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ゼムナ戦記  過去からの裁定者  作者: 八波草三郎
第三話

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救世主(24)

「これは?」

 ミザリーは不思議な現象に目を奪われている。

『全ての個が哀悼の意を示しています。我らが(あるじ)の最期の意思に応えて、意に沿わぬアームドスキンを殲滅するでしょう』

「レイデ、あなたが? ううん、あなた方が?」

『はい。創造主計画に賛同した個の償いだとお考えください』


 激戦が繰り広げられていた宙域の様相は一変している。今や一方的な蹂躙戦にと移り変わっていた。


(それでも彼はもう帰ってこない)

 勝利を寿(ことほ)ぐ気分になどなれない。喪ってしまったのだ。

(バルキュラ市民の慢心が事態をここまで悪化させたの。ちゃんと宙賊対処を早い段階からしておかなければいけなかった。でも、支配からの解放を喜ぶばかりで今度は平和だけを求めて自衛から目を逸らしたのね。それがヴォイドを殺してしまった。本当は現人類の現況を見てまわらなくてはいけなかったあの子を)

 彼女の中には後悔しかない。


 多くの市民が自覚に至るには時間が必要だろう。ミザリーは促していかなくてはいけないと思った。積み重ねる幸福が不幸を生みださないために。


『リヴェルの子がやってきます』

 思いに沈む彼女にレイデが告げる。

『ガルドワ軍です』

「リヴェルというのもゼムナの遺志? ホワイトナイト?」

『そう呼ばれています』


 バルキュラ軍には戦力が足りず攻撃することでしか勝利へと繋げられない。しかし、圧倒的な物量を誇る軍の到来を知れば降伏に応じる考えも出てくるだろう。


(これはあなたが希望した結末?)

 自由が守られたのは少年の希望に沿うはず。

(でも、わたくしはあなたの手を握ってお別れを言いたかった。ねえ、あなたもそう思ってくれていた?)

 帰投する気配を見せていたヴァオロンの様子を思いおこす。


 ミザリーの頬を濡らす涙は留まるところを知らない。


   ◇      ◇      ◇


「ごめん。遅くなってしまったね」

 ブルネットの髪の青年がミザリーに歩み寄ってくる。


 ガルドワ軍の巨大戦艦『エヴァーグリーン』に接舷したヴァオル・ムルから移乗すると乗員が最敬礼で迎えてくれる。案内された先には2m近い身長の偉丈夫でありながら柔和な空気を纏った青年の姿があった。


「もう決着はついてしまっているみたいだから出撃は控えたよ。部下に処理を任せてる」

 喪失感に苛まれる彼女を支えてくれる。

「僕はユーゴ・クランブリッド。会長から全権を任されてきてるんだ。バルキュラ軍はかなり消耗してるみたいだから、後のことは僕たちでやろう。それでいいかい?」

「申しわけありません」

 彼の声はあまり頭に入ってこない。謝罪の言葉ばかりが浮かぶ。

「あなたの指標となるべき人を我が国は死なせてしまいました。わたくしはどんな批判を受けても構いません。どうか市民を……、彼が守ろうとした人々をお許しください」

「一応の経緯はリヴェルから聞いてる。償わなくてはならないのは人類全てなんだよ。君だけがそんな責め苦を味わう必要なんてないから。さあ、顔を上げて」


 ジビレに支えられて涙を拭いたミザリーは見上げる。そこには優しい色を湛えた瞳が彼女を待っている。協定者の何たるかを心得ている慈悲の瞳が。


(生きていれば彼もこんなふうにななれたかもしれないのに)

 そんな思いが湧きあがってきて、また涙がこぼれてしまう。


 ミザリーはしばらく立ち直れそうになかった。


   ◇      ◇      ◇


 ガルドワの大戦力の前に戦意を喪失したトゥルーバルは半数近くが降伏し武装解除に従った。戦闘艦も多数が拿捕に応じている。


 その後もガルドワ軍は星系内をくまなく探索。手際よく宙賊の拠点を潰していった。

 一掃した彼らにハユ首相は市民の代表として感謝の意を送る。ホワイトナイト、ユーゴ・クランブリッドは歓迎を素直に受け、首相と人類圏の自由と平和に貢献する合意書を交わしツーラへの帰還の途に就いた。


 トゥルーバル討伐戦は、大攻勢発覚から一ヶ月足らずで収束を迎えた。

次はエピローグ1「虹の向こうから」。同時更新しています。

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