、新たな社会に組みこまれようものなら国力の関係性がリセットされると考えてしまう。苦労して暗躍してきた努力が灰燼に帰すのが面白くない。既得権益を失いかねない権力者は抵抗の意を示した。
事はそれですまなかった。とある一国が無謀にも訪問団からフィールドドライブ技術だけを盗もうと艦船の拿捕に踏みきる。ぎりぎりで防がれたのは良かったが、星間管理局側に大きな被害が出てしまった。
未遂に終わったこともあり、批准した国々が謝意を表したので彼らは一度不問にしたのだが、その結果が悪かった。護衛に当たっていた彼らの戦力、同様な人型機動兵器だったのだが、性能でアームドスキンに大きく劣ると判明してしまったのだ。
色めきたったのが加盟反対を主張する諸国。彼らは別に技術を恵んでもらわなくとも奪えばいいと暴論を唱える。星間管理局に対し宣戦布告をしてしまう。
それに応じたのがガルドワとブラッドバウ。開戦へと向かう諸国の戦力の前に連合軍を組んで立ち塞がる。そこへ関係各国も戦力を携えて参戦し、対峙の図式ができあがった。
のちに第二次統一大戦と呼ばれる戦争が始まろうとしている。
◇ ◇ ◇
「度胸あるよね?」
「ああ、馬鹿の集まりにしか見えねえんだがよ」
二人の協定者はそう評した。
次回 「よぉ、来たか、魔王」




