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破壊者(18)

(分析されてるか?)

 ナセールはそんな感覚が拭えない。


 可能性は無くもない。宇宙空間での演習は月に一回から二回は行われる。重力場レーダーに検知されないくらいの小型のプローブを浮かべておけばいい。現在の光学観測技術なら後から解析もできる。アタックレースに至ってはローカルネットで放映されている。録画分析し放題だ。


(隊長の攻撃には手こずっているみたいだしな)

 彼女は宙士レーサーではないのでデータ量が少ないかもしれない。

(そのお陰でうちの中隊の戦列は崩れてないけど、他は押しこまれているところもあるな)

 それだけロミルダの腕が立つのも確か。


 どこまで持つか微妙な情勢である。切り崩される中隊が出てくれば一気に乱戦にもちこまれそうな気配が濃厚。優位性は失われる。


(機体性能でも劣ってないじゃん)

 作りの粗い機体を腕でカバーしているふうはない。

(生産拠点くらいはどこかに有ってもおかしくない。でもさ、技術開発ってのは簡単じゃないって上の連中は口を酸っぱくして言ってる。後方を見下したりさせないような方便かもしれないぜ。が、なんか妙だ)


 バルキュラの繁栄を善しとしない周辺国家が意図的に流出させているにしても進んでいると思う。軍も十年前まではゼムナの技術支援を受けていたし、今はガルドワから買っているのだからほぼ最新のはず。


「行ってるぞ、ナセール」

 ザズの警告。

「見えてる! 前掛かりになったぞ。どこか崩れたか?」

「ところどころ侵入されてる。分断されるぞ」

「隊長、乱戦もやむなしって感じですけど?」

 部隊回線に吠える。自動でボリュームが下げられている他の部隊の交信が騒がしくて混乱していると分かる。

「仕方なさそうねぇー。フォーメーションは守っててねぇー」

「了解でっす!」


 戦列維持のための無理な連携を解除すれば動きには幅を持たせられる。しかし、抜かれれば後ろに母艦がいるし、その後ろには本星。綱渡りになってしまう。


「こんのー!」

 ビームを掻いくぐってきた敵機がビームブレードを斜め下から一閃させてくる。ナセールは機体を捻ると回転そのままに踵回し蹴り。頭部を蹴り飛ばし、突きつけた砲口からの一撃で貫いた。


(やっと一機かよ! こんな戦績で昇格狙ってるか言えないじゃん!)

 宙士レーサーならではの曲芸じみた機動で撃破に持ちこんでも敵は怯む気配もない。次々と押し寄せてくる。


「ちくしょー!」

「ザズっ!」

 二機に挟まれた戦友は防戦一方。

「待ってろ!」

「俺だってこのくらい!」

「無茶すんな!」


 肘打ちでカメラを潰されつつもザズは相手の胸に蹴りを放つ。後ろのドロタフに肘を跳ねあげて衝撃を与えると反転し、ブレードで両断する。しかし、背後の敵機はすでに照準を定めていた。


「ザズー!」

「くおぁー!」


 吠えたところで反転は間に合わない。絶体絶命だと思われた瞬間、相手は横からの砲撃にさらわれていった。胴体を破壊されてすぐに爆炎に飲まれていく。


「隊長?」

「違うわよぉー」

 迫っていた敵部隊が紫のアームドスキンに駆逐されていく。

「何をやっている」

「お前かよー!」

「崩す。ついてこい」


 黒いラインのアームドスキン、ヴァオリーに続いて黄色いラインのヴァオロンもやってきた。敵を一掃した空間を悠々と切り裂いていく。


(くっそー! ミザリーさんに恥ずかしいところを見られたのかー!)

 ヴォイドに注目していただろうことは否めない。


 悔しい気持ちを引きずったままでナセールはペダルを踏んだ。


   ◇      ◇      ◇


(思ったより苦戦している。それほどの敵か?)

 ヴォイドは押され気味の戦列を見渡す。


 自身の目に併せヴァオリーからの観測情報も含めて、戦況をマップ化したイメージ情報が頭に流れこんでくる。劣勢なのは間違いない。

 だからと言って友軍のアームドスキンが不甲斐ないとも言えない動きをしている。相手が上手をいくというよりは見透かされている印象が強い。


(何かあるな)

 そう感じる。

(状況を完了させるには軍の力も不可欠。このままずるずると負けこんでいくでは困る。調べる必要がありそうだ)


 ドロタフはもちろん、コフトカという発展型でもヴァオリーの敵ではない。もっとも無人機の加速や無茶な機動についてくる機体など、同じ無人機でないとあり得ない。数を頼りに踏み込んでくるようでなければ怖ろしさはない。


「待ってぇー。速い速いー」

 妙に甘ったるい響きの声が追いかけてくる。

「ついてこいとか言っておいて出鱈目な加速をするなよ」

「掃除をしろという意味だ。真後ろについてこなくてもいい」

 撃破に至らなかった中破機にとどめを刺してくれればいいと思っただけ。

「そんなこと言わないでさぁー」

「場合によっては邪魔になる。下がっていろ」

「やらせはせんぞー!」

 共有回線と言われる周波数に割り込む声。


(やはりいたな。今日ばかりはまともに相手しなくてはいけないだろう)

 コフトカから聞こえてきた声には覚えがある。その敵の接近に気付いていたから下がれと言ったのだ。


 ヴァオリーの制御に全力を向けていたヴォイドはヴァオロンにもビームカノンを握らせた。

次回 「我らに共感すべきところがあるはずだ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 剣舞が上手くても、戦いに強いわけではない……。
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