破壊者(19)
ヴォイドの認識領域にはヴァオリー八機が得た観測データが統合されて送られてくる。そこから判断して攻撃目標と動作パターンを割り振っていく。それらを数ミリ秒単位で処理しているのだ。
厄介な敵の出現に彼は二機の子機を向かってくるコフトカに割り当てるが、周りを固める敵機がジェットシールドで進路を強引に開ける。瞬時に無理と判断した少年は他の子機に戦闘宙域の確保を行わせた。
寄せくる敵の中へと侵入して泡が膨らむように戦闘範囲が確保される。ヴォイドに続いていた軍の編隊も加勢して泡にかかる圧力も弱まる。それでヴァオロンの戦闘準備が整った。
「貴様はいったい何なのだ?」
ヴァオリーの攻撃を掻いくぐってきた手練れ。応じなければならないかと思う。
「どういう意味か?」
「アタックレースの件だ。あれを堕落と判断したからこそ壊そうとしたのではないか? 貴様が何者かは知らん。が、それならば我らに共感すべきところがあるはずだ」
「それは不可能。盗賊行為などに加担する気などない」
トゥルーバルに対する認識はそれだけ。
「生き永らえる術に過ぎない。我ら、真なるバルキュラの真意は別にある」
「分からなくもないな。はったりで名付けたわけではなかろう」
真なると名乗る以上、現民主政権を偽りの国家形態と考えているのだろう。彼らが旧政府の残党なのは彼も知っている。現在の在り方を問おうとしているのだと思われる。それが組織全体に浸透しているかは別の話だが。
「同じに感じているのではないか? 本国の堕落を」
攻撃意思を見せない相手に、少年も手を止めている。
「堕落と謗るならば自戒も必要なのではないか? 記録を見た範囲では民間人の対する残虐行為も多々見られる」
「否定はせん。だが、厳しい環境に甘んじる同胞を規則でがんじがらめにすれば持ちはしない。ある程度は見過ごすしかないのだ」
「欺瞞だな。そこに見え隠れするのは我欲の発露でしかない」
コフトカの腕がピクリと反応する。図星を突かれたか、見て見ぬふりをしていた部分に切り込んだ所為だろう。
「それでもやらねばならんのだ。このままでは本国は衰退の一途を歩むだけ」
あくまで目を逸らすという。
「衰退か。旧時代を夢見るお前たちには栄華を極めた国の姿が理想だと思っているのだろう。しかし、国民は今もそれなりに楽しんでいるぞ。アタックレースもその一つ。あれを我欲の象徴と断じたのは僕の無知ゆえのことだ」
「国力が落ちているのは現実。実際に周辺国家は我らがバルキュラの繁栄を厭い、押さえこもうと腐心している」
「その余勢を駆っているのは誰だ? 理屈が破綻している」
即座に持ち上げられたビームカノンの砲口が光を放つ。予想していたヴォイドはヴァオロンを射線から外した。
この男の中でも矛盾は渦巻いていると思われる。そこを刺激されるのは勘弁ならないというところか。例え正論であっても。
「国力なくば他国につけこまれ、蹴落とされるのだ。それが宇宙の版図を広げた人類の在り方」
ビームブレードが展開されコフトカが加速してくる。
「惑星国家が主なら領土に大差はない。国力と直結しないのならば力をつけるしかないのだ」
「力とはなんだ?」
「軍事力だ。怖れを抱かせてこそのバルキュラである。初心に立ち戻れば再びの繁栄が約束される。国民にそれを思い出させるのが我らの使命」
軍事政権こそが正統と主張する。
剣閃から身を逸らすとビームカノンで狙う。コフトカはシールドで斜めに弾き、手首を捻ってブレードを返してきた。ビームの反動制御を外して機体を流す。ゆとりが生んだ体勢から鋭い突きを放った。
「初心を忘れているのはどちらだろうな?」
少年は言葉も突きつける。
「歴史に見るバルキュラ国民は真摯だった。この惑星を故郷とすべく必死に働いていたのだろう。軍事力はその一助でしかなかったはず。手段を本旨にすり替えたのでは真の繁栄などないのではないか?」
「すり替えてなど断じてない。ならば、享楽に身をやつす今の姿を正しいとでも言うか?」
「正解など無いんだろうな」
身をかがめて躱した男は切り返してくる。
「見たことか!」
「でも、人が人として優しくあれる社会になっているのは間違いないと思う。見知らぬうえに誤った僕を寛容に受け入れてくれたのは、今の社会に属する周囲の人間なんだからな」
「甘い!」
男は肘でヴァオロンを押しやり、ビームカノンを向けてくる。少年は機体を流しながら筒先を蹴りあげた。光芒は彼方を穿ったのみに終わる。
「民衆の愚行を正せない体制など堕落を生むのみ。ぬるま湯は人を弛緩させる。私がそれを示してみせよう」
「僕を前にして大言壮語を。それを力と言うなら討ち果たしてみせるがいい」
「無論だ!」
(自分が駆られているのが妄執だというのに気付いていないのか? アームドスキンをその道具と考えているのならば、このまま使わせておくわけにはいかない)
ヴォイドはトゥルーバルを主敵と定めてヴァオロンに攻撃信号を送った。
次回 「まあ、死出の土産に持たせてやろう」




