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ゼムナ戦記  過去からの裁定者  作者: 八波草三郎
第二話

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34/63

破壊者(20)

(自らを無知と言ったな)

 その意味をオズは読み解く。


 つまり、この少年はバルキュラの市民ではないということになる。何らかの理由があって本国を訪ね、初めて触れた堕落の象徴アタックレースに不信感を抱いてあの事件を起こしたのだと思われた。


 だからこそ説得に及んで融和の可能性を見出そうとしたが応じる気配もなかった。それどころか彼らトゥルーバルの崇高な理念を否定してくる。それだけはこの戦士も許しがたい。

 何か頑なな部分を感じるもはっきりとはしない。ただ、敵対してくるのは明確となった。できるならば避けたかった強敵の出現となる。


「我が名はオズ・クエンタム。記憶に刻みつけてもらおう」

 放つ横薙ぎの斬撃は残像を刻むのみ。

「不要だな。ここで消えてもらう。まあ、死出の土産に持たせてやろう。僕はヴォイド・アドルフォイ。協定者だ」

「ぐぅ! それは!」


(協定者だと? こんな場面で一番耳にしたくない肩書を。天は我らを否定しようというのか)

 理不尽に怒りがふつふつと湧いてくる。


 このままでは栄えあるバルキュラの名は歴史の波間に消えていくだけ。阻止しようと耐えがたきを耐えて雌伏の時を過ごしてきたというのに、いざというときに立ち塞がってきたのが正義の象徴ときた。広まればトゥルーバルの正当性に疑念を抱かれるのは必至である。


「それだけは受け入れられん! ここで墜ちてくれ!」

「やれるものならな。言うは易し。行うは難し」

 ヴォイドは巧みな操縦で彼の猛攻をものともしない。

「さすがは協定者と言っておこう。だが、やらねばならんときもある」

「揺るぎない姿勢には敬意を持てる。芯に据えるものを誤っているだけだ」

「言わせんぞー!」


 渾身の斬り落としも頭上にかざした透過性のブレードでがっしりと受け止められる。腰だめの射線を転回して躱し、ストロークを稼いだ斬撃さえ振り下ろした刃に簡単に弾かれた。

 まるで壁である。紫のアームドスキンが秘めている強靭なパワーの前にオズの攻撃は微塵も通じない。強化したコフトカでこれならば、ドロタフでは相手にならないだろう。


(事実、もう限界というところか)

 少年を突破口にして攻勢を強めたバルキュラ軍は彼を孤立させんばかりに押し戻していっている。

(本隊と合流して本格的な大攻勢での決着に持ちこむしかないか。ならば、ここは恥を忍んでも引き下がるべき)


 強引にビームカノンを捻じこむ。少年はその砲身を斬り裂いて前に出ようとしている。しかし、彼の操るブレードもビームチャンバーを貫いていた。

 解放されたエネルギーはカノンを飲みこんで光球へと変わる。その向こうに敵の機影を見ながらオズは反転した。


「勝負は預ける。次にまみえる時こそ雌雄を決しようぞ」

「捨て台詞だな。まあいい。今日は僕の情報を土産に持たせただけにしておこう」


 協定者の少年は追撃してこなかった。


   ◇      ◇      ◇


「撤退するみたいですよ、隊長」

 ザズがビームカノンを振り回して示している。

「みたいねぇー。深追いは無しよぉー。後ろに本隊が控えているのは分かっているんだからさぁー」

「了解です。何とか持ち直しましたね?」

「最初は退きどころを考えなきゃって思ってたんだけどぉー」


(はぁー、今日はいいとこ無しだったな)

 ミザリー嬢が来ているというのに何一つ見せ場がないときてる。ナセールは不甲斐なさを嘆くしかない。


「撃退はできたんだから良しとしましょう。序盤の苦戦は情報分析班に任せて」

 戦友は呑気なもんだ。

「そのくらいの手土産がないと立つ瀬無いものねぇー。勝たせてもらったようなものだしぃー」

「たしかに協定者様々ですからね」

「一人で引っくり返しちゃうんだもんねぇー。ほんとに伝説の存在? まあ、ずいぶんと可愛らしい救世主なんだけどぉー」


(救世主か……。太刀打ちできるわけないってのに、なんか認めたくないんだよな。あー、もやもやするー!)


 ナセールの不満は歯軋りとなってコクピットに響いた。


   ◇      ◇      ◇


「ご苦労さま。大活躍だったわね」

 ヴォイドが操縦室まで戻るとミザリーが労いを込めて抱きしめてくる。


 ヘルメットは脱いでしまっているが、スキンスーツまで脱いでいるわけではない。彼の顔は柔らかなパットの隆起に埋もれてしまう。双丘の感触にじかに触れているのではないものの、その奥に感じる柔らかさに戸惑う。そうでなくとも、それ以外の部分がソフトに密着しているのだ。


(どうもこの娘は無防備に過ぎる。僕を子供だと思いたい意識の表れか)

 ジビレは素知らぬ顔で無重力タンブラーの口に吸いついているので、ミザリーの普通の行動なのだと思う。彼女のほうが勝手を知っている。


 褒め言葉に礼を返すとともに身体も押しのける。友軍の状態が気になって、キャノピーの向こうが見えるところへと歩を進める。


(困ったもの……だ?)

 急に酩酊感が押しよせてくる。

(なに?)


 知らず膝をついている。そのままヴォイドの意識は暗黒に飲まれていった。

次は第三話「救世主」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 ヴォイドは[協定者]を積極的に言うのですね?
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