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謎多き少年(5)

「外憂?」


 分かりにくいだろう。軍の必要な外憂ならば他国との交戦と考えるのが普通。ところがヴォイドの触れた情報の中には交戦状態を示すものはなかったはず。その外憂に関しても最近は身を潜めている。


「外患のほうがぴったりかもしれないわ」

 圧力どころか実害を伴うからだ。

「バルキュラは長い間、宙賊の存在に悩まされているの」

「宙賊。その記述は屋内ネットの深い階層で度々認めたな」

「当然。だって父様が職務として主に対処しているのは宙賊『トゥルーバル』なの。四代の内閣に渡って軍務大臣として入閣しているのは、有権者からの信頼が厚いから外せないだけだもの」

 娘にとって自慢ではある。

「この国は議院内閣制だったな。ヘルムート氏の属する新生党がずっと政権を担ってきているようだが」

「どこの派閥から総理が選ばれても軍務相だけは父様が就いているのよ。それくらい支持があるの」


 大きな問題を抱える中で主導的役割を担う者がころころと代わるのでは軍の統制が取りずらいというのはミザリーにも察せられる。しかし、身内贔屓を除いても父が選ばれるのは成果を挙げ続けているからだと思っている。


「氏は主導者として優秀なのだな」

 堪能になったコンソールの操作で少年は父の功績に目を通していた。

真なるバルキュラ(トゥルーバル)か。尊大な名付けではないか」

「認めたくないけど筋はあるの。実はトゥルーバルは軍事政権の残滓みたいなもの。大戦後に彼らが出現した時は、逃亡した一部の宙士が徒党を組んでいるだけだった。それが今では大艦隊さえ保有する規模な組織にまで成長してしまっているの」

「奇妙な話だ。戦艦やアームドスキンは降って湧くようなものではない」

「それは……」

「周辺諸国にはバルキュラの復活と台頭を良しとしない国家もあります。裏から支援して国力を削ごうとしているというのが公然の秘密のようなものになっています」

 言いづらそうにしたミザリーの後をジビレが継いでくれる。


 それが現実。中小国家にしてみれば、バルキュラに虐げられてきた印象があまりに強い。民主政権に変わったとはいえ、国力を取りもどせば再び野望を抱くのではないかと懸念しているのだ。

 恨みと相まって、それは具体的な行動となって表れていると思われる。表向きは握手をしつつ、背中に置いた手は拳を握っていたりするのが国際社会の一面である。


「難儀なことだ。名目上の敗戦国が復興を成し遂げたのは先人の知恵の賜物か」

「そう言ってくれると嬉しいな。父様の属する新生党は、新しいバルキュラと平穏で豊かな国民の暮らしを目指して頑張ってきたんだもの」

「だからこそ市民の支持を得て長期に政権を負託されているのです」

 ジビレも愛国心の片鱗を見せる。

「それだけにトゥルーバルの活動には苦い思いとともに痛みを感じているんですから」

「うむ。しかし、戦後の復興期はともかく、市民生活が安定してからは討伐を考えてもよさそうなものではないか?」

「それがなかなか困難なのです。激戦だった大戦当時に発生したデブリの量は膨大なもの。それが各惑星のラグランジュポイントへと吹きだまってデブリ宙域と化しています。レーダーを阻害するターナ(ミスト)まで集中して宇宙暗礁化した宙域が多数存在しているので」


 調査は度々行われているとジビレも続けて説明する。軍務庁や軍首脳部の見解では、宇宙暗礁を渡り歩いて資源収集しつつ拡大しているという想定。巨大惑星(ガスジャイアント)が三つも存在するこのオスリカ星系では調査しきれないほどのラグランジュポイントが形成されている。


「ジビレも悔しい思いをしているのよ、ヴォイド」

「どういう意味だ?」

 事情を知らない少年には分からないだろう。

「彼女は元軍人なの。家の事情があって一度退役したけど、元はアームドスキンパイロットとして名が売れていたらしいわ。問題解消後に復帰しようとしたんだけど、父様が無理を言ってうちに来てもらっただけなの」

「いえ、無理にではありません。身に余る報酬と条件を提示いただけました。愛するお嬢様に年齢の近い女性護衛をと思われたのでしょう。私はその思いにも打たれてこの職に誇りを抱いております」

「なるほど。お前もアームドスキンに乗るのか」

 ヴォイドの視線には形容しがたい色が窺える。

「腕は落ちていませんよ。時折り、お暇をいただいて軍の訓練に参加させてもらってます。そもそも二輪車に乗るのと同じで、感覚さえ掴めば身体が憶えているものです」

「勇ましいことだ」


(他の話題だとあまり感情を見せないのに、アームドスキンのこととなると興味を惹かれている印象があるのよね、ヴォイドは。男の子だし、そういうのに興味津々な年頃と言えなくもないんだけど、それだけじゃないような気がするのはなぜかしら?)

 ミザリーには判断がつかない。


 一人娘の彼女にはもちろん男兄弟もいない。政府要人の娘だけあって、交友に関しても制限されて育ってきている。

 限られた友人たちから耳にする噂で得た程度の知識しかないでは、少年の興味の置き所を類推するしかできない。今まさに男兄弟の性質を学ぼうとしているところ。


(でも、ヴォイドは一般的な少年とは全然違っている気もするのよね)


 ミザリーはもしかしたら意味のない学習になるかとも思っていた。

次回 「ミザリー様にはあまりお見せしたくないんですけど」


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 ……またヤヤコシそうな……!?
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