表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼムナ戦記  過去からの裁定者  作者: 八波草三郎
第三話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/63

救世主(15)

 戦況は明らかにトゥルーバルに有利な情勢。バルキュラ軍が特に細工もなく接近してきたのも致し方ないだろう。相対静止している大艦隊が衛星軌道から常に監視していたのだから。


(そこまで追いこまれたか? 地上での工作は不振に終わったと聞いていたが)

 オズ・クエンタムも重要なプロセスだと考えている。市民までも攻撃して国を疲弊させては意味がない。

(近隣国の関与を必要以上に高めてしまう。独立性を薄めては繁栄の道は遠い)

 組織にとっても大きな課題であった。


 バルキュラの経済発展を阻害したい近隣国との兼ね合いは難しい。それらの国からの内密な支援は不可欠であれど、トゥルーバルの目的も軍国化による本国の復権。双方ともが相手を利用しようと働きかけてきたのだ。


(戦力はともかく、人口までも減らすのは本意ではない)


 軍事力は組織が成り代わればいいので削り取ってもいい。だが、すでに芽生えた生産力までも奪いたくはない。経済力を維持したまま体制だけ変わるのが望ましい。


(そのためにも小細工を容認してきた。後々排斥する手間がはぶけたと言えんこともない、か)

 オズがそんな考えに気を割いていられるのは後方に下がっている所為。

(怪しい。あの紫の協定者はどこだ? 出てこないわけがない。まさか、現政権と意見が合わずに決裂でもしたか? 堕落ゆえの強欲が災いした可能性も捨てられんか)


「ぬぅ!?」

 思わず声が漏れた。


 宇宙に虹色の泡が出現する。計器も異常を訴えてきた。艦隊に問いかけても混乱した様子で要領を得ない。重力場レーダーの異常反応で騒いでいるだけ。


(これか! あのとき騒いでいた奇妙な現象は!)

 記憶がよみがえる。


 ヴォイドと初めて遭遇したときも観測士(ウォッチ)が重力場レーダーの異常で騒いでいた。彼らは様々な現象に過敏。しかし、人類の持つ高度な技術が宇宙をシンプルにしているとオズは考えている。

 軌道計算や加減速だけで大仕事だった宇宙時代黎明期とは違うのだ。反重力端子(グラビノッツ)やターナ(ミスト)が意味を奪いとってからは、宇宙は目に見える範囲を泳ぎまわる場所になったと観ているのが彼を始めとしたパイロット。


(それだけではないのか? 宇宙にはまだ可能性があるとでも……?)

 壮年のパイロットに何を見せるというのか。


 証明するかのごとき現象が彼の目に飛びこんでくる。虹色の膜の球体の中で色が滲んだかと思うと、そこに紫色の戦闘艇が姿を現した。


「ジャンプグリッドでもないのに空間を超えてきたというのか!」

 協定者の船は人類の技術の枠を簡単に破壊してしまう。

「その(わざ)は戦略や戦術を意味の無いものにしてしまうではないか!」

「それほどではない。少なくとも戦略的にはさして変わるまい?」

「戯言を!」

 少年の声がオズの考えを否定して逆なでする。

「お前たちが敵の足を引っ張るべく背後に工作したように、僕はフィールドドライブで背後にまわる。やっていることは同じだろう?」

「屁理屈を!」


 だが、ヴォイドの台詞も否定はできない。戦闘艇は、トゥルーバルのアームドスキン隊と艦隊の間隙を横切りながら紫の機体をばら撒いていく。ひと際目に鮮やかな黄色いラインで彩られた少年のアームドスキンがその位置に姿を見せただけで戦場の空気は一変してしまった。


(してやられた。あの位置では無視できるはずもない)


 放っておけば艦隊に被害が及ぶ。すぐ背後なら狙いは挟撃だと断じられる。ところが実際には中間位置。機動部隊は戦力を分散させざるを得なくなる。


 虚を突かれて浮き足だつ友軍にオズは歯噛みした。


   ◇      ◇      ◇


 ヴァオル・ムルが離れるのを確認してから戦闘態勢に入る。そこは敵部隊を挟んで裏側の位置。数えきれないほどの黄色いスラスター光がヴォイドめがけて迫ってくる。


(慌てふためき反転するか)

 彼の仕掛けであれど、予想通りに過ぎる反応に軽侮の感情が混じる。

(全体を退き気味にすればよいものを。陣形を薄めればつけいる隙にしかならないと分からないか)

 軍の司令官には前もって作戦を報せてある。この機に攻勢に転じるであろう。

(僕の役割としては既に適っているんだが下がるのも芸がない。削らせてもらおう)

 ヴァオリーを分散させる。


「勝手はさせん!」

 割りこんできた声はあのオズとかいう男。

「止められるなら止めてみせろと言っている」

「ぬおぅ!」


 ヴァオリーの一機を急転回させてぶつける。無人機の機動に反応しきれず、弾きかえされていた。ここでヴァオロンを動かしてまで無理をする必要はない。逆にいえば、もう無理は利かない。


「高みの見物か。卑怯千万」

 よくしのいでいると感じる。

「だから相手をしてやっている」

「自ら出てきて戦え。部下の命を盾にするか」

「まだ気付かないか。それには人など乗ってはいないぞ」

 ヴァオリーからのビームを弾きながら「なにぃ!?」と吠えている。

「僕のコントロール下にある無人機だ。直接戦っていると思え」

「そんなのはあり得ん」

「お前の常識ではな」


(思考に柔軟性が足りない。これも一方的に技術を与えられてきた弊害か?)

 常識が狭い。オーバーテクノロジーゆえにそれを天井と感じているのかもしれない。


 彼らは過ぎた技術に飲まれ、我欲だけを肥大させたかとヴォイドは思った。

次回 「それはちょっと、みっともない嫉妬が混じっていると思うのぉー」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 ……いや、あんたも後方に控えているやん?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ