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救世主(16)

 圧力が抜けたようにナセールは感じる。五割増しだった戦力の厚みが一気に薄まったのだ。背中に味方を抱えて押せ押せだったトゥルーバルの勢いが瞬時に減じる。


「これほどかよ」

 少年が現れた効果は絶大。

「仕方がないのぉー。だって、今後ろを見て母艦との間に宙賊の部隊がいたらどう思うー?」

「気が気じゃないですな」

「でしょぉー?」

 ザズの答えにロミルダ隊長も自慢げ。

「だからって、こんなに抜けることないでしょう? どいつもこいつもあの子供にばかり目が行って」

「それはちょっと、みっともない嫉妬が混じっていると思うのぉー」

「うぐぅ! 嫉妬とか言わないでくださいよー!」


 図星なだけにぐさりと刺さる。が、今は戦闘中。精神的ダメージで動きを鈍らせるわけにはいかない。


(くっそぉ! おぼえてろよ、ヴォイド!)

 それも八つ当たりだとナセールは気付いていない。


 トゥルーバルのアームドスキンにとりあえず怒りをぶつけるしかなかった、


   ◇      ◇      ◇


(無人機だと?)


 でたらめな機動は裏付ける材料。しかし、ターナ(ミスト)の散布された状況で明らかに電波制御など不可能な広範囲展開をしている。それは否定材料。


(動揺を誘おうとしているか? だが、それが必要だとも思えん)


 現実に、紫の協定機群は僅か八機で数百に及ぼうかという友軍機を前に一歩も退かない。腕組みをしたままの黄色ラインの機体は全容を把握できる位置に浮遊して、狙撃されたときに回避をしているだけ。


「これほどか」

 オズは奇しくも敵軍パイロットと同様の台詞を吐く。

「だが、やり方がないとは言わん」


 仮に黒ラインが全て無人機だとしても無敵ではないはず。一機ずつ剥ぎとっていけば黄色ラインが出てこざるを得なくなるだろう。


「削るぞ。取り囲め」

 随伴した編隊に指示を送る。


 黒ラインが散開して反撃してきているのをいいことに、編隊は一機を相手どるのが可能。ジェットシールドをかざして突進したドロタフが左脚を失いつつも斬り結ぶ。そこへ殺到した僚機が退路をふさぎ、至近距離でビームを浴びせた。

 神業とも呼べる紙一重で躱した黒ラインは、それで怯んだ一機に狙いを定める。常識外の加速と鋭い斬撃を左腕一本を刎ねられただけに留めるもそれも罠。突破したところへオズを含めた集中砲火が交錯し、一撃が腹部を捉えて爆炎を噴出させる。


「どうだ!」

 数十機がかりとなるが撃破できないわけではないと証明した。

「なに……を?」

「だから無人機だと言っている。替えは利くのだ」

「ぐうぅ……」

 黄色ラインの背後に新たな黒ラインが出現。落胆した編隊へと襲いかかってきた。


 集中を切らした友軍は脆さを露呈。中破していたドロタフは即座に撃破され、改めて包囲陣を敷く暇を与えられずに打ち砕かれていく。気付けばオズ以外は数機を残すだけになっていた。


「僕に構っているのもいいが、たまには味方の様子も見てやってはどうか?」

 黄色ラインが顎で示す。

「もしや?」

「閣下、友軍はかなり陣形を崩されております」

「く……、劣勢か」


 崩されているというのも遠慮した表現だ。後背を脅かされたアームドスキン隊は一方的に押され、損害を重ねていると見える。胸中に「潮時」という単語がよぎった。


「後退させてもいいのか?」

 それは強がりに近いものだったかもしれない。

「あの数の友軍を貴様は受け止められるとでも?」

「それは厳しい。でも、それなりに削らせてもらう」

「やらせはせん!」


 随伴機に黒ラインを抑えさせると、オズはコフトカを黄色ラインに向けた。撤退信号が大出力で発信される中、壮年パイロットは離れ業を見せる。

 両手にブレードを握らせたままで腰のラッチに噛ませた両門のビームカノンを押しあげて時間差で連射。回避しながら接近する協定者に二連の十字斬撃を送りこむ。

 左のブレードを一撃目で弾かれた少年は二撃目を躱し、斬線の隙間にぬるりと入ってくるとビームカノンを向けてきた。


「くうっ!」

 ぎりぎり半身で回避したつもりも、ショルダーユニットの装甲板が粉砕されて流れていった。


(これで十分)

 彼の意図した時間は稼げた。

(やはり本体を攻めれば無人の黒ラインの攻勢は弱められるとみえる。ただ、さっきの受けはなんだ?)

 初戦、次戦でのヴォイドは技量を誇りながらもパワーも感じさせた。なのに、先の一撃では容易にブレードを弾き飛ばされている。


 オズは不審に思いながらも撤退する友軍の流れに合流した。


   ◇      ◇      ◇


「パルタナぁ!」

「うざったいぞ、ナセール!」


 彼の進撃を阻んだのは皮肉にもライバルの存在。当たり前な気がしなくもないが、ここまで来ると腐れ縁を感じる。


「そろそろ決着といかないか?」

「御免だぜ。孤立してまでてめぇと遊んでやる気なんて毛頭ないって」

「ちっ、騙されないってか」

 宙賊に撤退信号が出ているのは彼にも分かっている。

「無理無理よぉー。それでなくたって思いもよらない損害だと思うものぉー。深追いは禁止ぃー。追撃指令はでてないでしょー」

「はいはい、了解ですよ」

「満足すればぁー? ダブルエース君」


(言われてみりゃそうか。オレって結構活躍してるじゃん?)


 敵の反転を警戒しつつ、ナセールは悦に入っていた。

次回 「聞けないな」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 頑張れ!一般人代表!(トップレーサーは一般人なのか!?)
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