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救世主(9)

「いざ被害が及ぶ可能性が出てくると騒ぎたてるか」

 無責任な論調をヴォイドは見くだしている。

「こういったものなの。それでも彼らには数多くの自由が与えられている。批判するのもその一つ」

「わたしには好き勝手ほざいているとしか聞こえませんけどね」

「僕にもそう聞こえるぞ、ジビレ」

 辛辣な女性護衛に少年は賛同する。


(これも正しい姿だと説明するのは難しいわ。わたくし自身が不平を感じているんだもの)

 ミザリーも本心では賛同したいところ。

(父様や総理がいくら頑張ってもなかなか評価されることはないのよね)

 言葉に詰まりながらも少年に現実を伝えなくてはいけない。


「野党や報道メディアは政権のやること為すこと批判していればいいと思っているきらいがあるのです」

 ジビレに先を越された。

「知識人やコメンテーターの中には政権批判が自分たちの役目だと公言している者までいるんですよ」

「公正中立を謳っておきながら、国益をないがしろにして批判に終始しているのか?」

「その通りです」

 彼女はこの際にわだかまりを全部吐き出しかねない勢い。

「わたくしの立場を思って言ってくれるのは嬉しいわ、ジビレ。でもね、ヴォイド。誰かが政権を監視していないと危険でもあるの。批判的な視点で見つづけるのも必要なのよ。それが民主主義というもの」

「正しいものを正しいと言えないのは人民に主権がある状態とも思えないが」

「思っていても表だっては口にしない人が大多数だとわたくしは考えているの。そうでないと父様のいる新生党が政権を担いつづけていたりできないはずだもの」

 ヴォイドは「ふむ」と考えこむ。


(上手に伝えられない。それができるようになったら自信もって大人だって言えるのかも)

 ミザリーはそんなふうに思う。


「どうも腑に落ちないな」

 少年は眉根を寄せる。

「国体の維持が国民の優先事項だなどとは言わない。国民あっての国だ。だが、有事においても批判が役目か? 僕には自身が乗っている船の外殻にドリルを突き立てているようにしか思えない。彼らは気密が破れれば自分も死ぬのだと理解できないのか?」

「それは良い例えです」

「ジ・ビ・レ! もう!」

 フォローしきれなくなってきた。

「色んな可能性を探る一助になる意見でしょう、批判も」

「もし、より良い対応策を提示できるのならばな。文句を言うだけなら子供にもできる。それは議論とは言わない」

「うー……」

 ぐうの音も出ないとはこのこと。


(はぁ、大人への道は遠いわ)

 悲しくなってきた。


「宙賊のパイロットが民主政治を堕落だと言っていたのもあながち間違いでもないのかもな」

 ヴォイドは不穏なことを言う。

「まあいい。どうにも裏がありそうな気がするが後回しにしよう。他人の役目を論じる前に、まずは僕の役目を為さなくてはならんな」

「君の役目?」

「レイデ、一応は警戒しておけ」

 質問は浮いて流れていく。

『了解いたしました』

「ジビレも出撃できる態勢は整えておいてくれ」

「はい。どこかへ向かうのですか?」

 少年は「野暮用を済ませてくる」と言って操縦室を後にした。


 ミザリーが窓外を覗いていると、二機のヴァオリーを従えてヴァオロンが飛び去っていった。


   ◇      ◇      ◇


(メルシュタッキン総理補佐官、あの女、絶対に疑っている目だったぞ)

 遊興相ヌワサン・ポトマックは脱出準備を急いでいる。


 表だって追及されるのは構わない。なんとでも言い逃れしてみせるつもりである。ただ、派閥の長であるオスコー・ハユが子飼いの調査機関を動かすと面倒なことになる。


(身分工作を徹底していても、繋がりがある以上はどこから漏れるか分からん)

 派閥争いにも積極的に従い、忠誠を示してきたとしても、だ。

(やはり出発前に一報入れておかないと撃墜されるかもしれんな。総統閣下は俺の働きを理解してくれているだろうが、末端まで伝わっているとは思えん)

 速やかにトゥルーバル艦隊に逃げこみたいが、行くも危険であるのは否めない。


 彼の一族の役目はバルキュラ国内に戦闘員養成機関を作り上げること。その戦闘員を軍内部、もしくはそれに準じる部署に配置しておくこと。

 遠大な計画の中でアタックレースに目をつけたポトマック一族は一大事業として推し進めることに成功。それを予備役扱いにするところまで実現した。

 そしてヌワサンの代で事業への影響力を買われて管轄大臣の座を手に入れる。さらに戦闘員をレーサーに仕立てあげるとともに軍の情報収集に手を広げ大攻勢の成功へと繋げられた。


「急げ急げ。さっさと繋がれよ」

 超空間(フレニオン)通信機を扱いながら独り言をつぶやく。


 しかし、彼の希望は叶わない。破砕音がしたかと思うと、電磁波にさらされた頭髪が静電気を帯びたかのように逆立つ。次の瞬間には、室内にいたはずのヌワサンの頭上には青空が広がっていた。


「なんだぁ?」

「逃がすと思うか?」

 覗きこんだのは紫色のアームドスキンの頭部。

「死にたくなければ抵抗するな。義に反した内通者などに加減をしてやる気などないぞ」

「だっ、貴様、まさか!」

「ヘルムートを困らせるな。あれも大事な理解者なのだ」


(やはり協定者! なんでこんなところに?)


 恒星(オスリカ)の光が、邸宅の天井を削いだ力場刃を通して降り注いでいた。

次回 「戻った。土産だ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 おぅ、以外と早く動いたな? まぁ、[善行は急げ、悪行は更に急げ]ですな……。
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