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ゼムナ戦記  過去からの裁定者  作者: 八波草三郎
第三話

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救世主(13)

 いつの間にか市民団体も鳴りを潜めている。後ろめたい事柄があるのだろう。ミザリーもヴォイドに予め野党やマスコミ、野党の走狗となった市民団体の内情を見せられて落胆していた。今まで彼女がいたのは魑魅魍魎が跋扈する政治の中心だったのに気付かされる。


 トゥルーバルに利するべく、不安を助長する雑音を取りのぞいた少年は市民へと対座する。彼らの心にはまだ不安の種がこびりついたままだろう。


「見たか、お前たちが自分の意見の代弁者だと勘違いして受け入れていた者たちの内実を」

 紫のアームドスキンは見上げる市民を指差してなぞる。

「これが日々の娯楽に目を奪われ、政治から目を背けていた代償である。結果として発信力を持つ者の意見に流され真実を見失っているのだ」

 少年は強く糾弾する。

「宙賊どもは言っているぞ。堕落したお前たちなど怖くない。自身の意見など持たない者は支配してやらねばならんと」

 処置無しといった風情でヴァオロンは肩を竦める。


 全高20mの巨体だというのに、実に生々しい仕草。市民の目にありありと映るだけに効果は倍増するとミザリーも思う。


「これが望んだ自由か?」

 ヴォイドは指摘を続ける。

「過去の大きな戦争で多くの命を失って得たのはこんなものか? 違うだろう? 権利と自由は常にしっかりと抱きしめて大事にしておかなくてはならないものだ。他の誰も守ってはくれないぞ」

 こんこんと言い聞かせている。

「大切ならば自ら求めよ。自分で調べ自分で考え、自らの幸福のために意見を持て。誰かに押し着せられるようなものではない」

 ミザリーにとっても耳が痛い主張。

「考えたうえで政府の方針が違うと思うこともあるだろう。その時は投票という形で大きな声を上げればいい。批判するのも市民の自由であり権利。それが民主主義というものだ」


 少年は滔々と語る。生まれて間もないはずなのに、その主張は成熟している。彼に詰めこまれた知識の数々はナルジアン、先史文明のもの。爛熟した文化が語らせていると思われた。


「そんなのは無駄だと言いたい者もいよう。確かに一人ひとりの力は小さい」

 市民の胸にわだかまる思いにも言及する。

「だが、個々人の考えぬいた意見はきちんと届くところへ届く。全てをくみ取れるわけではないが、最大公約数的な幸福を実現するべく努力しているのが政府だと信じるがいい」

 彼も父や総理の姿勢に何か感じてくれたのだと思いたい。

「違うと思うなら選挙で示せ。それが多数の意見を反映させる仕組みなのだから。無論、少数派であれど不遇を囲う必要はない。今の社会には個人が主張を広められるシステムがいくらでもある。強く願うなら利用すればいい」


 厳しくも優しい言葉の数々が広がっていく。難しい話ではなく、当たり前の、でも時々は思い出さなくてはならない真実へと切り込んでいっていた。


「それだけでは解消できない問題もある」

 ヴォイドの言葉が方向性を少し変えた。

「ちょうど今のような状態だ。トゥルーバルは別の思想を持ち、この国にとってそれが正しいと信じて攻撃してきている。民族性が関わるので正誤は僕には判然としないが、現在のバルキュラの国益にはそぐわないものだ」

 社会情勢も理解してきた少年。

「こればかりは自ら自由や権利を守ろうとしても無理だろう。彼奴らは武力を背景に成し遂げようとしている。こんなときに頼れる者は誰だ?」

 在り方を問っていたこれまでと違い、彼はヴァオロンを徐々に降下させて身近な姿勢を見せようとしている。

「軍である。彼らはこういうときのために日夜努力を続けてきた。一度の敗戦をなじるのではなく、市民を守ることに矜持を抱く戦士を快く送り出してやれ」

 今は宙賊スパイの捕縛に飛び回っている機体を示す。

「誰かを守る。これがアームドスキンの正しき姿だ。自らの思想を無理強いするために行使するトゥルーバルとは違う。そんな奴らを僕は許さない」

 力強く握られた拳が掲げられる。

「次は負けないと誓おう。お前たちに真実のアームドスキンの姿を見せるために僕は戦う。必ずやこの国の安寧を守るべく全力を尽くす」

 思いの丈を語り尽くしたらしく、ヴォイドは再び腕を組む。

「信じて待て。希望を捨てないかぎり、祈りは戦士たちの力になる。彼らは自由主義社会の守護者として未来への道を拓くであろう」


 語り終えた少年を中心に拍手の輪が広がっていく。協定者が保証する未来を信じて祈りを捧げる者もいた。称えるように両手を掲げ、歓呼の声をあげる者もいる。


「我らが救世主、協定者ヴォイド! どうか救ってください!」

「バルキュラの未来のために戦ってくださってありがとう!」

「信じて待ちつづけます! 救世主よ、ご健闘を!」


(空気を変えてしまった。後ろめたさにさいなまれていた市民に彼は希望を与えたのね。自らの努力を忘れず、しかるべき人を信じていれば不安を振り払えると)

 普通なら不遜な口調も、今は威厳に感じられる。

(ただ、もう負けられなくなった。ねえ、大丈夫なの、ヴォイド?)

 空気は変えられても戦力比は変えられない。


 自ら追い込むために言葉を弄したとミザリーは思いたくなかった。

次回 「さて、どうすんだよ、協定者?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……アームドスキンの”正しい姿”? ……確か[殴り、蹴飛ばし、踏み潰す]為に……!?
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