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ゼムナ戦記  過去からの裁定者  作者: 八波草三郎
第三話

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救世主(19)

「国民の皆様に喜ばしき報告があります」

 大写しになっているのはオスコー・ハユ首相である。


 祝勝会場となっている娯楽室の中央に大型投映パネルが現れ、そこに政府からの特別会見の様子が中継されていた。映像には主要閣僚が並んで笑顔を振りまいている。


「我らがバルキュラ軍はマスバ上空の衛星軌道を占拠していた宙賊艦隊を撃退に成功。これで無法な軌道砲撃に悩まされることはなくなりました。皆様の協力に感謝するとともに、心安らかにお過ごし願いたいと思います」

 画面外からの拍手の音は集められたメディア各社のものだろう。

「この難題に真摯に取り組み、解決してくれたフェルメロス軍務相にも感謝を捧げたい。そして忘れてならないのは今軌道上にいる艦隊要員の皆さん。君たちは立派に戦い、国民生活を守れたことを誇りに思っていい。君たちの献身を私も誇りに思う」

 首相がカメラを注視していることでミザリーは気付いた。


 予想通りに軍の広報部が入ってきて司令官にインタビューを始める。真面目な彼も市民への感謝から始まり、戦死者への哀悼の表明、負傷者への慰労と続けていく。


「上手いな。ヤカリムの差し金か」

「そうだと思うわ。こうして祝賀のムードに国民が応えていると思わせたら、トゥルーバルがそこに乗りこめば大きな反発があると気付かせられるもの」


 政府の意図するところは彼女の言った通りだろう。国民への公示とともに、トゥルーバルに対する圧力を高める思惑を含んでいる。

 ヤカリム総理補佐官が耳に優しい言葉を並べた後に、各閣僚も現状起こっている問題への対策案を掲げていく。そして、腹心から何やら耳打ちされた外務相の順番がやってきた。


「さらに喜ばしき報告がやってまいりました」

 彼も満面の笑みで告げる。

「ガルドワが我らの要請に応え、救援艦隊の進発を伝えてくれました。あのホワイトナイトがやってきます。正義の協定者が二人集まり、必ずや宙賊を撃滅してくれることでしょう。国民の皆様、どうぞご安心を」

 我が手柄のように宣言した。


 しかし、彼女の横でヴォイドは顔を顰める。祝勝会場にも不穏な空気が流れた。画面内でも微妙な雰囲気が漂っている。


「どうやら無能が混じっていたようだ」

「なにか問題でも?」

 ミザリーにはその意味が分からない。

「反バルキュラ勢力の排除は進んでいるとはいえ、国内に多くの耳は残っているだろう。ガルドワの件はすぐに奴らにも伝わってしまうぞ。無用な刺激だ」

「あ!」

「人気取りに走って、国益にそぐわない行動をすれば無能の烙印も押されよう」

 ヤカリムの表情も硬い。


 外務相は三世議員。お調子者で失言も多いと噂される人物。今回の件は極めつけなので失脚してしまうかもしれないと思う。


「どうやらもう一戦せねばならなくなりそうだ、ナセール」

 少年は渋い顔の宙士に告げる。

「くっそ、マジかよ」

「やっちゃってくれたねぇー。流しちゃったもんはもう取り返せないけどぉー」

「覚悟するしかなさそうですね」

 パイロットたちは諦めムード。

「でも、ここで無理をして占領しても、精強なガルドワ軍が来るのよ。トゥルーバルの戦力程度では抗しきれないのではなくて?」

「強制でも構わない。奴らの軍事体制を法的根拠があるものにしてしまえばいい」

「国民の命を盾に、内政干渉を訴えられればガルドワでも容易に手出しはできなくなってしまうのね」

 気付いて息を飲んだ彼女に、ヴォイドは「そういうことだ」と言う。


(なんてことを)


 少年を少し休ませられると思っていたミザリーは青褪めた。


   ◇      ◇      ◇


 粛々と戦闘準備が整っていく中、再びトゥルーバル艦隊の侵攻が報告される。やはりガルドワ軍進発の報は彼らにここを正念場と思わせたようだ。


「すまない、ミザリー」

 通信相手は父ヘルムートである。

「公表はしていないが、外務相は謹慎処分にしてある。これ以上余計な発言はないと思ってくれていい」

「それより、ヴォイドの状態がよくありません。栄養の摂取もままなりませんし、心臓のほうがかなり悪くてつらそうです」

「私としてはもう戻れと言いたいところだが、お前は彼を置いてはおけないのだろうな?」

 このままでは少年の最期を見なくてはならなくなるのを心配している。

「ヴォイドを看取るのはわたくしの義務だと思っています」

「娘の心に傷がつくのが分かっていても、それを許す父を恨め」

「父様の優しさがあればわたくしは大丈夫です。でも、あの子が不憫で」


 見るからに痩せてきて、時々壁に縋らないと足元も危うげだ。ミザリーやジビレもそんな少年の前では食も細くなってしまいがち。ヴァオル・ムルの艇内は空気が重くなっている。それなのに彼は毅然として勝利への自信をみなぎらせていた。


「つくづく後悔しているよ。こんなことなら私も艦隊に同行すべきだったと」

 それは父としての言葉だった。

「戦闘は現場だけではできません。補給や補充の大切さを身をもって知りました。後方で働いている皆様もその段取りに勤しんでいる父様も同じくらい大変なお仕事だと思っています」

「命を懸けてくれる者への敬意だ。理解してくれて嬉しい」

「帰ったらお話ししたいことがいっぱいです。できれば彼と一緒に」

「祈ろうではないか」


 ミザリーの頬を一筋の涙が伝いおちた。

次回 「そこまで分かっていながらあなたは!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……あぁ、自身の人気取りに走ったのか……。
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